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植物由来のコロナワクチンが最終治験に、まもなく実現か

2021-09-08 12:00:00 | 日記

下記の記事は日経ビジネスオンラインからの(コピー)です。


この記事はナショナル ジオグラフィック日本版サイトからの転載です
カナダ、ケベック市にあるメディカゴ社の温室で、ワクチンをつくるタバコ属の植物をチェックするスタッフ。(PHOTOGRAPH BY MATHIEU BELANGER, REUTERS)

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)によって、世界各国のワクチン生産能力の大きな格差が明らかになった。現在のワクチン生産方法は、高額で複雑だ。そのため、ワクチンを生産できるのはひと握りの国々に限られるうえ、そのような国々でさえ、頻発する汚染と品質管理の課題に直面してきた。
 既存のワクチンには、マイナス60℃もの超低温で輸送、保管しなければならないものもある。こうしたワクチンの低温流通システム(コールドチェーン)は、高コストなだけでなく、へき地のコミュニティやインフラが不十分な国々にとって流通の大きな障壁になっている。
 その打開策は、ワクチン生産に植物を利用することだ、と考える科学者がいる。
 人体に使用できる植物由来ワクチンはまだ出回っていないが、複数のプロジェクトが進行中だ。カナダのバイオテクノロジー企業のメディカゴ(田辺三菱製薬の子会社)は、タバコ由来の新型コロナワクチンを開発した。現在、全世界のおよそ3万5000人を対象に第3相臨床試験(最終段階の治験)が行われている。同社の医療担当役員、ブライアン・ワード氏によれば、同社が開発した植物由来のインフルエンザワクチンはすでに臨床試験を終了し、カナダ政府の最終承認を待っているところだ。
 2020年12月には、英ブリティッシュ・アメリカン・タバコ(BAT)傘下の米ケンタッキー・バイオプロセッシングが、植物由来の新型コロナワクチンの第1相臨床試験を開始すると発表した。また、同年10月には、日本の化学大手デンカの子会社であるドイツ、アイコンジェネティクスも、植物由来のノロウイルスワクチンの第1相臨床試験を開始している。
 大学研究機関や、バイオ技術の新興企業、そして各国政府は、この分野の取り組みを拡大するために多額の資金を投入して協力関係を整備してきた。韓国政府は、植物由来ワクチンの研究に135億ウォン(約13億円)を投入した。2021年10月には、浦項(ポハン) 市に韓国初の生産施設が開設される予定だ。植物由来ワクチンの市場規模は、現在の4370万ドル(約48億円)から今後7年間で6億ドル(約660億円)弱にまで上昇するという試算もある。
「植物由来ワクチンの開発は、ゆっくりとではありますが、着実に前進しています。現在、新型コロナワクチンの迅速な生産が実現可能な段階に来ています。おそらく半年もあれば、数千万回分のワクチンを生産できるでしょう」。米コーネル大学の微生物学者で、作家でもあり、植物研究と農業バイオ技術を専門とするキャスリーン・ヘフェロン氏はこう話している。「もうすぐ複数の成功事例を目にすることになります。この取り組みが植物由来ワクチンの開発に新たな進展の道を開くことを、大いに期待しています」
従来のワクチンが抱える大きな問題
 植物由来ワクチンは今に始まったことではない。その概念は約30年も前に実証済みだ。研究者たちは、イモ、米、ホウレンソウ、トウモロコシなどの植物を使って、デング熱、ポリオ(小児まひ)、マラリア、ペストなどのワクチンを開発してきた。
 だが、いずれも臨床試験の最終段階まで進むことはなかった。ヘフェロン氏によれば、おそらく植物由来薬品に関する法制度の欠如や、新興バイオテクノロジーへの投資がためらわれたことが原因だった。
 2006年には、家禽類が感染するニューカッスル病の植物由来ワクチンを、米農務省が承認した。しかし、人間用の植物由来ワクチンが承認されたことはなく、最近までは、臨床試験の最終段階まで進んだものもなかった。
 ワクチンを作るには、特定の病原体に対する免疫反応を引き起こす抗原をまず大量に生産しなければならない。一般的には、弱毒化または不活性化させたウイルスや細菌や毒素、あるいは新型コロナウイルスのスパイクたんぱく質のような病原体のたんぱく質などが抗原に用いられる。
 いずれにしろ、従来のワクチンの抗原は、動物の細胞(昆虫、サルの腎臓、ハムスターの卵巣などを利用)に病原体を感染させたり、ウイルスや抗原のコピーを作るように指示する遺伝情報をもたせたりして生産していた。こうした細胞は、巨大な金属製のバイオリアクター(培養槽)で数日間から数週間、培養される。その後、長く複雑な精製工程を経て、ワクチンがようやく容器に充填される。
 問題は、バイオリアクターが高価であり、その管理には専門訓練を受けたスタッフが欠かせない点だ。また、汚染のリスクが高いので、異なる種類の抗原を培養するバイオリアクターは、別々の建物内に設置し、厳格な管理下で無菌状態を維持しなければならない。
 なお、米ファイザー・独ビオンテックと米モデルナの新型コロナワクチンでは、抗原そのものではなく、メッセンジャーRNA(mRNA)が使用されている。mRNAは、新型コロナウイルスのスパイクたんぱく質をヒト細胞に作らせる遺伝情報物質だが、こちらも高額の費用がかかる施設で量産し、精製する必要がある。
「今回のパンデミックで、すべての人に行き渡るだけの十分なワクチン生産能力が世界的に不足していることがはっきりしました」と、英インペリアル・カレッジ・ロンドンの感染症研究者ジョン・トレゴニング氏は言う。コスト、スペース、人材の面で、非常に負担が大きいせいだ。米国防総省は、承認された3つのワクチンの生産施設を25年間維持するだけでも、15億ドル(約1650億円)の費用がかかると試算している。
植物を育てるだけでワクチン工場に
 植物由来ワクチンでは、バイオリアクターは不要になる。植物自体がその役割を果たすからだ。温度や湿度が制御された製薬専用の温室で、植物を育成するだけでよい。温室内に昆虫や害虫は侵入させないが、無菌状態を維持する必要はない。
 米ノースカロライナ州ローリーにあるメディカゴ社の温室では、2本の機械式アームが、ベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)の苗126本が並ぶ金属トレイを持ち上げている。ひょろひょろしたベンサミアナタバコはオーストラリア原産で、タバコ製品の原料となるタバコの仲間だ。
 ロボットアームは苗のトレイの上下を素早く反転し、植物への感染力がある土壌細菌アグロバクテリウムを無数に含む液で満たされた容器に浸す。この温室のアグロバクテリウムには、インフルエンザウイルスや新型コロナウイルスの遺伝情報の断片を組み込んでいる。ベンサミアナタバコの苗を溶液に浸しながら、小型の減圧装置で根の部分を減圧すると、すぐに葉はしおれた状態になる。数秒後に復圧すると、葉は再び広がって、スポンジのようにアグロバクテリウムを含む液を吸収し、全体に行き渡らせる。
 このようにほんの数分間で、ベンサミアナタバコはミニサイズのバイオリアクターに変身する。アグロバクテリウムが植物細胞に感染すると、感染力をもたない抗原であるウイルス様粒子(VLP)を無数に作りだす。
「本当に見事です。最高の仕組みと言ってもいいでしょう。この工程は、アグロインフィルトレーション、またはバキュームインフィルトレーションと呼ばれています」と、メディカゴ社のワード氏は言う。
 ワード氏の説明によれば、植物を温室に戻してから5、6日後に葉を収穫する。その後、葉をみじん切りにして酵素槽に入れ、ここで硬い細胞壁を破壊して無数のウイルス様粒子を取り出し、精製して容器に入れるという。こうして完成するのが植物由来ワクチンだ。2018年、メディカゴ社のインフルエンザワクチンは、世界で初めて第3相臨床試験を終了した。
レタスによる「食べられるワクチン」も視野
 従来のワクチンは、ウイルスやウイルス粒子を細胞から取り出して精製した後は、低温で保存しなければならない。メディカゴ社のインフルエンザや新型コロナの植物由来ワクチンでも、この点は同じだ。
 だが、精製段階を完全にカットして、この問題を回避する植物由来ワクチンもある。ワクチン生産に広く使用されている遺伝子組み換えレタスはその一例だ。開発に携わってきた米ペンシルベニア大学の研究者、ヘンリー・ダニエル氏によれば、レタスの種子の葉緑体のゲノムに、遺伝子技術を利用してウイルスの遺伝情報を挿入するのだという。
 葉緑体は、植物が光合成(植物が日光を利用可能なエネルギーに変換するプロセス)を行う細胞内の器官だが、独自のゲノムをもっている。ゲノムは機能や自己複製を指示する遺伝情報のセットだ。細胞そのもののゲノムはたいていコピーが1つだけだが、葉緑体は約100のコピーをもっているうえ、細胞の中に複数含まれる。したがって、葉緑体はそれだけ多くの抗原をつくることができる。
 ウイルスの遺伝子をゲノムに挿入された種子は、管理下ではあるが一般の農場や温室と変わらない環境で栽培され、収穫される。レタスの場合は食用植物なので、ウイルス様粒子を精製せずに、抗原を含む葉緑体をそのまますりつぶして粉末にし、経口投与できるように錠剤やカプセルにも加工できる。いわば「食べられるワクチン」だ。
 人間や動物用の複数のレタス由来ワクチンが開発中だが、まだ臨床試験に進んだものはない。錠剤タイプのワクチンは常温で長期間保存できるので、低温流通の問題がない点はメリットだ。
 植物由来ワクチンの生産コスト推定額は、まだ公表されていない。だがダニエル氏は、「バイオリアクターより植物を利用するほうが安くなることは間違いありません。バイオリアクターの発酵設備は数億ドルかかりますし、精製や低温流通などにもコストが必要ですから」と話している。
 植物由来ワクチン技術の進歩は、現在と将来のパンデミックへの対応を強化できるだけではなく、ワクチンの生産を途上国に拡大する機会をもたらすだろうとヘフェロン氏は言う。毎年400~500万人の命を救っているワクチンは、公衆衛生には不可欠だ。しかし、世界には今も髄膜炎、はしか、百日咳のワクチンを利用できない地域が多数あり、年間およそ150万人が、予防可能な感染症で亡くなっている。
「国による経済格差が、ワクチン接種の深刻な不平等をもたらしています。生産方法の種類を増やすことができれば、より多くのワクチンを、より早く、より多くの人に届けられるかもしれません」とトレゴニング氏は話している。



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