・・・どうして、このひとは、
こんなにせつないのだろう。
私は? 彼にとって私は?
はぐれている同類?
せめて「愛している」のひとこ
とが欲しい、たとえ刹那でも・・
・・・
彼に、奥さんという人がいるら
しいことは、うすうすわかって
いた。でも、私たちの関係には、
それは、なぜか遥か彼方のよう
な気がした。
もしかしたら、小さな小さな駅
のある町に、すべてを置いてき
ているのかもしれないと思った。
夢をみる。深い夜に、レールの
向こうでたくさんの蛍が光る。
そのうちそれが、紫の羽を持っ
た無数の蝶に変り、なぜか白い
シーツをバックに舞っている。
それを小さな少年が、瞳をこら
して見ている。
横に、なぜかお下げ髪の少女に
なっている私がいて、怖くて
そばにへ行けない。「帰って
きて、帰ってきて」と叫ぶだ
けだ。
目覚めると、寝返りをうった
彼の寝息がかずかに聞こえる。
その体を、私はしがみつくよ
うに抱きしめた。
私たちの営みは肌合いも淡く、
少年のように起伏の少ない彼
の体は、時におそろしく不器
用に思えた。
それでも、私は彼に寄り添う
だけでせつなく、熱いものが
こみ上げた。
その一瞬だけでいいと、いつも
思った。その刹那だけが真実で、
あとはなにもいらない。
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ミルクティー/UA cover.(Vo.Kumi Sato Arr.Hiyoko Takai)
https://www.youtube.com/watch?v=6MjxerN6