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愉しむ漢詩

漢詩をあるテーマ、例えば、”お酒”で切って読んでいく。又は作るのに挑戦する。”愉しむ漢詩”を目指します。

閑話休題373 金槐和歌集  雁のいる 門田の稲葉 鎌倉右大臣 源実朝

2023-10-23 09:38:10 | 漢詩を読む

夕暮れ時、遥か彼方の雲間に、越冬のため南に渡る雁の群れが目に入る。門前に広がる稲田では、そよそよと秋風に稲穂を揺らして、葉擦れの音が微かに耳に届く。実りの秋、豊作を想像させる田園風景である。

 

安寧な田園の環境に身をおいて、心穏やかに秋の収穫を夢想する実朝の姿が思い浮かぶ。心穏やかでない(?)歌に接する機会の多い実朝ですが、このような歌を遺されていることに、ホッとさせられます。 

 

ooooooooooooo  

 [歌題] 田家夕雁 

雁のいる 門田の稲葉 うちそよぎ

  たそがれ時に 秋風ぞふく  (『金槐集』秋・228)

 (大意) 秋の黄昏時、遥かに見る大空には南に渡る雁の群れが目に入る。

  あばら屋の門前に広がる田園では 稲穂が秋風にそよと揺れている。

 [註] 〇門田:家の前にある田。

xxxxxxxxxxxxxxx 

<漢字>  

 田園傍晚        田園傍晚    [下平声七陽韻]  

火焼雲間群雁翔, 火焼雲(ユウヤケグモ)の間に 雁の群が翔(ト)んでいる, 

田園瞭望映金黃。 田園 瞭望(リョウボウ)すれば 金黃(コガネイロ)に映えている。 

威威搖動門前景,  威威(ソヨソヨ)と搖動(ユレ)ている門前の景, 

佳節清商掠稲粱。  佳節の清商(セイショウ) 稲粱(トウリョウ)を掠(カス)めてあり。 

 [註]○火焼雲:夕焼雲; 〇瞭望:遠く見渡す; 〇金黃:黄金色; 

  〇威威搖動:そよそよと揺れ動く; 〇清商:清々しい秋風; 

  〇掠:かすめる; 〇稲粱:稲、穀物、イネとアワ。  

<現代語訳> 

 田園の夕暮れ時 

夕焼雲の雲間に雁の群れが飛んでおり、

田園遥かに見渡せば、一面黄金色に映えている。

門前で そよそよと稲穂が揺れ動いており、

爽やかな時節、秋風が稲を掠めて吹き渡っているのだ。 

<簡体字およびピンイン> 

 田園傍晚         Tián yuán bàngwǎn  

火烧云间群雁翔, Huǒshāoyún jiān qún yàn xiáng,  

田园瞭望映金黄。 tiányuán liàowàng yìng jīnhuáng.   

威威摇动门前景, Wēi wēi yáodòng mén qián jǐng, 

佳节清商掠稻粱。 jiājié qīng shāng lüè dàoliáng.     

ooooooooooooo  

 

実朝の歌の“本歌”とされ、百人一首*に撰された、源経信の歌(下記)に似た情景です。しかし実朝の歌では、宙に翔ける雁の群れが加わり、三次元の世界が無限に広がっています。なお、先に経信の歌の漢詩訳では五言絶句としました(閑話休題196参照)。

  実朝の歌の“本歌”とされる歌:

 

夕されば門田の稲葉おとずれてあしのまろ屋に秋風ぞ吹く 

    (大納言(源)経信『金葉集』巻三・秋・173; 『百人一首』71番*) 

 (大意) 稲穂が黄金色に輝く田園、陽が西に傾く頃になると、爽やかな秋風

  がそよと茅葺の山荘にわたってくる、稲葉の微かな葉擦れの音とともに。

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