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愉しむ漢詩

漢詩をあるテーマ、例えば、”お酒”で切って読んでいく。又は作るのに挑戦する。”愉しむ漢詩”を目指します。

ビデオ紀行 3 Niagara (3)

2015-07-14 09:22:10 | 旅行

二日目最後は、バスに小一時間揺られて、ブドウ酒醸造所シャトー・デ・シャルム(Chateau des Charmes)を訪ね、ワインの楽しみ方を聞き、また試飲するツアーである。

筆者は、北米大陸でワインと聞けば、カリフォルニア ワインを思い浮かべる程度の知識しかない。この旅行でカナダも名産地の一つであり、特にアイスワイン(icewine)は欧州のワイン品評会で数々の賞を受けており、世界的に有名であると知り、思いを新たにした次第である。旅はいろいろと教えてくれる。実際、このワイナリー訪問は、オプショナルツアーであり、強いて訪ねることもなかろうと避けていたのであったが、さる都合により参加する機会を得たのであった。

ここで話の都合上、カナダ ワインの歴史についてちょっと触れておきます。

カナダで本格的に商品としてのワインの生産体勢がとられ始めたのは、1960年代後半あたりと、カリフォルニアにおけるより3、40年遅れていて、歴史は浅いと言える。勿論、それ以前に原住民がワインを楽しんでいたとも言われており、また開拓が進むにつれて、キリスト教の布教師も来るようになり、神に捧げる程度の小規模生産はしていたようでもある。しかし1960年頃以降、フランス、ドイツやイタリアの醸造家が入植して、ブドウの栽培および醸造を本格的にはじめ、以後、ブドウ品種の改良、醸造技術の研究など、競って進められ、ワインの品質がよくなっていった。1990年代に至って、カナダ ワインの独特な香り・風味が世に認められるようになった と。

オンタリオ州は、カナダのワイン生産量の85%を占めているとのことであるが、特にナイアガラ半島やナイアガラ‐オン‐ザ‐レイク(Niagara-on-the-Lake)は、氷河に削られた地形・土壌、エリーおよびオンタリオ両湖の存在、及び北緯41‐45度の間に位置することによる気候・風土が、ブドウ栽培・ワイン醸造、特にアイスワインの生産に最適な環境にあり、カナダ独特の風味のあるワインを造り出す基になっているとの由である。因みにブドウ栽培・ワイン生産に関わる気候や土壌を「テロワール(terroir、フランス語)」と一言で表現するらしい。

ツアーで訪ねたワイナリー(winery、ブドウ酒醸造所)は、シャトー・デ・シャルムであった。見渡す限りの平原の中にあり、その佇まいはまさにシャトー(Chateau、フランスのお城または館)である(写真1)。建物正面前の、樹冠が丸みを帯びた数本の木は桑の木であったように思う。建物の中には、ブドウを絞る機械装置や発酵タンクが並んでいた。

写真1(社のHPから)

建物の裏に行くと、広大なブドウ園である(写真2)。写真の奥に見える建物は、写真1の醸造所である。また右に見える柱は風車で、真夏の暑い時期に風を起こして、熱が地面、ブドウの木の根っこに籠るのを防ぐのだという。

写真2(社のHPから)

ブドウ園と言えば、ブドウの木の枝を2m前後の高さの棚に這わせて、ブドウの房が棚からぶら下がっている情景、または屋根の高さに大きく伸びたブドウの木の枝が広がり、枝にブドウの房がぶら下がっている情景をまず思い浮かべる。しかしシャトー・デ・シャルムのブドウ園では写真で見るように1m前後の高さの小木が畝に沿って育っているのである。解説者の説明に依ると、収穫後の木は幹が刈られて冬を越す。春に出た新芽は2枝ほどを残すようにして、一株で7、8個のブドウの房を実らせる ということである。冬場のブドウの木の保護と機械化作業による効率化のためのようである。耕作および収穫はトラクターにより作業を行う(写真3 & 4)。なお写真3は畝間を耕し、畝の盛り土を行っている状況のようである。写真4はいかなる作業か不明。

写真3(社のHPから)
写真4(社のHPから)

このブドウ園で現在進められている研究の一端が紹介された。それは意外な内容であった。目前の農園で、普通と思える畝間と かなり狭い畝間の区域があったが、曰く、“畝間を狭くすることにより、各ブドウの木同志が、地からの栄養物吸収を競い合うことから、結実の風味がよくなるのではないか、その仮説を実証するための実験である”と。発想の転換ということでしょうか。“結論を得るには10数年を要します” と。ことほど左様に、より良い品質のワインを作り出すためにはなお研究・努力がなされているということである。

一通り工場、農園を見て回った後、楽しみの試飲である。見学コースの案内に当たったスタッフは、若い日本人女性で、その後の試飲を含めてワインの楽しみ方をも伝授してくれた。かなりプロの域にあるように思えた。グラスの持ち方から始めて、ワインの色、香りを確かめて、それから味わう。白・赤ワインと味わった。その美味たること!!醸造所で頂く酒類は、大体“旨い”と感じるものではあるが、時差ボケによる寝不足、さらに早朝から観光して回った疲れも手伝っていたか、このツアーに参加してよかった との感を強くした。

白楽天の詩「卯時の酒」に次のような句がある:

一杯 掌上に置き [一杯を手に持って]
三嚥腹内に入れば [三口飲んで腸にいたれば]
煦(く)たること春の腸を貫くがごとく [内臓を春が通りぬけるように暖まり]
喧(けん)なること日の背をあぶるがごとし [日の光が背をあぶるようにほてってくる]
  <石川忠久 監修 『新漢詩紀行ガイド2 (NHK)』から抜粋>

カナダに渡って、まさに白楽天の境地を経験したのであった。なお「卯時の酒」とは、起き掛けの朝酒のことであるが。

試飲の締めは、アイスワインである。それがまた実に旨い、その芳香、口に含んだときの濃厚な舌触り、味…表現の仕様はなく、実際に飲んで実感して下さいという他ない。その旨さとスタッフの口車(?)に乗って、早速購入することにした(写真5)。ただ、量を楽しむ酒ではない。庶民としては、お猪口の半杯くらい、食後に頂くとよいかな と思っている。

写真5

ここでアイスワインについて触れておこう。高級ワインの一つとして“貴腐ワイン”は、時に耳にするが、誕生秘話は、似たものではなかろうか?アイスワインの誕生地はカナダではなく、ドイツのようです。一説によると、今から200年ほど前、ドイツのフランコニアという土地のある農場で誕生した由。ある年、同地方は突然の霜に襲われ、ワイン用のブドウがすべて凍ってしまった。処分することにしたのだが、やはり多分に、“もったいない”ということで一部の凍ったブドウを使ってワインを造ってみた。結果、実においしいワインができた と。これがアイスワインの始まりで、まさに偶然の産物ということである。厳寒の下、凍らせることにより、ブドウの水分含量が減り、濃厚なブドウ汁となり、それを原料にしたワインがアイスワインということである。

カナダでのアイスワイン造りは1980頃から始まり、オンタリオ州、中でもナイアガラ地方は冬に厳寒なためアイスワインの生産に最適なテロワールであるとのことである。ブドウの収穫は、通常、秋であるが、アイスワイン用には12月から2月に収穫されるとのこと。気温零下8度以下が3日以上続いたのち収穫したブドウを原料としたということが、カナダ アイスワインの品質保証条件の一つである由。歴史が浅いとはいえ、今日、カナダでも欧州の産地同様、しっかりと統一された品質基準が設けられていて、品質については信頼がおける状況のようである。容器に表示された略号VQA (Vintners Quality Associationの略)が品質を保証するものだという。因みに写真5のワインには確かにその表示があった。

シャトー・デ・シャルムの創業者は、フランスのブドウ酒産地であるブルガンデイー(Burgundy)から1960年代にナイアガラに入植し、1978年に創業している。現在、社の会長を務め、社長は2世が担当。やはりカナダ ワインは若いのである。カナダ ワイン界の今日の課題の一つは、アジアへの浸透である由。想像するに、若い日本人女性のスタッフが観光ツアーの応対を担当していた事実は、アジア(日本)対策の一環を示すものであろう。

最後にシャトー・デ・シャルムの農場について。近郊に4農場を所有し、総面積は280エーカー(1,133,104 m2)とのこと。概算、東京ド-ム24個に相当し、平均1農場面積は東京ドーム6個分の広さになる。但し、筆者は東京ドームに足を運んだ経験がなく、実感としてその広さを認識できませんが。(二日目 Niagara完)

コメント
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