2008年9月14日(日)11:00開演 日生劇場 S席 1階K列20番台 宝塚歌劇月組日生劇場公演
◆ミュージカル『グレート・ギャツビー』-F・スコット・フィッツジェラルド作“The Great Gatsby”より-(脚本・演出:小池修一郎)
【第1幕】
《第1場 ギャツビー邸前庭》
まずは、旅行用トランクを持ったニック・キャラウェイ(遼河はるひ)が登場。品の良い寅さん風。1922年、ニューヨーク郊外、ロングアイランド。証券マンのニックは、引っ越し先の新居の前にたった今着いたところ。おや?隣の家が賑やかだぞ。どれどれ行ってみよう。隣の大邸宅はパーティーの真っ最中。招待状なしで誰でも参加できるとのこと。ニックは、自分の家にもまだ足を踏み入れていないのに、流されるまま隣家のパーティに合流。もうこのあたりで、ニックの人物像が見えてきた感じ(笑)。大らかで育ちの良いぼんぼんニックは、この大邸宅の主であるジェイ・ギャツビーに引越のご挨拶をしたいのだが、誰も主の顔を知らないらしい。パーティーでは本物のシャンパンが振舞われていた。そこへ警察官たちがやってきて、禁酒法違反を取り締まろうとして大騒ぎになる。主はどこだ!ジェイ・ギャツビー出てこい!ジャジャジャジャ~ン!邸の扉をバーンと開けて華々しく登場したのは、謎の資産家ジェイ・ギャツビー(瀬奈じゅん)。ようやく主役の登場だ。お友達の警視総監(汝鳥伶)もそのパーティーに参加していたため、警察官たちは手を出すことができず、仕方なく退散していった。ギャツビーは裏社会に顔が利く男、という感じ。
《第2場 ギャツビー邸続きの突堤》
翌朝。庭続きの突堤。対岸をじっと見つめるギャツビーの後姿。男は背中で語るもの。そこへニックがやってくる。隣人として挨拶を交わす二人。そこにギャツビーがいたことは、ニックには意外なことだったんじゃないかな。おそらくニックは基本早起き(笑)。昨日はバタバタしていて、庭からの景色を眺める暇もなかった。よし、爽やかな朝の空気を吸いに庭に出てみよう。そんな感じで庭に出てみたら、突堤に佇むギャツビーが目に入った。あれ?ギャツビーさんかな?でも、昨夜と雰囲気が少し違うような…?対岸に住む大富豪トム・ブキャナンは友人であり、その妻デイジーは親戚(またいとこ)である。ニックの自己紹介の中で、ギャツビーが反応を示した部分。そう、この大邸宅も、毎夜のパーティーも、全ては「デイジー」との偶然の再会を期しての演出だったのだ。「愛していたと言うべきか。愛していると言うべきか。永遠に…と答えておきましょう…。」(byギャツビー)←うろ覚え。でも、クサイまでのキザ名台詞だ!と記憶に残っている(笑)。
《第3場 デイジーの邸の居室》
ニックはイースト・エッグにあるブキャナン夫妻宅を訪問。デイジー(城咲あい)はニックとの再会を手放しで喜んだ。ハンサムな金持ち男と結婚し、第一子(娘)を授かり、何不自由のない暮らしをしているように見えるデイジー。娘時代と変わらない美貌を保ちつつも、デイジーの表情はどこか優れない。トム(青樹泉)もまた友人ニックとの再会を喜んだ。仕事は順調そうだが、家族サービスは不足しているもよう。子供をあやす仕草がぎこちない。どこかの誰かさんから電話がかかってきて…。トムとデイジーの夫婦仲は正直微妙。原因はトムの浮気よ。デイジーの友人でプロゴルファーのジョーダン・ベイカー(涼城まりな)がニックに教えた。この時代に女性プロゴルファーが存在したということに驚き。ファッションも最新モードという感じだったし、流行の最先端を行く、働く女性だったのかな?
女の子はバカな方が幸せなのね/女の子は何も知らないほうがいい/女の子が人の世を知ってしまうと不幸になるというのね~♪ 「♪女の子はバカな方がいい」は太田健先生作曲なので、今回の再演のために書き下ろされた新ナンバーということかな。最初は「バカ」の連発に衝撃を受けた(笑)が、今思い出してみると、一番印象に残っている曲かもしれない。デイジーはバカじゃない。愛することを知り、愛されることを知り、裏切りを知った。私は本当に幸せなの?このままでいいの?そんな心の中に湧き上がる疑問を、自らの強い意志で押さえ込むデイジー。愛娘を抱きかかえながら歌う。この子もバカな女の子に育てるわ。その方が幸せになれるから…。デイジーは、ニックの隣人の名が「ジェイ・ギャツビー」だと聞き、密かに動揺する。
《第4場 街路~ウィルソンのガソリンスタンド》
夫選びを間違えた。イイ男はみ~んな戦争に行っちまった。残った男はカスばかり!トムの愛人マートル・ウィルソン(憧花ゆりの)がフラッパーたちと、失敗した自分の結婚と不倫の愛を、にぎやかに歌いあげる。何だか分からないけど、このナンバーがすっごく楽しかった(笑)。「フラッパー」=「おてんば娘」(英語「a tomboy」/※「flapper」は1920年代の俗語らしい。) トムがニックを連れ、マートルの夫ジョージ・ウィルソン(磯野千尋)が経営するガソリンスタンドにやってくる。ウィルソンは真面目だけが取柄の冴えない男。ウィルソンが席を外すと、トムとマートルは逢引の約束をするが、デイジーの話を巡っていさかいになる。ニックは、これが噂の浮気相手かぁ、という顔で傍観。
《第5場 ニックの部屋とジョーダンの部屋~デイジーの家の前庭》
上手花道にジョーダン、下手花道にニックが登場。寝巻き姿の二人が受話器を手に会話を始める。あなたの隣人がデイジーの昔の恋人なんですって!隣人って…ギャツビーさんのこと?
時代は一気に遡って、1917年、ケンタッキー州ルイヴィル。デイジーの父アンソニー・フェイ判事主催の(第一次)世界大戦参戦記念パーティーが今まさに開催されようとしていた。兵士たちは客席からの登場だった。下手側の横扉から入場し、客席の間を行進して舞台に上がった。客席の照明は薄暗かったし、皆同じ茶色の兵服を着ていたので、あぁ兵隊さんの行進だなぁ、と思って眺めていたのだが、途中でハッとした。もしかしてあの中に瀬奈さんがいるのか!?兵士たちの後姿を凝視。一番後ろを歩いていた人物が瀬奈さんだと、舞台に上がる寸前に気づいた(笑)。名家の娘であり、ルイヴィルでも名高い美貌の持ち主であるデイジーは若い男たちの憧れの的。天真爛漫な18歳のデイジーは、そのパーティーで運命の出会いをする。相手はもちろん、歩兵第67連隊ジェイ・ギャツビー中尉!
《第6場 ルイヴィルの森》
確か白いベンチがあって、それに並んで座ったり、ベンチの上に立ち上がったり、飛び降りたりしながら歌っていたような。お姫様は白馬の王子様を待っているの。主役の二人は出会った瞬間に恋に落ちた。デイジーは周囲の青年とは違う、自立心旺盛なギャツビーの中に「アメリカの男」を見出した。二人は将来を誓い合うのだった。
《第7場 デイジーの家の前庭~ニックの部屋とジョーダンの部屋》
デイジーとギャツビーは毎晩デートを繰り返していた。ギャツビーの出征が決まった夜、デイジーの母エリザベス(梨花ますみ)は、ギャツビーに別れを迫った。理由①:家柄が釣り合わない。理由②:経歴詐称。梨花エリザベスの迫力に圧倒されてしまった瀬奈ジェイは、承諾せざるをえなかった。デイジーが手紙を出しても、絶対に返事を寄こさないでちょうだい!ダメ押しの一言が胸に突き刺さる。旅支度をして現れたデイジー。行動派デイジーはギャツビーを追いかけるために、家出を決心していた。しかし、梨花エリザベスがそれを見逃すはずがない。金持ちの娘はふさわしい相手とでなくては幸せになれない、と無理やり引き止める。ギャツビーとの愛を否定され、仲を引き裂かれたデイジーは、その場に泣き崩れる。なるわ/なってみせる/ただのバカな女の子に/この愛を閉じ込め/生きていくわ私/その方が幸せだと言うなら~♪ デイジーの「女の子はバカな方がいい」論は、このときに生まれたわけですね。
場面は再び、1922年、ニューヨークに戻る。ニックとジョーダンの電話の続き。デイジーが思い出の恋人と、あなたの隣人が同一人物なのかどうか知りたがっているわ。僕、ギャツビーさんから「アイス・キャッスル」に招待されてるよ。
《第8場 アイス・キャッスルの前~中~奥》
謎の資産家ジェイ・ギャツビーの正体は、高級もぐり酒場「アイス・キャッスル」のオーナー。禁酒法の網の目をかいくぐって、一財産築いたのだ。オーナーはなぜかカウンターの上から登場(笑)。カウンターの上で激しいダンスを繰り広げる瀬奈ギャツビー。酒は売るが、カード詐欺は許さない。麻薬の売買なんてもってのほかだ。ギャツビーはどうやら本物のワルではないらしい。ギャツビーはニックにデイジーのことを打ち明け、偶然を装ってデイジーを家に連れてきてほしいと頼んだ。ニックは協力を承諾した。
「あいつ(ギャツビー)がこの店に友達を連れてきたのはこれが初めてだぜぇ~。」(byウルフシェイム) 暗黒街の顔役ウルフシェイム(越乃リュウ組長)のキャラが面白すぎる(笑)。タカラヅカでは、マフィアは縦縞ストライプのスーツで、白い巻物(スカーフ?)を首にかけるというのが、セオリーなんですかね(笑)。ギャツビーは、その度胸と一途さをウルフシェイムに買われて、無一文からのし上がってきたのだ。例えどんな汚い手を使っても金持ちになってやるゼ。ウルフシェイムを筆頭にクラブの男たちが歌い踊る場面が、男クサくてシブくてサイコー(笑)。
《第9場 ニックの家の前~ギャツビーの家の中》
ニックの仲介で、ギャツビーとデイジーは5年ぶりの再会を果たした。ギャツビーの家の中に入ったデイジーは、ギャツビーが本当にお金持ちになっていたことに感激。ギャツビーはクローゼットを開けて、上等のシャツを次々取り出し、デイジーに向かってポンポン投げた。全ては君(デイジー)のために買ったものさ。過去を取り戻すことはできないと嘆くデイジー。過ぎた日は乗り越えることができると説得するギャツビー。二人はギャツビー邸のパーティーでの再会を約束した。
《第10場 ニックの家の近所》
ニックはジョーダンにゴルフのレッスンを受けていた。その時突然、ニックがジョーダンにキスをした。遼河さんと涼城さんの身長差がものすごい。ビックリするくらいの凸凹カップルだ。キスの後のジョーダンの第一声は「待ってたのよ、あたし。人の世話ばっかりやいてないで、もっと我侭になりなさいよ。じゃないと、女は捕まえられないわよ。」ニック坊やにはジョーダン姉さんは手強すぎる相手なのでは…。二人は、再燃したギャツビーとデイジーの愛の行方を気にかけていた。
《第11場 ギャツビー邸前庭》
ギャツビーのパーティー。デイジーと踊るギャツビーを見たトムは、二人の間に漂うただならぬ空気を感じ、自分の妻に手を出すなと、ゴルフでの勝負を挑むのだった。トムは自分も不倫している(そのパーティーでマートルと踊ってたし!)くせに、自分のことは棚に上げて、デイジーのことに口出しするなんて、絶対オカシイと思う!ウルフシェイムは、人妻との恋愛に身をやつすギャツビーを非難。麻薬の取引は絶対にしないというギャツビーに見切りをつけ、ギャツビーのなわばりを取り上げ、ビロクシー(光月るう)とラウル(彩央寿音)に譲ってしまう。しかし、ギャツビーは、暗い過去から抜け出して、明るい未来を取り戻せる、という希望を感じていた。
【第2幕】
《第1場 ウィルソンのガソリンスタンド~愛の楽園》
ウィルソンは妻の浮気に気づいていた。カリフォルニアに行ってやり直そう。しかし、マートルは激しく拒否。ウィルソン、マートル、トム、デイジー、ニック、ジョーダン、そしてギャツビー。それぞれの愛が交錯する。
《第2場 ウィルソンのガソリンスタンド》
ゴルフ場へ向かう途中、一同はガソリンスタンドで鉢合わせする。「ギャツビーの車に乗りたいか?」(byトム) 人の気持ちを逆なでする質問。やっぱ嫌なヤツだ。ギャツビーの車に乗りたいと答えたデイジー。トムは、それならゴルフ場まで車を交換しよう、とギャツビーにもちかける。ここで若かりし頃のデイジーの天真爛漫ぶりが発揮される。トムの青い車に乗り込んだギャツビーの脇にさっと乗り込むと、私はこっちで行くわ~、と言って先に出発してしまった。ギャツビーの黄色い車に乗り込んだトムは、後から慌てて追いかける。ウィルソン家の2階の窓からは、車で走り去るトムを呼ぶマートルの絶叫が聞こえていた。
《第3場 ゴルフ場》
ゴルフコンペに勝ったら自分に人生を預けてほしい。ギャツビーはデイジーにプロポーズした。デイジーはそれを了承した。コンペの結果は、ギャツビーの勝利。これでデイジーと結婚することができる…わけがない。逆上したトムは、ギャツビーの正体をぶちまけ、嘘で塗り固めた経歴だと、激しく罵った。ショックを受けたデイジーはその場から飛び出して行ってしまう。ギャツビーはデイジーの後を追いかけた。
《第4場 ウィルソンのガソリンスタンドの前》
マートルが車に撥ねられて亡くなってしまった。ウィルソンは、走り去る黄色い車を見たという目撃情報を聞き、ゴルフ場へ行くときに黄色い車に乗っていたトムを責める。しかし、トムは自分ではないと否定した。ウィルソンはマートルをひき逃げした犯人への復讐心で半狂乱になってゆく。
《第5場 デイジーの家の前》
ガタガタと震えるデイジー。車を運転していたのはデイジーだったのだ。黄色い車が走ってくるのを見たマートルは、おそらく運転手がトムだと勘違いしたのだろう。停めようとして車の前に飛び出し、デイジーの運転する車に撥ねられてしまった。「運転していたのは…僕だ。いいね。」(byギャツビー) ギャツビーはデイジーの罪を代わりに引き受けようとしていた。ニックは犯人が誰か気づき、ギャツビーを問いただす。しかし、ギャツビーは口止めして、一人海を見に行く。
《第6場 神の目》
背景セットの「目」(看板?)がずっと気になっていた。この場面になったとき、例の「目」だけが残されたので、やっぱり重要な意味のあるものだったんだなと思った。もう一つ気になっていたことは、ウィルソン役がなぜ磯野さんなのか、ということ。マートルの夫役にしては、やはり年齢差があるように感じて…。でも、この場面に来てようやくウィルソンが超重要な役であることに気づいた。そうか、そういうことだったのか。神は見ている/人が何をしたのか/正しい者と間違った者の違いを正しく知っている/神の目は誤魔化せない/欺けはしない/邪な行いに裁きを下す/もし神の手が足りなければ/人が代わりを果たす/神の代わりを俺が果たす~♪ ウィルソンの目には狂気の色が浮かんでいた。
《第7場 ギャツビー邸続きの突堤》
突堤に佇み、対岸を見つめるギャツビーの後姿。ウィルソンがやってくる。あの黄色い車はおまえのだな?おまえがマートルをひいたんだな?ああ。ギャツビーは静かに認めた。ウィルソンは拳銃を取り出した。神の手が足りなければ、俺が代わりを果たす…。一発の銃声が響き渡り、ギャツビーが倒れた。ウィルソンは銃口を自分のこめかみに当てた。マートル…。二発目の銃声が響いた。
《第8場 ニックの部屋~街路》
ニックが、ギャツビーの死を皆に知らせるのだが、皆手の平を返したようにそっけない態度を取る。ジョーダンまでも、愛は終わったと告げて、彼の元から去っていった。だから、ジョーダン姉さんはダメだって言ったのに…。
《第9場 墓地》
結局、ニックは一人でギャツビーの埋葬に立ち会うことになった。そこへ、一人の男性が近付いてくる。新聞記事でジェイ・ギャツビーの死を知って駆けつけたという。彼の名はヘンリー・C・ギャッツ(汝鳥伶)。ギャツビーの父親だ。そこへ、一台の車がやってくる。車から現れたのはデイジー。無言で花を手向け、再び車に乗って去っていった。プログラムの中で、演出家の小池修一郎氏自身が、脚色上の最大の違いはデイジーがギャツビーの墓を訪ねる点だと言っている。デイジーという女性は万人受けする理想の女性ではない。でも、完璧な人間など、この世の中にいるのだろうか?デイジーは、マートルの死と自分の身替りになって死んでいったギャツビーの死という重い十字架を背負って生きていくのだ。デイジーは心の中で、ギャツビーにどんな言葉をかけたのだろうか?父ギャッツは、息子ギャツビーの日記を読み上げ、彼の人生を回想する。父の回想の中、少年ギャツビー(彩星りおん)が日記を書き綴る。ジェイはいい子だったよ…なんでこんな結末になっちゃったんだろう…(泣)。
《第10場 ギャツビー邸続きの突堤》
少年ギャツビーが、成人ギャツビーと入れ替わる。僕は取り戻そう/二人のあの夢/輝ける未来あふれる/朝日の昇る前に~♪
《第11場 カーテン・コール》
出演者全員によるカーテン・コール。紳士S(瀬奈じゅん)、淑女S(城咲あい)。
◇おまけ
瀬奈さんが超キメキメでカッコつけまくりだった。ポスターやプログラムで使用されている写真がとっても素敵。黄昏時のような色合い。照明の感じで、表情に絶妙な影ができていて、1920年代ジャズ・エイジの享楽的で刹那的な雰囲気がよくでていると思う。二人(ギャツビーとデイジー)はきっとうまくいかないんだろうな…と予感させる。青樹さんは「いい人」というイメージがあったので、今回のトム役は意外な感じがした。本当に本当に超イヤ~な男だった(褒め言葉)。日生劇場3回目にして、初めての見やすい席だった(笑)。
今回の観劇ツアーは、『スカーレット・ピンパーネル』と『グレート・ギャツビー』の豪華2本立て。どちらも小池修一郎氏の演出。お忙しいですねぇ。11月末に東宝『エリザベート』を見に行く予定で、これまた小池氏演出。大好きな作品なので、とーっても楽しみです!