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医療崩壊に瀕した大阪、トリアージの議論が必要に

2021-05-02 15:30:00 | 日記

下記の記事は日経ビジネスオンラインからの借用(コピー)です

新型コロナウイルスの感染拡大で3度目の緊急事態宣言が東京都と大阪府、京都府、兵庫県に発令された。だが、大阪では既に医療は限界を超え始めている。感染力の強い英国型変異株が広がり、若い世代に感染者が増えて重症患者も増え続けている。一部の医療現場では、人工呼吸器などの重要な医療機器を誰から優先で使うかを迫られかねない状況になっているという。患者の重症度によって治療の優先度を決定するトリアージの議論が必要な時が迫りつつある。
大阪府の新型コロナの新規感染者数は4月25日の日曜日に1050人となった(写真:共同通信、26日午前)
 「寝たきりの高齢者でした。新型コロナウイルスの感染者で。恐らく大学病院でも受けなかったのでしょう。うちに回ってきて……。実は当院も少し前に新型コロナ患者の関連で色々苦労して、いったん外来の受け入れを止めていたのです。でも、市内に病床がなくなって、『受けてくれないか』と頼まれたのです」
 西日本のある中規模病院の院長は昨年春の出来事をこう振り返る。新型コロナ患者の重症者を受け入れるのは大半が大学病院など高度医療のできる医療施設。ところが、その大学病院が新型コロナ患者の急増で病床が逼迫し、「ECMO(体外式膜型人工肺)や人工呼吸器を若い患者に回すために(高齢者は)受けなかったのではないか」という。そして、「それはやっぱりトリアージですよ」と打ち明ける。
 トリアージとは、患者の重症度によって治療の優先度を決定して「選別」をしていくことだ。結果から見れば、大学病院は、より若い世代を“優先”したかのようだ。
重症者の中で若い世代が増える大阪
 東京都、京都府とともに緊急事態宣言が発令された大阪府や兵庫県の医療はそれに近い状態にあるのではないか。大阪府内のある総合病院の医師は「若い人を優先的にということは現実に起きている」とつぶやく。
 実際、大阪府の新型コロナの新規感染者数は4月25日の日曜日に1050人となり、6日連続で1000人を超えた。719人だった同19日を除くと、同13日以降、25日まで1000人超えが続いた。
 「非常に厳しい状況が続いている。うちはコロナ患者用病床を20設けているが、医療の状況があまりにきついのでさらに3病床増やした。なんとかやっているが、これ以上は……」。大阪市内で加納総合病院などを経営する社会医療法人、協和会の加納繁照理事長は顔を曇らせながら言う。約300床の中堅病院だが、コロナ患者などを主に受け入れる急性期と呼ばれる病床は150。ここを中心にコロナ病床を捻出しながら、第4波では重症者の入院まで受けた。中等症以下を主に受け持つ民間病院としては思い切った対応である。
 大阪府の重症患者数は25日現在で362人に上る。しかし、重症患者用病床は288で284人が入院。そこに入りきれない77人の重症者が中等症の病床などで治療を受け、1人は滋賀県に搬送されている。加納総合病院が受け入れているのもその「中等症病床入院」の患者だ。
「大阪の医療状況は極めて厳しい」と、大阪市で加納総合病院などを経営する社会医療法人、協和会の加納繁照理事長は言う(写真=太田 未来子)
 現状は医療逼迫を超えた状況であり、容易に解決するとは思えない。「重症病床は常時、看護師が1人張り付いていなければならず、人員の面でも負担は極めて大きい」(加納・協和会理事長)上に、物理的に病床を広げるのが難しい面もある。民間病院は50床程度の病棟やフロアが多いが、その一部をコロナ患者用に充てると、一般患者と接触しないように人やモノの動線を分ける必要が出てくる。それ自体が容易ではない上に、病棟の状況によっては一般患者の病床を大きく減らさざるを得なくなることもある。
この記事の連載
コロナ後の医療、危機管理なき日本の隘路
新型コロナウイルスの感染は収まらず、第4波が迫っていると指摘されるようになった。日本の人口当たり…
 さらに言えば、日本の病院の81.7%は民間(残りは公立・公的病院)で、その4割は赤字。経営に打撃を及ぼすコロナ患者の受け入れは容易ではないからだ。
 大阪をはじめ第4波の感染拡大をもたらしている主因の1つは、感染力の強い変異株の急拡大である。大阪府では4月2日以降、新型コロナ陽性者に占める変異株の比率が約8割を占めている。特に英国型のN501Yは従来株の1.3~1.9倍の感染力があるとされ、若い世代への感染が増えている。この結果、「重症者の中での若い世代の比率が大きく上昇」(藤井睦子・大阪府健康医療部長)し、重症者に占める50代以下の比率は、第3波(2020年10月10日~21年2月末)の17.5%から35.6%(4月19日)へ倍増している。
医療現場に新たな重い負担
 トリアージが現実のものになりつつあるのは、感染者の急増で医療が崩壊の危機に瀕(ひん)し、しかも若い世代の感染者数が大きく上昇したためだ。
 だが、これは「医療現場にとって重い負担になっているはず」と医療倫理が専門の児玉聡・京都大学大学院准教授は指摘する。重症者の急増で人工呼吸器やECMOなどの医療機器が逼迫した時、医療の現場ではいや応なく、誰にそれを使うかという判断を迫られる。しかし、感染者数が急増した第3波以降も政府レベルでトリアージの議論は行われていない。
 医療界でトリアージの指針に近いと捉えられているものとしては、日本集中治療医学会臨床倫理委員会が昨年策定した「新型コロナウイルス感染症流行に際しての医療資源配分の観点からの治療の差し控え・中止についての提言」がある。
 この中では、医療資源配分の観点からの治療の差し控え・中止の判断について「個人でなく医療・ケアチームの議論を経て行う」などとしている。患者に判断能力がある場合は、「それを基本とし、家族の合意を得る」、判断能力がない場合は、「家族らの合意による代理承諾で医療を進める」などとしている。
 これは厚生労働省が18年に策定した「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」をベースにしたとされる。根底にあるのは「医療・ケアチームが患者の意思を尊重し、その最善の利益を考えて決定する」(児玉准教授)という考え方だが、現実問題としては分かりにくい。重症の状態で次々と患者が搬送され、しかも、重要な医療機器が逼迫している状況が生まれた場合などの判断指針としてはより具体的なものが必要になるはずだ。
 児玉准教授は、トリアージの議論が進んでいる欧米では具体的な指針に踏み込んでいると指摘する。「イタリアでは、より多くの人の命を救うために、高齢を理由にICU(集中治療室)を利用させないガイドラインが策定されている。75歳以上や60歳以上はICUに入れないとしている地域もあり、若い世代に優先的に使うようにしている。英国医師会のガイドラインでも、年齢だけを理由に治療を拒否するのは法に触れる差別だが、基礎疾患を持つ高齢者の場合は治療中に亡くなる可能性が高いため優先度が低くなるといった判断は、倫理的にも法的にも認められるとしている」
 もちろん、ワクチン接種が進むことなどで感染拡大が収束すればじっくり議論を進めることもできる。しかし、実態はそれには遠い。医療現場の負担をこれ以上重くしない方策を講じる必要があるはずだ。
田村 賢司
日経ビジネス編集委員



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