たまゆら夢見し。

気ままに思ったこと。少しだけ言葉に。

我が背子 大津皇子48

2019-03-29 09:45:04 | 日記
天武の回復を皆が待ちわびたが、なかなかことは思うようには進まなかった。

皇居正殿で病いに苦しむ父、天武天皇を大津は毎日見舞った。時に山辺皇女を連れ、時に川嶋皇子、高市皇子、御方皇子と共に見舞った。
時間によって「大津、よう来てくれた。」と労ってもくれたが、会話もままならなく眠っておられる時もあった。
皇后にはお二人に時間ある限りゆっくりなさっていただきたいとの思いから、あえて席を外した。

どう見ても祖父上である天智天皇の病とよくにているのである。胃の辺りに硬い腫れ物が触れる。痛みと嘔吐を繰り返し食ももちろん細り誰の目から見ても重病というのが見て取れるくらいに。

斎宮では、皇后に命じられ大伯が連日に大祓えの祝詞に祈りを捧げていた。

多紀皇女が訪れ、大伯に泣き崩れた。「あと半年も難しいと薬師が申しておりました。」

大伯は自分の異母妹である多紀皇女に「皇后さまも心許無くお寂しいでしょう。どうぞあなたも気を確かにお支えしてさしあげて。あなたはとても気丈な皇女とわかります。大和からこの伊勢に行くようにと命じられたほどのお方ですもの。どうぞお願い。」大伯は多紀皇女を抱きしめた。

多紀皇女はひとしきり泣いたあと「大伯さま…自信はないですが覚悟ができました。」と言った。
「よくおっしゃいました。それでこそ父天武の娘です。」と大伯は頼もしそうに言った。
「大伯さまの父上でもあらされるのに、私ばかりが泣き言を言い恥ずかしいですわ。以後気をつけます。」と多紀皇女は皇女らしく凛とした姿で大伯に詫びた。

大津が天武を見舞っていると、皇后も現れた。
大津が下がろうとした時、天武が止めた。皇后も深く頷き大津に腰掛けるよう合図した。
天武は「わしは永くない。秋が来る頃には命がもたないと思う。ただこのままではまた皇位をめぐり争いが起きるやもしれん。朕は今から上皇となりそなたに天皇として即位してもらう。良いな。皇后は皇太后となり、大津を支えてやってほしい。立后に関してはそなたたちに任せる。いいな大津。これは皇后と一緒に考えた上での詔じゃ。」と一気に言い終えた。
「父上。義母上。」と涙をこらえ大津は頭を垂れた。