ほどなくリリースされたファーストアルバムの出来も良かった。但し、僕は明るく熱唱する渡辺真知子よりも、少し陰翳があってアンニュイな渡辺真知子のほうが好きだったのだが、アルバム収録曲のいくつかの歌詞やアレンジに如何にも歌謡曲然としたものがあって、その点はちょっと不満だった。けれども、その後の路線は益々歌謡曲寄りになってしまった感があり、徐々に興味をなくしてしまった。
この曲は70年代末に発表された4枚目のアルバム「メモリーズ」に収録。
まどろみの中 心委ねて 冬の入り江にひとり
海を見てる 午後の昼下り
淡い光に くすぐる風に 思わず目を細めて
時の中を遊ぶ私
打ち寄せる波に 素足からませて
少女の私が 波間を駆けぬけてゆく
キラリキラキラキラ 思い出のかけらが
海の彼方に きらりと消えた
海の蒼さと 空の蒼さが お互いに溶け合って
水平線 わすれた絵のよう
白いヨットが ちりばめられた光にかくれながら
海鳥たちと たわむれる
やわらかな陽ざし 背中で受けとめて
いつしか私は ちがう世界夢見てる
ゆらりゆらゆらゆら うつろなひとときに
近く訪れる 春を感じる
絵画的な歌詞と叙情的なメロディがとても良い。静寂な海の情景を描いた歌としてユーミンの「海を見ていた午後」に匹敵する名曲じゃないかと思う。
アルバム自体はシングルとなった「季節の翳りに」をはじめブンチャカした歌謡曲調の曲が多くて、ちょっと趣味じゃなかった。アレンジに拠るところが大きいのだろうけど、今それらの曲を聴くと見事に陳腐化している。だから、渡辺真知子もこういう曲のような路線を続けていてくれたらなあ、と勝手に惜しむのだ。ただ、以前に読んだ新聞だか雑誌のインタビュー記事によると、ご本人は「ガハハ」という感じの底抜けに明るいキャラクターらしいので、これはきっと独りよがりの感想なんだろうけど。
(かみ)
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牢屋壮一(評論家)。
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