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休日は観劇に

さくの観劇メモランダム

ミス・サイゴン

2008年10月26日 | ミュージカル

2008年8月8日(金)13:30開演 帝国劇場 A席 1階V列30番台

 『モーツァルト!』以来、1年8ヶ月振りの帝国劇場。今日の目的は『ミス・サイゴン』観劇。これまた一度は観ておきたかった作品。今は亡き本田美奈子さんのミュージカル初挑戦の役が『ミス・サイゴン』のキム役だったそうだ。観劇前に公式サイトであらすじをチェックした。私としては軽くあらすじをチェックするだけのつもりだったのだが、非常に詳細に書かれていて全然「あらすじ」ではなかった(笑)。でも、そのおかげでストーリーは完璧に把握。あとは音楽が入れば完成だ。そう、それこそがミュージカル!どんな曲なんだろうなー、楽しみだなー。それにしても…なんて悲しい話なんだ。絶対に泣く。ハンカチ必携。

◆ミュージカル『ミス・サイゴン』

 スタッフ

  • プロデューサー:キャメロン・マッキントッシュ(「現代において最も成功を収めた、影響力のある大物プロデューサー」)
  • オリジナル脚本・作詞:アラン・ブーブリル(『レ・ミゼラブル』の作詞)
  • 作曲:クロード=ミッシェル・シェーンブルク(『レ・ミゼラブル』の作曲)
  • 作詞:リチャード・モルトビー・ジュニア(作詞作曲家コンビであるブーブリル&シェーンブルクと共に『ミス・サイゴン』の作詞を手がけた)
  • 演出:ニコラス・ハイトナー(英国ナショナル・シアターの芸術監督)
  • 日本版演出:フレッド・ハンソン(2004年『ミス・サイゴン』東京公演の演出を務め、ニコラス・ハイトナーによる演出を再現)
  • 翻訳:信子アルベリー(ニューヨーク大学舞台芸術科卒業後に東宝演劇部のニューヨーク駐在員となり、東宝ミュージカル上演に関係)
  • 訳詞:岩谷時子(宝塚歌劇団出版部に勤務し、「歌劇」「宝塚グラフ」の編集に携わる。東宝文芸部に転じてからは、「愛の讃歌」等のシャンソンの訳詞も手がけた。加山雄三のヒット曲『君といつまでも』等の作詞、『王様と私』等のミュージカルの訳詞も手がけた)

 キャスト

  • エンジニア:橋本さとし(大阪府出身。2004年からエンジニア役)
  • キム:ソニン(高知県出身。『ミス・サイゴン』初参加!)
  • クリス:井上芳雄(福岡県出身。2004年からクリス役)
  • ジョン:岡幸二郎(福岡県出身。2004年からジョン役)
  • エレン:鈴木ほのか(愛知県出身。1992年初演のエレン役。再登板!)
  • トゥイ:石井一彰(東京都出身。『ミス・サイゴン』初参加!)
  • ジジ:菅谷真理恵(東京都出身。『ミス・サイゴン』初参加!)
  • タム:(たぶん)寺井大治(茨城県出身。『ミス・サイゴン』初参加!)

【ACT1】

《1975年4月 サイゴン》

 GIに抱かれて/逃げよう今を/遠くの世界/遥かな人生/映画は夢~♪ 厭戦と倦怠に満ちた陥落直前のサイゴン。通称エンジニアが、アメリカのGIたちをキャバレーに呼び込んでいる。男たちはキャバレーの女たち相手に「ミス・サイゴン」選びの乱痴気騒ぎ。一方、女たちはこの生き地獄のようなサイゴンから自分を連れ出してくれるGIを捕まえようと必死に媚を売る。そのキャバレーにやって来たキムは、真っ白なアオザイが眩しい17歳。爆撃で故郷の村は焼かれ、両親は惨殺された。生き抜くためには身を売るしかない。悲壮な決意でエンジニアの店に出たキムは、見よう見まねで踊りを披露し、今夜の「ミス・サイゴン」に選ばれた。キムはエンジニアに若きGIクリスを引き合わされる。私は最初、題名である『ミス・サイゴン』の意味を、「サイゴンの未婚の女性」という意味だと思っていたのだが、「ミスコン」の「ミス」が正解だったんですね?でも、両方の意味が掛けられていると解してもいいような気がする。

 国の為に戦ったが/帰国したら白い目で見られた/戻ってきた再びサイゴン~♪ クリスは一度は本国アメリカに帰還したものの、激しい反戦運動から逃れるようにサイゴンに舞い戻ってきたのだ。今は大使館のドライバーという立場。しかし、戦争に対する疑問と虚無感は拭い去れない。キムは今夜身を売る覚悟を決めていた。エンジニアに引き合わされた男クリスは、他のGIたちとはどこか違っていた。女なんかいらない。余計なおせっかいはやめてくれ。クリスは最初、キムを拒絶した。しかしクリスは、他の客に絡まれているキムを見かねて、思わず割って入ってしまう。その時キムは、クリスに何かを感じたのかもしれない。私を抱いて。キムは最初の客にクリスを選んだ。

 主よ/どうして今さらここで俺にくれたのだ/どうして今夜を~♪ 主よ/どうして心が燃える/初めて娼婦と過ごした訳じゃない~♪ 一夜を共にしたキムとクリスはお互いの心に救いを見出し、急速に惹かれあっていく。極限状態のサイゴンで、真実の愛に巡り会った二人。一緒に暮らそう。二人はクリスの家で、キャバレーの女たちが見守る中、かりそめの結婚式を挙げた。そこに突然、男が乱入。その男の名はトゥイ。キムの許婚だった男だ。トゥイはキムを探してここにたどり着いたらしい。トゥイは、キムが自分のことを待っているものと頭から信じて疑っていない様子。一方のキムは、ベトコンに入っていなくなってしまったトゥイは、もはや死んでしまったものと思っていたらしい。それに親同士が決めた婚約であり、親が死んでしまった以上、婚約自体が無効だと主張した。どちらの言い分にも一理あるような気がする。トゥイはトゥイなりにキムを愛していたのだろう。しかしキムはクリスに出会ってしまっていた。過去に戻ることはできないのだ。トゥイは自分が失恋してしまったこと、そしてこともあろうに恋敵は敵国のGIであることを知って逆上。しかし、キムの気持ちは変わらなかった。トゥイは大暴れして出て行った。

《1978年4月 ホー・チ・ミン(旧サイゴン)》

 巨大ホー・チ・ミン像にビックリ!ドラゴン・ダンサーのアクロバットがスゴすぎてビックリ!私は中国雑技団か何かを観に来てしまったのだろうか!?と自分を疑うくらいに(笑)。これはモーニング・ドラゴンというベトナム戦争を表現した場面なのだそうで、タイガーの仮面を被った人達はアメリカの象徴、ドラゴン・ダンサー達はベトナムの象徴らしい。ベトナムの底知れぬパワーを感じた。

 サイゴン陥落から3年。街はホー・チ・ミンと名を変えていた。エンジニアはしたたかに生き延びていた。政権側の人間として権力を手に入れたトゥイは、エンジニアにキム探しを命じた。エンジニアは探した。そして見つけた。キムも生きていたのだ。早速トゥイはキムに会いに行くのだが、そこにいたのはキム一人ではなかった。なんとキムには息子がいたのだ。もちろん父親はクリスだ。キムはクリスが必ず迎えに来てくれると信じて、息子のタムを大切に守り育ててきたのだ。キムは、クリスがいなくなった後で妊娠に気づいたに違いない。クリスと自分を繋ぐ命の絆。サイゴン陥落の混乱の中、クリスとの突然の別れに呆然自失の状態であったろうキム。もしタムの存在がなかったら、キムは自ら命を絶ってしまっていたかもしれない。タムがいたからこそ生きる勇気が生まれたのだと思う。

 一方のトゥイは、キムがGIとの間に生まれた子供を育てていることを知り大激怒。このままではタムが殺されてしまう。そう思った瞬間、キムは拳銃を構え、トゥイに向けて発射していた。トゥイは死んでしまった。キムが殺したのだ。どうしてこんなことになってしまったのか?自分はなぜトゥイを、元婚約者を殺さなければならなかったのか?何かが狂っている。あの戦争さえなければ…。トゥイの死を、運命の皮肉を、残酷な現実を嘆き悲しむキム。この場面で、涙がぼろぼろこぼれてきた。結果的に一番泣けたシーンだ。予想外。(泣きポイント その1)

 生まれたくないのに生まれ出たお前が/苦しまないように命をあげるよ~♪ 神の心のまま望むもの選ぶの/つかまえなさいチャンス/命もあげるよ~♪ キムは、エンジニアに救いを求めた。アメリカ人の血が流れるタムをパスポート代わりにと考えたエンジニアは、二人を連れてバンコクに流れてゆく。

【ACT2】

《1978年9月 アトランタ》

 名はブイ・ドイ/地獄で生まれた/ゴミクズ/我々のすべての罪の証拠だ/忘れない彼らはみんな我らの子~♪ アメリカ兵とベトナム女性との間に生まれた私生児ブイ・ドイ。クリスのベトナムでの戦友ジョンは、アメリカにいる父親達を探し出して、ブイ・ドイ達をアメリカに呼び寄せる組織を運営していた。ある日、ジョンはキムがバンコクで生きていて、クリスとの子供を育てていることを知った。ジョンは直ちにその事実をクリスに伝えた。不本意ながらもキムをベトナムに置き去りにする形でアメリカに帰国してしまったクリス。一日たりともキムのことを忘れた日はなかった。現実を受け入れることができず、自分の無力さを嘆く毎日。そんな苦しい日々の中で、クリスはエレンという女性に出会い、慰めと安らぎ、そして現実世界を生きる力を得たのだろう。やがてクリスはエレンと結婚した。しかし、クリスは毎夜、ベトナムの悪夢にうなされていた。そんなクリスのかたわらで、心を閉ざす夫に胸を痛める妻エレン。そんな時、ジョンからもたらされた衝撃の事実。クリスはすぐにでもキムと息子に会いに行きたいと思った。クリスは、エレンと共にバンコクを訪れる決心をする。

《1978年10月 バンコク》

 キムとエンジニアは安キャバレーで働いていた。エンジニアが客引きをしているところへ、ジョンが訪ねてくる。エンジニアは、ブイ・ドイに関する申請書はオレが書いたんだぜーと猛烈アピール。ジョンからクリスがバンコクに来ていることを聞いたキムは大喜び。ついにクリスが迎えに来てくれた。信じて待っていて本当に良かった。これでタムが幸せになれる!

《1975年4月 サイゴン》

 キムの心に、3年前のサイゴン陥落の悪夢が蘇る。

 悪夢①「トゥイの亡霊」:キムが信仰している宗教が何なのか分からないのだが、その祭壇の上にトゥイの亡霊がぬぅ~っと現れる。ライティングの妙なのか、本当に亡霊にしか見えなくて、ゾゾッ。トゥイの亡霊が祭壇を踏みつけるようにして降りてくるのが、まるでキムの心を破壊していくようで、見ていて心が痛かった。

 悪夢②「大使館」:混乱と喧騒の中、クリスは身分の証として拳銃をキムに渡し、大使館での再会を約束して基地へ向かった。殺気だった群衆に阻まれて、二人はお互いを見つけ出すことができない。キムはクリスに言われたとおり、拳銃を示して、自分はGIクリスの妻だと力説したが、門を通過することは許されなかった。

 悪夢③「大使館の門」:轟音と共に最後のヘリコプターが到着し、ジョンはキムの名を叫び続けるクリスを引きずるようにヘリコプターに乗せた。キムは飛び去ってゆく最後のヘリを呆然と見つめ続けていた…。このヘリコプターは本物(原寸大)らしい。耳をつんざく轟音といい、本物のヘリコプターといい、テーマパークのアトラクション並みにスゴかった。『ミス・サイゴン』のポスターの筆文字のようなデザインは、このヘリコプターをイメージしてるんですよね?

《1978年10月 バンコク》

 ジョンは一度ホテルに戻り、クリスを連れて再びキムのいるキャバレーに向かった。クリスとの再会を待ちきれないキムは、大切にしまっておいた結婚式のときに着た服に着替えて、ホテルに走った。クリスとキムはすれ違ってしまった。

 キムが飛び込んだ部屋には、見知らぬ女性が居た。あなた…もしかして「キム」さん?エレンは、悪夢にうなされるクリスがうわ言で「キム」という名を呼ぶのを聞いていた。クリスがアメリカで結婚していたことを知らないキムは、初めのうちエレンのことをジョンの妻だと思っていた。しかし、エレンは、自分はクリスの妻であると説明した。愕然とするキム。どうして!?そんなことがあるはずない!私達は結婚したのよ!キムにとっては、まさに青天の霹靂。にわかには信じられない。エレンもまた、この時初めて、夫の心の奥深くに隠されていた秘密を知った。彼は出直したかったのよ。クリスのアメリカでの苦しみを説明するエレン。混乱する頭でキムは必死に考えた。せめてタムを引き取って!そういい残してキムは去って行った。この場面は、完全にキムに感情移入しているので、悲しくて悔しくてぼろぼろ泣いた。(泣きポイント その2)

 居たわ/叫びたいこれは嘘/だけど真実/心には嵐が~♪ エレンはキムと出会い、キムが今でも心の底からクリスを愛していることを知ってしまった。キムが憎めるような嫌な女性だったらよかったのに…。でも、私だってクリスを愛している。奪われるならば、闘うわ。エレンもつらい立場だ。エレンからこの話を聞かされたクリスは、今まで閉ざしていた心の扉を初めて妻に開いた。クリスとエレンは話し合った。クリスはエレンと離婚するつもりはない。エレンは自分とクリスの子供が欲しい。タムをアメリカに引き取ることはできないし、そもそもキムからタムを引き離すことなんてできない。タムが学校に通えるように、養育費をキムに送金するというのはどうだろう?それを聞いていたジョンは言った。それでは問題の解決にならない。とにかく皆でキムとタムに会いに行こう。

 やるぜ俺!大成功!絶対つかむぞ/おお/アメリカンドリーム~♪ エンジニアのビッグナンバー。熱い!激しい!長い!この歌でエンジニアの生い立ちが語られる。父親は刺青師で、母親は娼婦。エンジニア少年は、母の客引きをさせられていたらしい。エンジニアの人生もまた厳しい。しかし、エンジニアはどんな境遇にあっても、アメリカンドリームを夢見て、疾走し続ける。ミス・チャイナタウンを乗せたキャデラック(アメリカンドリームの象徴。だと思う)が登場したあたりで、ナンバーは最高潮に達する。橋本エンジニアは、クドくてしたたかで胡散臭いけど、どこか憎めない人物。シリアスなストーリーの合間に、何度も客席の笑いを誘っていた。橋本さんって面白い人ですね(笑)。

 キムは、タムを幸せにする方法は、もはや一つしかないと思いつめていた。タムに可愛らしいよそゆきの服を着せるキム。そこへクリス達が訪ねてくる。3年振りの再会。見て、あなたの息子よ。タムをアメリカに連れて行って。キムはカーテンの後ろへと消えた。そして…銃声が響く。タムの幸福(=アメリカ行き)の妨げになっているのは、自分の存在。自分さえいなければ、クリスはタムを引き取って、アメリカで自分の子供として大切に育ててくれる。キムはそう思い、自ら命を絶つ道を選んだのだろう。大きな大きな母の愛。クリスは自分の不甲斐なさに、きっと歯噛みをしたことだろう。クリスは瀕死のキムを胸に抱いて泣き叫ぶ。キムは、タムの幸福を信じて死んでいった。キムの一生があまりにも悲しくて、涙が溢れた。(泣きポイント その3)

◇おまけ

 終演後にミニ・トークショーがあった。事前に知らなかったので、ちょっと得した気分(笑)。参加者は、岡幸二郎さん、鈴木ほのかさん、ソニンさん、井上芳雄さんの4人。ソニンさんは緊張ぎみだった。直前まで全身全霊でキムになりきっていたので、まだその余韻が残っていて、半分キム・半分ソニンという状態だったみたい。ソニンさんのキムは、小さな身体の中に溢れんばかりの大きなエネルギーを秘めていて、とても良かった。トークは岡さんと井上さんがリードしていた。普通にしゃべっているところを初めて見ましたが、岡さんも井上さんも超面白い!ヨッシー(『モーツァルト!』観劇以来、私の中では「ヨッシー」呼びが定着)がこんなにしゃべる人だとは思わなかった。二人は同郷のようなので、それで気が合うのでしょうか?

 ジョン(岡さん)&エレン(鈴木さん)で「♪サン・アンド・ムーン」を披露してくれるということだったのだが、直前にピアノの音が出なくなるというトラブルが発生し、急遽トークで間を繋ぐことに。ここで再びヨッシーの出番。自らネタを提供し、トークを繋いで、観客を厭きさせなかった。やるなー、ヨッシー。ファンになったかも(笑)。かなり長い時間待たされたが、なんとかピアノの音がでるようになり、「♪サン・アンド・ムーン」を聴くことができた。確かボサノバ・バージョンで歌ってくれたような気がする。

 『ミス・サイゴン』のプログラムは、今まで買ったプログラムの中で一番読み応えがあって面白かった。一冊の本としても十分に楽しめる内容だと思う。