たまゆら夢見し。

気ままに思ったこと。少しだけ言葉に。

我が背子 大津皇子47

2019-03-26 20:53:24 | 日記
天武天皇が倒れ国政に大津も皇后も追われて日々を過ごした。
激務であった。
ー 天皇と同じ目線に立ち国のありようを観れる女人…それを皇后陛下とお呼びするのだな。
もし我が天皇になり妃が山辺ならどうなるのであろう…奇跡を信じて姉上なら…きっと我と同じものを観て同じことを思うであろう。だが我は姉上を我のもので人目に見せたくない。しかし姉上ならそれを良しとはしないであろう。そこで我はどう行動に出るべきなのか。…と大津は皇后をふと見上げた。

「大津、いえ皇太子…我は女人には見えないであろう。」と皇后が大津を見つめ言った。
「どうしてそのようなことを。義母上には、ただただ、そうして天皇を支えてこられたのだと…我が妃にそのような激務が耐えられるか、どうかなどまで考え及んでいました。」と大津は答えた。

「我はそうでしか夫の愛を得られなんだ。大田の姉上であればどうだったのであろうと思う時は正直ある。夫は大田の姉上を人目に晒さずずっと自分のものとして囲っていたであろうな。女人として大田の姉上は天皇から一番愛されておった。我は妃でありながら結局こういう立場でしか生きて来れなかったと思うしの。大津、そなたはどうしたいか。」と皇后は真摯な眼差しで聞いた。

「私は母上、義母上のお姿を両方兼ね備えた妃を迎えたかったと思います。」と大津は絞り出すように答えた。陽が辺りを斜めに大津の顔を映し出す。
大津は大伯にそれを求めた。しかし山辺もいる、大名児もいる…もう誰も幸せにしていないのではないかと考えていた。
苦悩している大津の表情を観て皇后は神々しいまでに美しいのうと思った。
「迎えたかった…過去の言葉で語るのじゃのう。」皇后は大津に投げかけた。大津は大伯を想っていると確信した。

大津は言葉がなかった。しかし本当の願望を言い出せるわけではなかった。

「今は天皇に元気になっていただこう。またそのときになれば話すこともあろう。とりあえずこの国難にまずは向き合おうぞ。誠心誠意励めば良き答えはそなたに訪れる。間違いはない。」と皇后は大津を励まし慈しむように言った。

大津もはっとした表情で皇后を見つめ頷いた。

しかしながら天武天皇の病状は快復へと向かわなかった。