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還暦おやじの洋楽日記

Soundbreaking(サウンドブレイキング)- Stories from the Cutting Edge of Recorded Music -

コロナ禍で外出を憚られる状況になってきたこともあり、ここ暫くは専らこれまで買ったまま店晒しにしていたDVDを自宅で視聴している。ほとんどは昔の映画のDVDなんだけど、2年ほど前に購入して封も開けずに放置していた「サウンドブレイキング」という音楽ドキュメンタリーもやっとお蔵出しして観た。もともとアメリカで制作されたTV番組で、日本でもWOWWOWで放映されたらしい。その後、WOWWOWの子会社から発売されたのが自分の手元にあるDVD。

レコーディングに関わる要素なりテクノロジーなりを8つのエピソードとして切り出し、著名なミュージシャン達のインタビューや記録映像で構成された、ポピュラーミュージックのアナザーサイドストーリーとも言うべき内容。監修はジョージ・マーティン。この他に本編に収録されなかったインタビュー時の映像が特典として追加されている。1エピソードがだいたい50分ぐらいでDVD3枚組、定価9,800円と決して安くないが、実に見応えのある作品だった。

<エピソード1 レコード・プロデューサー>
主な出演者:ジョージ・マーティン、トム・ペティ、リンゴ・スター、ジョニ・ミッチェル、リック・ルービン、サム・フィリップス、エルヴィス・プレスリー、ビートルズ、フィル・スペクター、スライ&ザ・ファミリー・ストーン、ドクター・ドレー、ジョニー・キャッシュ
<エピソード2 マルチトラック・レコーディング>
主な出演者:ロジャー・ウォーターズ、ロジャー・ダルトリー、ブライアン・イーノ、ナイジェル・ゴッドリッチ、リンゴ・スター、ジョージ・マーティン、ジョン・レノン、ジョージ・ハリスン、ポール・マッカートニー、デヴィッド・ギルモア、ザ・ビートルズ、ザ・ビーチ・ボーイズ、ピンク・フロイド、フリートウッド・マック、ユーリズミックス、ボン・イヴェール、ベック、レディオヘッド
<エピソード3 ヴォイス>
主な出演者:ベン・ハーパー、ボニー・レイット、マーク・ロンソン、スザンヌ・ヴェガ、リンダ・ペリー、ジョージ・マーティン、アデル、エイミー・ワインハウス、アレサ・フランクリン、カニエ・ウェスト、シェール、クリスティーナ・アギレラ
<エピソード4 エレクトリック>
主な出演者:ロジャー・ダルトリー、ブライアン・イーノ、マーク・マザーズボー、ドナ・サマー、ジョルジオ・モロダー、スクリレックス、ティエスト、ジョージ・マーティン、ザ・ローリング・ストーンズ、ジミ・ヘンドリックス、スティーヴィー・ワンダー、ザ・フー、マディ・ウォーターズ、キース・リチャーズ、マルコム・セシル、ディーヴォ
<エピソード5 ビート>
主な出演者:スモーキー・ロビンソン、ナイル・ロジャース、ロビン・ギブ、バリー・ギブ、ジェリービーン・ベニテス、シーラ・E、モービー、ジョージ・マーティン、リトル・リチャード、ジェームス・ブラウン、ビヨンセ、カルロス・サンタナ、シック、ドナ・サマー、ザ・ビー・ジーズ、ティエスト、ポール・カークブレンナー
<エピソード6 サンプリング>
主な出演者:アフリカ・バンバータ、チャックD、ハンク・ショックリー、ダリル・マクダニエルズ、RZA、アダム・ホロウィッツ、ジョージ・マーティン、リック・ルービン、RUN-D.M.C、エアロスミス、パッブリック・エナミー、ビースティ・ボーイズ、ウータン・クラン
<エピソード7 ミュージックビデオ>
主な出演者:エリック・クラプトン、ビリー・アイドル、アニー・レノックス、デイヴ・スチュワート、デビー・ハリー、ジョン・ランディス、ジョージ・マーティン、デヴィッド・ボウイ、ビートルズ、ブロンディ、ディーヴォ、マイケル・ジャクソン、マドンナ、ユーリズミックス、ニルヴァーナ
<エピソード8 フォーマット>
主な出演者:ジョージ・マーティン、ミッキー・ハート、ジェリー・ガルシア、ベティ・カンター・ジャクソン、マーク・ノップラー、スザンヌ・ヴェガ、フランク・シナトラ、マイルス・デイヴィス、マーヴィン・ゲイ、グレイトフル・デッド、ダイアー・ストレイツ
<特典映像>
・エルトン・ジョン&サー・ジョージ・マーティン
・リンゴ・スターのドラム教室
・ロザンヌ・キャッシュ サン・レコードについて
・リンダ・ペリー ピンク発掘の経緯
・チャーリー・クリスチャンとレス・ポール
・トム・ショルツ ハモンドB3を語る

このDVDの存在を知ったのは「レコードコレクターズ」2017年10月号の立川芳雄氏による紹介記事だった。プロの音楽評論家による広範な知識に基づく客観的な内容解説は当然そちらに譲るとして、個人的に印象的だったシーンの感想をいくつか。因みに僕は60年代後半からせいぜい80年代前半あたりまでの音楽シーンしか追っかけていなかったので、いっぱい出てくる出演者も半分ぐらいは知らず、かなり偏った感想になっております。
特に面白かったのは、<マルチトラック・レコーディング><エレクトリック><ミュージックビデオ><フォーマット>といった、エクイップメントの進歩がポピュラーミュージックに与えた影響を考察したエピソード。
<マルチトラック・レコーディング>では冒頭にボストンのトム・ショルツが登場。デビューアルバムを殆ど一人で作り上げた逸話は有名だから彼が出てくるのは想定の範囲内だったが、多重録音の始祖がレス・ポールだったなんて知らなかった。ビートルズとビーチボーイズが新しい録音技術を活用するべく試行錯誤して鎬を削っていたなんて話は新鮮だったし、ピンクフロイドの「狂気」やフリートウッドマックの「牙」が制作された時の苦闘話も興味深かった。
<エレクトリック>は文字通りエレキ楽器の導入と進化について。そもそもロックがエレキ楽器なしに成立しなかったのは自明の理だが、アンプの高性能化によってバンドサウンドがどんどん大音量になっていった過程を、代表格であるザ・フーのロジャー・ダルトリーに語らせるのも可笑しい。史上初のロックギタリストだったというチャーリー・クリスチャンの名前は恥ずかしながら知らなかったが、エレキギタリストの系譜としてB.B.キング、マディ・ウォータース、エリック・クラプトン、ジェフ・ベック、ジミ・ヘンドリックスといった綺羅星のようなスーパーギタリスト達が映像またはインタビューで登場する。キーボードも電子化されてシンセサイザーが生み出された訳だが、エレキギターの丁寧な紹介に比べるとこちらのほうはかなり雑な印象。ディーヴォがやたら時間を割いてフィーチャーされているが、彼等が電子楽器の使い方でなにか画期的なことをしていたとは思えない。それよりもその前の時代のキーボーディスト達にもっと光を当ててほしかった。
<ミュージックビデオ>は音楽ビデオによって音楽産業自体の在り方が変わっていく様を描いたもの。MTV以前の音楽映像の扱われ方がどのようなものであったか、MTVの登場によってそれがどのように変化していったのかをリアルタイムに知っている者として興味深く観たが、ミュージックビデオが全盛になっていった時期というのは自分が音楽シーンに興味を失ってしまった時期とシンクロする。はっきり言えば、猫も杓子もエンターティメント路線に走り、誰もが映像ばえするパフォーマーであることを求められた挙句、音楽そのものも扇情的で刹那的になってつまんなくなっちゃったんだよ。だからマイケル・ジャクソンやマドンナの映像をちょっと白々しい気分で観てしまった。
<フォーマット>は音楽を記録する媒体(メディア)についての話。アナログレコードが78回転のSP盤から33回転のLPと45回転のEPに分かれた経緯がRCAビクターレコードとコロムビアレコードの主導権争いの産物だったとは、初めて知って目から鱗。レコード時代のポピュラーミュージックはこの2つの規格の制約に支配されて作られていたのは紛れもない歴史的事実。全てのミュージシャン達は1枚45分の制約を前提にアルバムを作り、ヒットさせたいコマーシャルな曲は4分以内に収めようとしたものだ。その後CD時代になってアルバムの1枚45分の制約は74分に変わったけれど、この74分という容量だってソニーの大賀社長が「第九」を1枚に収めたいから決まったなんて、実にアバウトな史実があるもんな。
でも更に時は流れネット配信時代になり、アルバムという概念自体が薄れてしまったのは残念なことだ。僕等の世代は、シングルヒットなんて露払いでしかなくアルバムこそがミュージシャンの思いを体現したかけがえのないものという刷り込みがあるけれど、僕等の子供の世代はそんな意識はきっと希薄になっているのだろう。でもそんな感慨はたぶん単なるセンチメンタリズム。それが進化にせよ退化にせよ時代は変わっていくものなのだから。

(かみ)
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