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愉しむ漢詩

漢詩をあるテーマ、例えば、”お酒”で切って読んでいく。又は作るのに挑戦する。”愉しむ漢詩”を目指します。

閑話休題414 漢詩で読む『源氏物語』の歌 (二十九帖 行幸)  

2024-07-22 09:23:05 | 漢詩を読む

 

時に雪が舞う十二月に冷泉帝の大原野への行幸が行われた。玉鬘も行列の見物に出かけた。ここで初めて実父・内大臣の姿をみる。帝は、源氏にそっくりな顔であるが、一段崇高な美貌に思えた。

源氏は玉鬘に宮仕えを勧めているが、玉鬘は、後宮の一人としてではなく公式の高等女官になってお仕えすることはよいと思っている。源氏は再び玉鬘に宮仕えを勧め、玉鬘の裳着の儀の準備をする。

これを機に、源氏は、内大臣(曽ての頭中将)に本当のことを知らせようと期しており、内大臣に腰結役を依頼するが断られた。源氏は内大臣の母・大宮を訪れ、玉鬘と内大臣の関係を語る。大宮の仲介で源氏と内大臣は対面し、昔のように心を通じ合った。源氏は玉鬘のことを内大臣に告げた。

源氏と玉鬘の関係を疑う内大臣だが、結局は二月十六日の吉日に裳着の儀は行われ、内大臣は腰結役を果たします。大宮からばかりでなく、中宮からも目と心を楽しませる素晴らしい品々の贈り物が届けられた。

内大臣は、一刻も早く逢いたいと言う父の愛が働き、当日は早く出てきた。単に裳の紐を結んでやる以上のことはできないのであるが、万感が胸に迫る風であった。杯を進められた時、内大臣は、「無限の感謝をお受け下さい。しかしながら今日までお知らせ下さいませんでした恨めしさを添うのも止むを得ないこととお許しください」といった:

 

  うらめしや 沖つ玉藻を かづくまで 

    磯隠れける 海女の心よ   (内親王) 

 

 式場では晴れがましく、父のこの歌に答えることができないと見て、玉鬘に代わって源氏が返歌を贈るのであった。玉鬘の素性が明らかになるにつれ、想いを寄せていた人々の胸の内は複雑になっていきます。

 

歌と漢詩:

ooooooooo   

うらめしや 沖つ玉藻を かづくまで 

    磯隠れける 海女の心よ       (内大臣) 

 [註] ○かづく:貴人から衣服を頂戴する; ○磯隠る:海辺の岩石の陰に隠

  れる。 

 (大意) 玉裳を着るその日まで 隠れていた娘の心が恨めしいです。 

 

xxxxxxxxxx  

<漢詩>   

     喜復恨       喜び復(マタ)恨む    [上平声十一真韻]     

長到穿裳礼, 長じて裳(モ)を穿(キ)る礼に到り,

終于顕隠身。 終于(ヤット) 隠(カク)した身を顕す。 

莫辞斟慶酒, 慶酒(イワイザケ)斟(ツ)ぐを辞する莫れ, 

還恨女兒神。 還(ヤハリ)女兒の神(ココロ)が恨(ウラ)めしい。

 [註] ○穿裳礼:裳着(モギ)の儀式、

<現代語訳> 

  喜びあり又恨めしさも感じる

長じてここに裳着の儀式を迎え、

隠していた身を初めて見せてくれた。

お祝いの酒を注ぐのを辞さないでくれ、

それにしても、これまで身を隠していた娘の心が恨めしい。

<簡体字およびピンイン> 

 喜复恨        Xǐ fù hèn

长到穿裳礼, Zhǎng dào chuān cháng lǐ,

终于显隐身。 zhōngyú xiǎn yǐnshēn.

莫辞斟庆酒, Mò cí zhēn qìng jiǔ,  

还恨女儿神。 hái hèn nǚ'ér shén.   

ooooooooo   

 

 源氏は、「御無理なお恨みですよ」と言い、玉鬘に代わって次の歌を返した: 

 

寄辺なみ かかる渚に うち寄せて

       海女も尋ねぬ 藻屑とぞ見し   (光源氏) 

 (大意) 寄辺なく このような渚に身を寄せた姫君は 海女も採ろうとしない藻         屑のように 誰の目にも留まることがなかったのです。 

 

内大臣は、「もっともです」と苦笑するほかなかった。こうして裳着の式は終わったのである。 

 

【井中蛙の雑録】 

○腰結とは、裳着の儀式の時、袴や裳の腰の紐を結ぶ衣紋奉仕の人。徳望のある人が選ばれた。

 

コメント
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