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親子で食事まで2年 ひきこもりの子に「お供え」やめた

2021-02-19 15:30:00 | 日記

下記の記事は朝日新聞デジタルからの借用(コピー)です

もう何年も姿を見せない息子。「それが先日、自ら部屋を出て、親子で食事をしたんです」
 60代の母親が静かに話し始めると、長テーブルを囲む他の父母たちが目を潤ませた。
 山口県宇部市のNPO「ふらっとコミュニティ」が毎月開く教室「家族心理教育実践編」。ひきこもりの子がいる父母ら10人ほどが集まり、子どもの心理や日頃の接し方を学んでいる。
 この日報告をした母親は、2年前から教室に通い始めた。息子の部屋のドアの前に食事を置く「お供え」をやめ、「ごはんできたよ」とさりげなく声をかける。部屋から出ている気配に気付いても、普段通りに振る舞う。小遣いをきちんと渡す――。教室で学んだ対応の仕方を一つひとつ実践するうちに、少しずつ息子の様子が変わってきたという。
 NPOの理事長で山口大大学院教授(保健学)の山根俊恵さんは「外に出そう、就労させようと焦るのは逆効果。でも、何もしないでいるとあっという間に10年が経ってしまう。親たちが変わることで必ず家族関係は変化する」と話す。
子どものひきこもりに悩む親たちの話に耳を傾ける山根俊恵・山口大教授=山口県宇部市、藤脇正真撮影
 山根さんは精神科の元看護師。「行政の窓口や保健所に相談しても、話を聞いて終わり」「精神科の医師に相談したら、本人を連れてこいと言われた」――。ひきこもりの家族に共通する悩みを知り、精神障害者支援の場として運営していたNPOで2015年から、ひきこもりの当事者や家族の支援を本格的に始めた。
「引き出し屋」と呼ばれる業者の実態をルポする連載。悩む当事者や家族に出口はないのか――。4回目は、「引き出し屋」のやり方とは根本から異なるNPOの取り組みや、ひきこもり状態から抜け出した男性の体験を報告する。
ここから続き
 親たちはまず、6回の基礎講習「家族心理教育基礎編」を受け、ひきこもりのメカニズムや「対話」の方法、暴力への対処の仕方などを学ぶ。いじめ、パワハラ、セクハラ、不器用でコミュニケーションが苦手……。ひきこもるきっかけは人それぞれだが、そんな環境に逆らうことも、迎合することもできず心を閉ざしていく当事者たち。「でもそれは決して人より劣ることでも、恥ずかしいことでもなく、その人の良さでもあると家族が納得できた時、かける声のトーンも違って響く」。ドアの向こうで、子はその変化に敏感に気づくという。
 「傷ついた心をゆっくりとメンテナンスすることで、次第に心にエネルギーが蓄えられていく。そうすると人は自然に外に出たくなる」。これまで300人以上の当事者や家族と接してきた、山根さんの確信だ。
 基礎講習修了後はグループごとに分かれて毎月集まり、それぞれの状況を報告し合う。長年ひきこもっていた人が回復するにはそれ相応の時間が必要で、長い道のりを家族同士で支え合う。基礎講習はテキスト代を含めて参加費2万円。現在は五つのグループで続けられている毎月の集まりは年会費5千円でいつでも参加できる。NPOの事業は宇部市と山陽小野田市の補助も受け、日常的な市民からの相談はすべて無料だという。
家族支援に続く第2段階は本人へのアプローチ
 高額の費用で親と契約し、当事者を部屋から連れ出して親子間の連絡も禁じる「自立支援業者」のやり方は、「家族との関係性を取り戻すことが回復への第一歩」とする山根さんの考え方とは根本から異なる。
 「当人の生きづらさや苦しさの理由も知らないまま、いきなり知らない人が押しかけてきて『このままではいけない』と責めたり、『出てくるように』と声をかけたりするのは支援に逆行している。ハローワーク通いを強い、その時は外に出られたとしても、後々その人がどうなったのかは検証されていない。余計に心が傷ついてひきこもるケースもある」と山根さんは話す。
 家族支援に続く第2段階が、本人へのアプローチだ。
子どものひきこもりに悩む親たちの集まりには、老夫婦の姿もあった=山口県宇部市、藤脇正真撮影
 ここでも大事なことは、焦らず、急がず。当事者同士が集まり、語り合う会合などで準備を重ね、就学や就労に向けて伴走していく。「行政などの窓口の多くも、実際は『どうしていいかわからない』というのが本音でしょう。私たちの実践例が、ほかの福祉関係者の参考になれば」
 行政の相談窓口や医療機関をたらい回しにされた揚げ句、たどり着いた先が「引き出し屋」だった――。そんな訴えが各地で相次いでいるのを受けて、KHJ全国ひきこもり家族会連合会も情報収集のためのプロジェクトチームを作り、民間の支援ビジネスへの法規制などを国に要望している。
「あの頃もし、当事者に寄り添う適切な支援あれば…」
 家族会によると、訴訟が相次ぎ、批判が高まる中で、業者側も本人に「同意書」を書かせるなど、手法も複雑、巧妙になってきているという。厚生労働省も昨年8月末、被害を訴える家族からヒアリングをするなどの実態調査に着手した。
 神奈川県の会社員藤原秀博さん(43)は、中学時代にいじめや集団暴行を受けたことがきっかけで不登校になった。1年遅れで進学した高校もなかなか通えず、20代半ばごろまで断続的にひきこもり状態をくり返した。「家族からみれば、部屋から出てこないし、何を考えているかもわからない。でも本人にとってはひきこもることこそが解決策だった。波におぼれそうな自分が、浮石につかまって体を支えている感じです」
ひきこもりの経験をもとに、当事者や家族の相談に乗ったり、講演したりする藤原秀博さん=藤原さん提供
 今は警備会社に勤めながら、ひきこもり問題を扱うカウンセラーとして活動。「かつての自分に励ましやヒントを送りたい」と18年、「現代引きこもり生活学のすゝめ ~覚醒の十二章~」(日本デジタル出版社)も出版した。
 自立支援業者から受けた被害を耳にするたびに胸が痛むという。「弱り切っていたあの時期にひきこもっていること自体を他人に責められたら、きっと自分も完全に心がつぶれてしまっていただろう」と思うからだ。
 自身は「体重がいまの倍近い128キロに増えるなど、とことんまでひきこもったから『このままではいけない』と気づくことができた」。掃除やストレッチ、瞑想(めいそう)など、浮石につかまりながら少しずつ泳ぎ方を覚えるように行動範囲を広げていった。同じ悩みを持つ当事者たちの集まりに出かけるようになり、やがて就職もできた。
 だが、それも一進一退だった。「少しずつ自分の特性を知り、人に会う機会が少ない警備の仕事を選んで続けながら、苦しさを解放するコツを身につけていった。あの頃もし、当事者の心のスピードに寄り添ってくれる適切な支援に出会っていれば、もっと道は早かったかもしれないけれど」
 ひきこもり。その言葉に親たちは正体の知れない恐れを抱く。「そんな親の不安につけ込むのが引き出し屋。つまりは不安ビジネスだと思う」と藤原さん。「でも不安ばかりを膨らませる前に考えてほしい。今はひきこもっていても、その人だけのかけがえのない人生を生きている。その人の苦しみの理由に関心も抱かず、ひきこもりのことなどよく知ろうともしない業者に、法外なお金をとられ、上から目線でこれまでの人生を否定されるいわれはないはずです」



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