ちょうど半世紀前の1972年の秋にリリースされた、ポコの通算5枚目のアルバム。メンバーは、リッチー・フューレイ(g,vo)、ポール・コットン(g,vo)、ティモシー・B・シュミット(b,vo)、ジョージ・グランサム(ds,vo)、ラスティ・ヤング(g,steel.g)。
1. And Settlin' Down
2. Ride the Country
3. I Can See Everything
4. Go and Say Goodbye
5. Keeper of the Fire
6. Early Times
7. A Good Feelin' to Know
8. Restrain
9. Sweet Lovin'
この頃のポコって、カントリーロックの中堅どころと目されていたけど、大したヒット曲も出せずにちょっと伸び悩んでいた。しかもファーストアルバム発表直前に脱退したランディ・マイズナーはイーグルスでデビューして成功への階段を登りかけていたし、フューレイと一緒にポコを立ち上げたジム・メッシーナもロギンス&メッシーナを結成して脚光を浴びていた時期。だから、ここいらあたりで何とかせねば、と一念発起して作ったアルバムではないか。
エピックレコードも力を入れたのかな。アルバムも麗々しいダブルジャケットで、メンバーの写真を集めた8ページにわたる豪華カラーブックレットも同封されていた。
更に日本盤には小倉エージと大瀧詠一によるライナーノーツが付いていて、その前半部分は以前にこのブログでも紹介したが、各曲の解説がなされている後半部分も以下に引用して紹介する。一部誤字・脱字があったので修正したが、それ以外は原文のまま。おそらく対談の聞き書きをそのまま掲載したと思われ、生々しいリアリティを感じる文章ではある。
エ=小倉エージ
大=大瀧詠一
========================================
エ:じゃあね、今度のニュー・アルバムの一曲ずつの印象を聞かせてくれる。まず「And Settlin' Down」から。
大:そうね、ほらローリング・ストーンズの「ホンキー・トンク・ウィメン」みたいなやつね。ねえ、イントロ聞いてよ、すごくおかしいから。あのキュン、キュンっていうとこなんてわざとやったとしか思えないな。曲自体としては、どうってことないみたいだな。誰にも作れるんじゃない。このアルバムでリッチーがいいのは「グッド・フィーリング」だけだね。あいつはね、曲としてはね、ポップな要素がなければ失敗作だと思うの。カントリー的なものでもさ、ポップな感覚を出すでしょう。あれはちょっとできないことなんだ。
エ:2曲目の「Ride the Country」は、ねえ、ちょっとカントリーを意識してるって思わないかい。なんていうかポール・コットンがバッファローみたいな線を意識して作ったんじゃないかと思って、この前の「フロム・ジ・インサイド」のね、イリノイ風のものじゃなくて、これは新しくポコに入ってからメンバーに影響されて作ったんじゃないかって感じがするんだけど。
大:それはモロにあるね。それでね、でも、ギターの音なんかイリノイの頃とかわらないからさ、どうしてもあのジムの持ってたのと違ってくるでしょう。だからギターの音ってとても重要なんだな。
エ:そうね、フレーズなんかも違うし、泥くさいって感じかな。じゃ3曲目のねティモシーの「I can see everything」はどうかな。あのハイハーモニーのあたり、まあ昔にくらべればうすいって感じもするけれど、意外とキミの好みじゃないかて思ったんだけれど。それでティモシーの存在もがぜん浮かび上がってくるんじゃないかって……
大:そうね、ティモシーは頑張ってると思うの。今回はリッチーよりいい曲作ったっていう面じゃ、ティモシーが勝ってるよ。すごくね。だからポコを外側からとらえてるってところで、ティモシーを買うな。
エ:それで、後でティモシーにかぶさってくるコーラスがあるでしょう。あれはリッチーだと思うんだけれど、うまくリードをカバーしてすごくいいね。でもコーラスは昔にくらべてうすくなったとは思わない。
大:ただね、2部のコーラスがあるでしょう。両方ともメロで、ジョージがハモるやつ。あれは昔からやってるね。あれがポコの身上なんだよ。それでね、ウーっていうやつもね、あのハーモニーもね、ポコのひとつだったんだけれど、ランディが抜けてからやらなくなったっていうのは、ランディのせいなんじゃない。
エ:では次の「Go & say goodbye」の率直な意見としてはどうですか。
大:これは気にいったね。とくにエンディングがね。全体の感じはモロに、なんていうか余裕でやってるしね。僕はバッファローのカヴァー・ヴァージョンはすごくすきだし、イエスだって、ジェイムス・ギャングだって、何だってやったというだけで、うれしくなっちゃうな。それだけ気狂いがいたしさ、やったというだけでうれしくなっちゃうの、ほんと。そいでね、比較の問題では話したくないけど、でもこっちはこっちでおもしろいよ、すごく。やっぱりリッチーはバッファローにいたんだしさ、無理にフンイキだそうなんて考えないんじゃないの。
エ:まあそういうことあるね、リラックスしていて。それでプラス1はポール・コットンの「Keeper of the fire」。
大:あのマイナーな「スージーQ」をマイナーにしたのね。モロにポール・コットンっていう感じで、おもしろいんじゃないの。ジムがいたらあんな曲作んないだろう。
エ:そうだね、ジムがいたらラテンっぽいっていうか、パーカッションがいっぱいの曲作っちゃうんじゃないかね。
エ:B面の最初のポール・コットンの「Early Times」も、イリノイじゃなくて、ポコの、それもカントリー・ロック的なとこを意識した感じがするんだけれど。
大:それはあるね。でも、これならね、「バッド・ウェザー」とかさあの辺をひとつすすめたって感じもするね。そんなにポコにいるってこと意識してないんじゃないかな。
エ:まあバックのこともあるんだろうけど。それとね、なんていうか、『フロム・ジ・インサイド』の頃にくらべれば、ポール・コットンはね、ちょっと変わったみたいなところが正直するでしょう。ポコになったっていうか。
大:そうね、あの人はイリノイの頃はダブル・ヴォーカルでやってたのが、ポコに入ってはじめてひとつの声でやったでしょう。で、最初は好きじゃなかったんだけれど、最近はそうでもないんだ。その辺、自信をもったっていう感じもうけてね。
エ:じゃ「グッド・フィーリング」はどう。
大:もうこれは最高なんじゃない。文句なし。『フロム・ジ・インサイド』はそういう意味じゃ目玉曲がなかったってことで最悪だったけれどね、これはもうポコだよ。もう「テイク・イット・イージー」をぶっとばせって感じでね。この辺でひとつ頑張ってもらいたいね。
エ:その次のティモシーの「Restrain」は。
大;これもいいよ。歌い方も頑張ってね。ただね、ポコで最高なのは、もうティモシーもリッチーもジョージも、同じフィーリングね、カントリー・フィーリング、もう最高だね。これだけ3人で同じ感じ出せるなんて。それでポール・コットンは全然ハモンなくてね。前のジムと一緒でね。
エ:じゃ最後のリッチーの「Sweet lovin'」は。
大:これか。これは聞くのに骨折ったな。最初はいいけどさ、途中からヒムになるでしょう。カントリーにもヒムはあるよね。それで昔少年讃美歌隊に入ってたのかもしれないけどさ、どうもね。どういう意味あいでヒムがでてくるかね。まあこの辺がリッチーがいきづまってる感じじゃないかって感じで。
エ:どうもありがとう。じゃまた話聞かせてね。
========================================
まあ、当時の売れっ子評論家と日本のフォーク/ロック界の重鎮の解説の後なので蛇足かも知れないが、素人の個人的感想も記す。
アナログA面では「Ride the Country」「I Can See Everything」「Go and Say Goodbye」の3曲がとても良い。コットン作の「Ride the Country」はどっしりして泥臭いギターと、ゆったりとしたコットンのボーカルが冴えているし、後半のスティールギターとの絡みも心地良い。シュミット作「I Can See Everything」は初めて聴いたときに女性ボーカルかと戸惑ったほどのハイトーンボイスが印象的。それまでに発表された彼の曲と較べても格段の出来で、この時期に彼の作曲能力が上がったことがよくわかる。スティーヴン・スティルス作の「Go and Say Goodbye」はバッファローのカバーだけど、これが軽快なアレンジで大好き。ところで若い頃のスティルスって韻を踏んだり言葉遊びが好きだったみたいで、この曲でも"1234"と"want to see her"を絶対にかけているよな。
アナログB面では「Early Times」のイントロのギターが妙にビートルズっぽく感じたのは、上述のカラーブックレットを見たせいかも知れない。というのは、ブックレットにはジョージ・ハリスンがコットンに宛てたサイン入りのビートルズのポートレート写真が載っていて、ひょっとしたら若い頃のコットンのギターアイドルはハリスンだったのではないのかなあ。で、タイトル曲の「A Good Feelin' to Know」であるが、このアルバムはこの曲に尽きる。ポップなメロディと美しいハーモニーと軽快なリズムのどれをとっても素晴らしい。個人的にはポコの中でいちばん好きな曲だ。この曲の後では残りの曲はどうでもよろしい。聖歌みたいな「Sweet Lovin'」は、後年フューレイが一時期音楽界を引退して牧師をやっていたという逸話を知ればこんなの作るのは頷けるけど、大瀧詠一が指摘したように彼の行き詰まりを感じさせる曲ではある。
このアルバムのキーポイントは、前作から加入したコットンによってバンドサウンドがどうなったかということだが、たしかに変わった。カントリーっぽいフレーズは抑制されて、ハードなギターサウンドが前面に出ている。彼等がカントリーロックから、より普遍的なアメリカンロックを目指したアルバムと言えるのではないか。でもそれって、後にイーグルスが目指した方向性と同じなのだが、残念ながらイーグルスほどアルバム全体の完成度は高くはならなかった。良い曲もあるのだけど、平均してしまうと物足りなさを覚えてしまうのだ。
アルバムチャートは全米69位(因みにイーグルスのデビューアルバムは全米22位で後にプラチナアルバム、ロギンス&メッシ-ナのセカンドアルバムは全米16位)。このアルバムセールスの結果に失望したフューレイは次作の「Crazy Eyes」発表後にバンドを離れることになる。そういう意味ではいわくつきのアルバムなのだが、僕はこの時期のラインアップのポコがいちばん好き。だから、多少のほろ苦さを覚えつつも、このアルバムを推したい。
(かみ)
Poco - A Good Feeling To Know
※発表当時の古い映像
Richie Furay / A Good Feelin' To Know (Official Music Video)
※2018年のフューレイのライブ映像
コメント一覧
最新の画像もっと見る
最近の「Album Review」カテゴリーもっと見る
最近の記事
カテゴリー
バックナンバー
人気記事