たまゆら夢見し。

気ままに思ったこと。少しだけ言葉に。

我が背子 大津皇子61

2019-04-25 20:35:33 | 日記
「天武さまに詫びても詫びきれぬわ!草壁、この劔に誓って申そう。そなたと大津はこの我の息子ぞ。よくも兄殺しに加担できたのう!あれほどの兄をのう!」と皇太后は言い、無抵抗の草壁皇子の両頬を思い切り数回打ち据えた。

草壁皇子は「お許しください。」と何度も哀願したが皇太后は聞こえないように打ち据えた。草壁皇子が倒れると胸ぐらを掴み更に激しく打ち続けた。

「不比等、見るがよい。このような男に仕えお前は何がしたかったのじゃ。このような小者、天皇と呼べるわけなかろうが。」と涙を滲ませ今度は不比等の両頬をを目がけて打ち据えた。

不比等があまりの迫力に「お静まりを、皇太后さま」と言うと「我に静まれと言うのか。では、我の忠告を何故無視した!それ相当の代価と申し伝えたはずじゃ。それなのに我を欺き、今は命令するなどお前は我を愚弄するにもほどがあるわ!殺しても殺し足りぬわ!」さらに激しい殴打が不比等に加えられた。

皇太后は、権力と言う名で人を打ち据えたのは初めてだった。髪、衣服は乱れ、装具品の金属が不比等の頬や口唇に当たり割いた。

不比等には鬼以上のものとしか思えず恐怖におののき許しを乞うしかなかった。皇太后にこのような力があったことにも驚愕していた。

「大津の無念は測りしきれない。草壁、そなたは天皇は無理じゃ。徳のない者が即位するとこの国は荒れる。我は徳は無き者ではあるが大津を無くしたいま、そちよりましじゃ。我が仲立ちの天皇になる。持統じゃ!皇統を握り持っている者、良いであろうが。
我がいなくなった時、天がお前に皇統をと言うのならお前の罪は晴れたとしよう。それまでは皇太子とし黙っておれ。
不比等、お前は油断がならぬ。即刻首を差し出してもらいたいところじゃ。」と持統天皇は不比等を睨んだ。
不比等は、死への恐怖に失禁してしまった。滲んだ床を見て持統天皇は
「ほう、こんな穢れらわしいものを我にまだ見せるのか。そんなに死が怖いか。不比等。大津はそなたより六つも早くにお主らに殺されたぞ。しかも不名誉な大義名分を突きつけられ自死ぞ。」と持統が劔を床から引き上げ不比等に先を向けた。
不比等は狂人になれたらいっそどんなに楽かと考えるほどの恐怖を味わい言葉も出ず戦慄が走った。

「お…お許…」不比等は必死に声を出そうとするが出ない。出たらいつ持統天皇が持った劔が自分の胸を突き刺そうとするか測りしきれなかった。

「大津は西にある二上山に葬る。そなたらがこのような馬鹿げた暴挙に出ぬように守り神にする。いつもいつも大津に見下ろされておれ。」と持統天皇は言い「不比等、お前は油断ならぬ。かと言って殺すと高天ヶ原で父天智天皇に合わせる顔がない。父の忠臣殺しも我にとっては不名誉。」劔を足元に向け「お前の父鎌足に免じてやる。我に仕えろ。先も言った通りそなたは油断ならぬ故、我がいつも見張っておく。我を再び裏切ることがあったら我が手を汚さずともじゃ。わかるな。が、我はお主らを許さない。それだけは覚えておけ!」内安殿は静まりかえった。

「高市皇子、いまの一部始終見ておったな。」と持統が言うと玉座の影から高市皇子が現れ「はい。川嶋皇子と確かに。」と続き川嶋皇子が現れた。