やられたら100倍返しで罵るのはトランプ氏の「ビジネス哲学」不安定な米社会ではこの気質が頼もしい

米大統領選のスーパーチューズデーで快勝した共和党のドナルド・トランプ氏の選挙手法の源流をたどると、同氏の「ビジネス哲学」に行き着く。

 「ジ・アート・オブ・ザ・ディール」。インターネットの世界で、こんな題名の映画が話題をさらっている。題材となったのは、トランプ氏が1987年に刊行した同名の著作だ。不動産開発で名をはせたトランプ氏の「ビジネス哲学」を紹介している。実のところ、同映画は「お笑い」で知られるウェブサイトが配信したパロディーである。特殊メークでトランプ氏そっくりに変装した大物俳優のジョニー・デップ氏が、「あれも欲しい、これも欲しい」と子供のように駄々をこねる。映画はトランプ氏批判が目的なのだが、あまりにも視聴者が増えてしまい、続編を求める声が強まった。製作者の意図とは裏腹に、「トランプ人気」に拍車をかけてしまったのだ。 著作でのトランプ氏の「ビジネス哲学」は、「大きく考える」「損失リスクを限定する」「多くの選択肢を持つ」「自分の強みを生かす」「やられたらやり返す」といった11カ条からなる。ニューヨークの事業家や弁護士が契約交渉の際に用いる「勝利の方程式」に似通っている。

中東のテロ組織の相違点を記者から聞かれても、不得意な分野なので真正面から答えないのは、「損失リスクを限定する」。討論会で、少しでも過去の過ちを指摘されたら100倍返しでののしるのは、「やられたらやり返す」の実践だ。世間ずれしたトランプ氏は口が達者なニューヨーカーで、本来ならば、米国人が「悪徳」と見なす気質の持ち主だ。だが、軍事や経済で中国に追い上げられる米国は、外交でも自信を失いつつあり、「社会心理が不安定なだけに、切った張ったの交渉で相手を『ギャフン』と言わせるニューヨーカー気質は頼もしい」(ブロンクス地区の個人商店主、ドミニック・ナルさん)と支持者は主張する。

 2月下旬、米不動産金融協会が南部フロリダ州で総会を主催した。銀行の放漫経営が原因で金融危機の際に苦労しただけに、ウォール街に対する心証が芳しくない業界だ。総会後の慰労会では「トランプ氏とクリントン氏が選ばれた場合では、どちらがウォール街に厳しいか」との議論が交わされた。銀行は全米で悪役視されており、「ウォール街たたき」は票になる。

 ある不動産業者によると、「1回20万ドル以上の講演料を銀行からもらったクリントン氏は義理を感じているはずだが、トランプ氏は禁じ手の破綻処理を多用し、銀行からの債務を棒引きさせた過去がある」。

 「(金を借りた)恩を恩とも感じない、トランプ氏の方がウォール街に厳しい規制・税制を敷く」というのが慰労会の結論だった。

 苦戦してもずうずうしく立ち回り、「多くの選択肢を持つ」。これもトランプ流「勝利の方程式」の一つである。(ニューヨーク駐在編集委員 松浦肇)

 

 

 

 

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