書評『低量放射線は怖くない』
http://tsuiki-shugaku.hr-party.jp/blog/
ついき秀学党首ブログ転載
2011年08月01日(月)
福島第一原発の事故を受けて、政治やメディアにおいて「脱原発」
が大きく叫ばれるようになりました。
人々を「脱原発」に傾かせる最大の要因は、何と言っても放射能への
恐怖でしょう。
しかし、その放射能への恐怖が過剰なものであったら、国の盛衰を
左右するエネルギー政策を正しく冷静に考えることはできません。
今回の事故はもちろんあってはならないことですが、放射線被曝は
幸いにして周辺住民の方々に健康被害が出るレベルではありません
でした。
住民の方々が帰還できるよう、一日も早い事故の収束に取り組む
のは当然としても、今回の事故を教訓に、災害時の電源確保や
冷却機能維持を飛躍的に向上させ、建屋や配管の耐震性強化を図れば、
日本の原発の安全性はさらに高まり、苛酷事故のリスクはよりいっそう
低くできるでしょう。それでも万が一事故が発生した場合の対応策
(住民や家畜の避難体制、ヨウ素剤の配布体制等)までしっかり
詰めておくことも、もちろん必要です。
ここまでやったとしても、原発への不安感が無くならない方には、
『低量放射線は怖くない』(中村仁信著、遊タイム出版)を一読
されることをお勧めしたいと思います。
メディアの報道等によって、ほんの微量でも放射線に被曝すると発癌
のリスクが高まるという誤った認識が横行しており、人々の恐怖心が
煽られています。
しかし、国際放射線防護委員会(ICRP)の委員を務めたことのある、
著者の中村氏は「放射線の年間被ばく量が100ミリシーベルトまでなら
ば健康被害はない」と述べています。
中村氏によると、放射線被曝で細胞のDNAは損傷を受けるが、それへの
修復機能も働くので、100ミリシーベルトならそれによる細胞の突然変異
は一個生じるかどうかというレベルだそうです。しかも突然変異があっ
ても即、癌細胞というわけではなく、悪い細胞は自爆させられる機能が
あるので、ほとんどはそれによって無くなり、これをすり抜けた細胞が
癌細胞になります。しかし、それでも恐れることはありません。
実は、癌細胞は普段から一日数千個発生していますが、これらは圧倒的
多数の免疫細胞の働きによって殺されていくので、私たちは癌にならずに
済んでいるという事実があります。
100ミリシーベルト以下の被曝なら、一日数千個発生している癌細胞が
最大限見積もって1個増えるだけであり、むしろ恐怖や心配等のストレス
によって免疫細胞の働きが鈍る方が発癌リスクを高めてしまうと言えそう
です。
「1ミリシーベルトの被曝でも発癌リスクが高まり、取り返しのつかない
ことになる」といったメディアの報道自体が、人々に恐怖や不安による
ストレスを与え、放射線よりも大きな発癌リスクをもたらしている可能
性があるのですから、愚かと言うしかありません。
本書ではさらに、微量の放射線は健康に良いとする「放射線ホルミシス」
についても、数々の事例を挙げて紹介しています。
特に印象的なのは、1983年に台湾の台北市とその周辺に建てられた180の
アパートの鉄筋にコバルト60が混入され、住民約1万人が被曝していたと
いう事件です。
1992年に発覚しましたが、その後の調査によれば、被曝した住民の癌死亡率
は事件後20年間で「激減」していることが判明しています
(住民の被曝線量は年平均20ミリシーベルト、平均累積線量は400ミリ
シーベルト)。
これ以外にも、ホルミシスを裏付ける事例がいくつもあることから、
中村氏は本書のあとがきで、福島原発事故の被災者に対して、
「時間が経って、気がつけば、ガンやその他の病気にも強くなっている
可能性があるということを、頭のすみにでも置いておいてください」という
メッセージを記しています。
なお、中村氏は原発に関しては、以前はニュートラルだったが、
「今回の事故の被害の大きさがわかり、『原発はいずれはなくすべし』と
いうように考えが変わりました」と述べています。おそらく事故を受けての
率直な感想なのでしょうが、中村氏の立場としては、「原発推進論者でない」
と言った方が、その議論の説得性が高まる面があるのも事実です。
原発の存廃に関しては、今回の事故被害を踏まえても、原発をなくすことの
社会経済的なコストや安保上のマイナスを考えれば、原発はなくすべき
でないというのが私たちの考えです。
放射能への過度な恐怖心さえなくなれば、私たちの主張は多くの国民の皆様に、
冷静に受け止めてご理解いただくことが可能であると確信しています。
。