たまゆら夢見し。

気ままに思ったこと。少しだけ言葉に。

我が背子 大津皇子23

2019-01-10 09:02:32 | 日記
「姉上…私はまだ山辺皇女を抱いてはおりませぬ…」大津は大伯に事実を伝えた。

「何故…」

「姉上をお慕いしているのです。そんな気持ちのまま山辺皇女を抱けなかった。でも、姉上でありこの国の最高神の妻神…私はどうしようなく迷った。そんな時姉上が病になられた。やっと会えて自分のしたことに間違いではなかったと。」

「大津…」大伯は絶句したままだった。

大津は恥ずかしいことを不可侵の女神に言ってしまった。もう二度と弟しても見てもらえないかもしれないとも思っていた。「さ、姉上、薬湯をお飲みください。…先程のことは弟の戯言ことともう聞き流してくださいませ。お耳を汚し申し訳ありませぬ。」

大津から薬湯を受け取った大伯は小刻みに震えていた。
「大津…私とてそなたを。姉弟を越えて。私とて。」

大津は驚き「真ですか。」と思わず前のめりになり聞いた。

大伯は小さく頷き「あなたが山辺皇女を妻にしたと都から聞かされ幸せを祈ったわ。しかし以前そなたがここに来てくれたあとどんなに寂しくても…我が意識を向ければ月明かりにも大津はいる、どこにでも大津はいる一緒だという気持ちが消えたの。それを探すため禊を増やし祈ったわ。でも、自我の祈りなんて意味ないのね。身体を壊しただけよ。妻神と言われても我は感情を持った人間なのよ。ただ…大津…山辺皇女を悲しませてはならないと思うわ。」と言い薬湯を口に含み飲んだ。

「姉上のお気持ちが聞け私は嬉しい。」

「ねぇ、大津。奇跡って信じる。」

「今でも夢のようですが。」

「斎王はいずれ終わりがくるわ。その時奇跡が起こるの。きっとそなたが望むような奇跡よ。」

「奇跡…何か姉上は私に隠しておいでですか。」

「我が斎王を解かれるときはやはり不謹慎なことでしょう。それは言えないけれど、奇跡を信じてくれる。」

「私が望む奇跡は姉上も望んでくださることなのですね。」

「ええ、きっとそうなるわ。」

大津の身体が熱くなった。心の臓が強く打っていることを感じた。



我が背子 大津皇子22

2019-01-10 08:58:51 | 日記
数日経つと大伯は軽い食事も取れるようになってきた。

大津は飛鳥にいる父、天武天皇には改善傾向であるが全快には日がかかるとの早馬を飛ばさせた。

やはり夜になると微熱が続くといった状態で油断は禁物の状態であった。

大津が野に咲く花を手折り大伯に見せたり、都の話、時に漢詩の話などをし大伯を和ませた。

「大津、もう大和に帰っていいのよ。山辺皇女も寂しがっているでしょうし、何よりそなたは皇太子。
やらなくてはならない責務があるでしょう。」大伯は少しうつむき加減に言った。

「何を仰せですか、姉上。私の今の役目は姉上がまた斎王として国の安泰の祈りを捧げられるようになること。大事な責務だと思われませぬか。」

「そうね…でも…いいのかしら。そなたを伊勢に留めて。」と大伯は言い少し咳が出てしまった。また、心配をかけてしまうと歯痒い思いになった。

「姉上、お顔が赤くなられました。また、熱が出始めておいでではないですか。薬湯を作らせましょう。」
大津は近くにいた礪杵道作に薬湯を持ってくるよう命じた。

「大津…そなたの気持ちは嬉しいの。でも…」

「姉上、姉上らしくありませぬな。」

「私が山辺皇女であれば…少しでもそなたから離れたくはない。それが何故か我には痛くわかるから。」

「姉上…」大津は言葉を詰まらせた。

その時礪杵道作が薬湯を運んで来た。大津は受け取り用事があれば声をかけるので二人きりにしてほしいと退がらさせた。

「山辺なら留守を守ると申しておりました。姉上はご自身が良くなることをお考えになられますように。」

「そなたの幸せが我の幸せと言いながら情けないわ。」と大伯は苦痛に滲んだ表情をした。