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「親があなたを忘れる日」を乗り越えるために

2021-08-05 15:30:00 | 日記

下記の記事は日経ビジネスオンラインからの借用(コピー)です

施設に入ったお母さんとコロナ禍でしばらく会えず、久しぶりに顔を見せたら「あんた誰?」と言われ、お仕事に支障を来すまでに落ち込んでしまった松浦さん。
 私は「松浦さんでさえも、そう思ってしまうのか……」と、考え込んでしまいました。
 松浦さんが自宅での母親の介護体験を赤裸々につづった『母さん、ごめん。』において、認知症になった母親に対して、さまざまな葛藤を抱えながらトライ&エラーを繰り返し、受け入れていく様子が描かれていました。
 以前、こちらの連載でも松浦さんと対談をさせていただきましたが(「人生の目的は『親の介護』。それでいいのか。」)、母親の介護によるさまざまな経験から、介護に対して客観的な視点もおありでした。
 その松浦さんでさえも(何度もまな板に載せてしまいます、「松浦さん、ごめんなさい。」)、グループホームに入所している母親と、コロナ禍の影響で久々の面会となったとき「あんた誰?」と言われ、ショックを受けているのです。
 でも、よく考えればそれが普通の人の正常な反応です。
 実際に、自分が相談を受けてきた人の多くが、親に忘れられることへの恐怖や、忘れられた悲しみを打ち明けてくださいました。
 というわけで、今回は認知症を患った親を持つ子どもが直面する可能性が高い「親が子どものことを忘れてしまう」という問題について、みなさんと考えていければと思います。
覚悟をしていても、なお
 松浦さんは母親が認知症だと宣告されたときから、覚悟していたようですが、実際に「あんた誰?」と言われて、やはり強いショックを受けました。特に一生懸命に親の介護をしてきた方ほど、ダメージを受けてしまう傾向が強いです。
 それは親子という関係性ゆえ、当然のこと。
 一方で、冷たい言い方ですがどんなに子どもが嘆いても、親の認知症が治るわけではありません。認知症の親からの「あんた誰?」ショックから救ってくれる、いや、救うべき役目を担っているのも介護のプロの仕事だと私は考えています。
 どんな状況においても、介護で一番に考えるべきは「認知症の親が穏やかな気持ちであること」。でも、ショックを受けた子どもがすぐに、それを考えることは不可能に近い。
 介護のプロは、近くで親のケアをしている立場から、「今の親御さんの様子はこうで、最近はこういう生活を送っている」ということを説明し、家族が「今はそういう状態になっているのか」と理解できるよう力添えします。これによって、「あんた誰?」ショックは少しずつでも緩和されるのです。
 私も現場で働いていたとき、認知症を発症した入所者のご家族に“今の状態”を細かくお伝えしていました。松浦さんの記事にも、施設のスタッフから今の母親の様子を聞く場面があり、松浦さんとスタッフとの信頼関係を見ることができます。
 スタッフは松浦さんのお母さんが、結婚前の実家で暮らしていたころの状態に戻っていることを教えてくれました。それを受けて松浦さんが「意識が少女時代に戻っていたら『子どもなんか産んでいない。結婚なんてしてない』、だから自分が誰か分からないというのももっともだ。」と、少しずつ客観的にものを考えていく様子がうかがえます。
 少女時代に戻ることで、今の母親が穏やかな気持ちでいられるのならば、と考えた松浦さんは、母親の当時の話をスタッフに伝えました。スタッフはそれをもとに今後の接し方を考えることができ、お母さんはさらに心穏やかに過ごすことができるはずです。
 見事な対応だと思います。
 でも
 「私が介護しているのに!」
 「こんなに心配しているのに!」
 「老人ホームの費用は私が支払っているのに!」
 「それなのに、自分は子どものことを忘れているなんて!」
 と、理不尽に思われる方もいるかもしれません。
 気持ちは分かります。でも、認知症の親にその怒りをぶつけたところで、親は「知らない人(本当は子ども)に、なぜ、怒られなければならないのか!?」と不安になり、認知症による症状が強くなってしまうこともあります。
自分が覚えていることが大事。とはいえ……。
 39歳で若年性認知症と診断された丹野さんという男性がいらっしゃいます。以前、私が彼の講演を聞いた際に、こんなお話を伺いました。
 「僕が友人たちのことを忘れてしまっても、友人たちが僕のことを覚えてくれていればいい。だから、僕は認知症になってみんなを忘れてしまっても怖くない」
 私たちでは計り知ることができない混乱やつらさが、丹野さんにはおありだと思います。それでも「周りの人が自分を覚えてくれていることで、自分の記憶の代替えになってもらえる安心感」によって、心穏やかに過ごされていると感じました。
 何が言いたいのかというと、認知症の親に自分の記憶を保ってもらうことに固執するよりも、自分が親との記憶を持ち続けていることのほうが大切ではないか、ということです。
 それこそが認知症という病気を理解することに繋がり、認知症の人にとって究極の支援につながっていくのです。
 よくある話なのですが、認知症の親が施設に入所したあとに「自分のことを忘れられては大変だ」と、面会の頻度を上げる方がいらっしゃいます。
 でも、面会の回数を増やせば忘れないかといえばそうではないのです。
 また、逆の話で、「忘れられてしまったのならば、もう、面会に行っても仕方がない」と来訪頻度が激減するケースもあります。
 繰り返しになりますが、どちらも気持ちはよく理解できます。そして、どちらにしても、自分の心の中の「子どもとして覚えていてほしい」という気持ちが、逆にあなたをつらくしていることにも、気付いていただけたら、と思います。
 子どもとして願うべきは親の平穏な生活。
 であれば、いずれにしても「自分が親の記憶をしっかり持ち続けていればいい」。
 そうはいっても自分の気持ちが波立つことはあるはずです。そのときにしっかり支えてもらうためには、介護のプロとの関係性をしっかり築いていくことが極めて重要になります。
自分の気持ちを介護スタッフと共有しましょう
 どうか、気持ちをシフトチェンジしてください。
 支える側のスタッフにとっても、入所者さんとご家族との関係性を把握しておくことはとても重要です。例えばスタッフが「この方は親御さんととても仲が良かったから、相当なショックを受けるだろうな」と認識していれば、自然と対応は丁寧になるので、ショックを受けたとしても、ご家族の心の癒え方が違ってきます。
 家族の機微に触れる情報、悩みや苦しみを、心を開いてスタッフに打ち明けることができれば、考えたくない事態に直面しても、「ご家族はおつらいでしょう」とスタッフが理解し、共に支えてくれます。
 ただ、社会的に立場のある方であればあるほど、そういった心の機微を表には出さす、第三者に隠す傾向があります。そのため、スタッフ側は「ご家族に対して、どういう声かけをすればいいのか……」とものすごく緊張することになります。
 親があなたのことを忘れていようがいまいが、ショックを受けているあなたのことも含めてフォローできるような体制をプロと一緒につくっていくほうが、みんなが心穏やかにいることができるからです。
 例えばスタッフから「今日はお母様の機嫌が良いので、面会にいらしたらお話ができるかもしれませんよ」「日中は息子さんの自慢話をされるときもありますよ」などと事前に教えてもらえれば、心穏やかに「自分を忘れた親」と接することができるのではないでしょうか。間にプロに入ってもらうことで、認知症の親と上手に心の距離を取っていくことが必要なのです。
 間にプロが入ることで、徐々にでもショックは緩和されていきます。自分を忘れたり、疑ったりする親を一緒に支え、親が忘れてしまった記憶を共有する介護のプロと確かな信頼関係を築いていく。それができていれば、多くの人が恐れているであろう、いつかやってくる「その日」を、上手に乗り越えていけるのではないでしょうか。
川内 潤 他1名
NPO法人「となりのかいご」代表



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