たまゆら夢見し。

気ままに思ったこと。少しだけ言葉に。

我が背子 大津皇子22

2019-01-10 08:58:51 | 日記
数日経つと大伯は軽い食事も取れるようになってきた。

大津は飛鳥にいる父、天武天皇には改善傾向であるが全快には日がかかるとの早馬を飛ばさせた。

やはり夜になると微熱が続くといった状態で油断は禁物の状態であった。

大津が野に咲く花を手折り大伯に見せたり、都の話、時に漢詩の話などをし大伯を和ませた。

「大津、もう大和に帰っていいのよ。山辺皇女も寂しがっているでしょうし、何よりそなたは皇太子。
やらなくてはならない責務があるでしょう。」大伯は少しうつむき加減に言った。

「何を仰せですか、姉上。私の今の役目は姉上がまた斎王として国の安泰の祈りを捧げられるようになること。大事な責務だと思われませぬか。」

「そうね…でも…いいのかしら。そなたを伊勢に留めて。」と大伯は言い少し咳が出てしまった。また、心配をかけてしまうと歯痒い思いになった。

「姉上、お顔が赤くなられました。また、熱が出始めておいでではないですか。薬湯を作らせましょう。」
大津は近くにいた礪杵道作に薬湯を持ってくるよう命じた。

「大津…そなたの気持ちは嬉しいの。でも…」

「姉上、姉上らしくありませぬな。」

「私が山辺皇女であれば…少しでもそなたから離れたくはない。それが何故か我には痛くわかるから。」

「姉上…」大津は言葉を詰まらせた。

その時礪杵道作が薬湯を運んで来た。大津は受け取り用事があれば声をかけるので二人きりにしてほしいと退がらさせた。

「山辺なら留守を守ると申しておりました。姉上はご自身が良くなることをお考えになられますように。」

「そなたの幸せが我の幸せと言いながら情けないわ。」と大伯は苦痛に滲んだ表情をした。