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還暦おやじの洋楽日記

Wet Dream / Richard Wright

「Meddle(おせっかい)」こそがピンクフロイドの最高傑作と考える身にとって、初めて「The Dark Side of the Moon(狂気)」を聴いたときの印象は「なんだか妙にわかりやすい音楽になっちゃったなあ」という違和感だった。このわかりやすさ故に「The Dark Side of the Moon」はビルボードの全米チャートに十数年も居座り続けたモンスターアルバムになったのだろうけど、きっと単純なアメ公どもにはあれぐらいわかりやすくないと受け入れられなかったろうな。
僕の感じた違和感の正体、当時はよくわからなかったが今ならよくわかる。もともとのフロイドの音楽の魅力って、隙間だらけの音とスカスカの歌詞によって醸し出される、幽玄で耽美的な音世界。それによって聴く側のイマジネーションを大いに喚起させることだった。トリップミュージックと呼ばれたのもさもありなん。ところが、以降のフロイドは音の密度が増して歌詞もメッセージ性を帯びてしまい、イマジネーションを喚起する余地もなくなってしまった。その変化は結局、バンド内でロジャー・ウォータースが主導権を握り、リック・ライトの地位が低下したことによるものであったのだ。
長らくレコード棚で埃をかぶっていた、リック・ライトの初ソロアルバムを久しぶりに聴いてみた。リリースは1978年。

1. Mediterranean C (instrumental)
2. Against the Odds
3. Cat Cruise (instrumental)
4. Summer Elegy
5. Waves (instrumental)
6. Holiday
7. Mad Yannis Dance (instrumental)
8. Drop In from the Top (instrumental)
9. Pink's Song
10.Funky Deux (instrumental)

主なゲストミュージシャンはメル・コリンズ(sax,fl)と、スノウィー・ホワイト(g)。コリンズは当時キャメルに在籍していたのじゃないかな。ホワイトは長らくフロイドのサポートメンバーだった人。リーダーアルバムでありながらインストゥルメンタル曲での主役はコリンズのサックスとホワイトのギターで、ライトは裏方に徹している。これらのインストゥルメンタル、バンドがああいう方向に進まなければきっとフロイドの大作の1ピースとして世に出ていたんだろう。以前のフロイドにあった、心地良さを感じるサウンドに接することができる。
インストゥルメンタル曲の合い間に聴かれるライトのボーカルは非力ではあるが朴訥で、エキセントリックなウォータースのボーカルよりよっぽど耳に馴染む。その中でも「Pink's Song」はタイトル・歌詞ともに意味深。"I must go, be on my way. Let me go, I cannot stay."なんて、思えばこれが後年の彼の離脱の原点だったのだなあ。このアルバムが発表されたのは「Animals」発表の翌年。「Animals」はウォータースが完全にバンドを乗っ取って作ったアルバムだったからライトもさぞや憤懣やるかたなかった時期だろう。

おそらくはバンドで採用されなかった彼の楽曲の寄せ集めなのでアルバム全体の完成度はあまり高くない。でもフロイドの持っていたリリシズムはリック・ライトのものであったことを認識させてくれる作品集。アルバムタイトルの「Wet Dream」の意味は”夢精”だそうで、ヒプノシスのジャケットとともにこのアルバムの味わいをよく表している。

(かみ)
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