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還暦おやじの洋楽日記

ドン・フェルダー自伝(Heaven and Hell)

ランディ・マイズナーが先月亡くなった。享年77歳とのこと。ここ数年、体調を崩していたことは知っていたが残念だ。訃報に接したのは、ちょうどドン・フェルダーの自伝を読んでいて、不本意なかたちでイーグルスを去った三人、バニー・レドン、ランディ・マイズナー、ドン・フェルダーに思いを馳せていた時だったので、その偶然もあって余計に驚いた。
この本は10年以上前に刊行されて一度読んだのだが、あまりにえげつない内容だったのでそのまま本棚にしまっていたもの。マイズナー追悼を兼ねて紹介したい。著者はフェルダー自身であるが、ウェンディ・ホールデンというジャーナリストが構成や加筆を手掛けたと思われる。日本語訳は山本安見、日本語版の刊行は2011年。

自伝なので彼の生い立ちから始まる。フロリダ州のゲインズヴィルという街に生まれ、あまり裕福でない家に育ち、父の援助でギターを買い求めて夢中になり、やがてバンドを組んで音楽活動を開始する、という少年時代の回想が綴られるが、その頃既に何人かの未来のロックスター達と邂逅し交遊していたことに驚かされる。スティーブン・スティルス、トム・ペティ、デュアンとグレッグのオールマン兄弟、そして極めつけはバニー・レドン。この本を読むまでフェルダーがレドンと旧知の仲だったとは知らなかった。それどころか、東海岸にいたフェルダーを西海岸に誘って仕事を紹介し、遂にはイーグルス加入に導いたのはレドンだったとは。
フェルダーが5人目のメンバーとしてイーグルスに加入したのは、3枚目の「On The Border」のレコーディング最中だった1974年。その2年前にデビューした頃は民主的なバンドだったが、フェルダーが加入した頃はもう既にグレン・フライとドン・ヘンリー、それとマネージャーのアーヴィング・エイゾフが支配するバンドに変貌しつつあったようだ。そもそもフェルダーが加入したのも、従来のカントリー色を薄めてもっとハードなロックバンドにしたいというフライらの要請に基づくもの。彼の加入で思惑通りイーグルスのサウンドはよりソリッドになり、更に人気バンドに成長していった。
70年代のロックスターは無茶苦茶な行動をしていたものだが、彼等もその例に洩れず、酒とドラッグとグルーピーとの乱倫に明け暮れる日々も描写されている。既婚者だったフェルダーは最初は敬遠していたものの、そのうちどっぷりと浸ってしまう(同じく既婚者だったマイズナーも同様だったらしい)。そんな狂乱の日々を送りながらもバンド内でのフライとヘンリーの力は益々強大になっていき、あからさまに待遇にも差がつけられ、まずレドンが離脱する。フライとの喧嘩の末に脱退したのだ。思えば友人のフィルダーを加入させたことがレドンのバンドでの居場所をなくしてしまった一因でもあるので、両者の思いは複雑だったろう。
そしてフィルダーは「Hotel California」のあの印象的なメロディを作曲し、ロック史に残る名曲となった。自伝では明示的に語られていないが、後から加入したフィルダーにとって、この貢献でバンドでの地位が上がることも期待したのではないか。しかし、そのようにはならなかったようだ。次の標的になったのはマイズナー。レドンと同じくフライと衝突して脱退し、遂にオリジナルメンバーはフライとヘンリーだけになった。
「Hotel California」の成功は彼等に更にプレッシャーを与え、次作の制作は難航した。その「The Long Run」は凡庸なアルバムだったが、グダグダな制作過程も細かく描写されている。もはやバンドの体を成していないと思われるのだが、そんな中で遂にフィルダー自身もフライと喧嘩をしてイーグルスは解体。1980年7月のことだというが、その事実が公表されたのはずっと後だった。
ここで終わればまだ良かったのに、90年代半ばに性懲りもなく活動再開。フライ、ヘンリー、エイゾフによる支配は更に進み、新会社を設立して残りの三人(ジョー・ウォルシュ、ティモシー・B・シュミットとフィルダー)は従業員扱いとなる契約書へのサインを迫られる。ウォルシュとシュミットはサインしたがフィルダーは納得せず執拗に抵抗した挙句、最後は解雇されてしまう。ここで彼が踏ん張るどころかショックを受けて急に腰砕けになってしまうのがとても情けない。だが、そんな心情まで正直に自伝で吐露してしまうとは、なかなかなものではある。

二度目の読後感も爽快なものではなかった。10年ほど前に出た「History of the Eagles」というビデオ作品では上述の顛末が語られている場面もあるそうだが、僕は持っていない。けっこう法外な価格だったのと、これを読んだ後ではその金がフライ、ヘンリー、エイゾフの懐に入るのが癪だったから。彼等のドロドロの歴史はこの本を読めば充分な気がする。
彼等の最後となった2011年の来日公演の直前にTV放映されたインタビューでは、イーグルスはビートルズを目指していたことになっていた。僕の記憶では彼等はCSN&Yを目指していた筈なのだが、そんなものはとっくに超えてしまったから自分達の物語を途中で変えてしまったのかな。確かに70年代のスーパーバンドだったことに間違いはないが、ビートルズのような伝説にはなれなかったよな。それはこの本で語られているような醜悪なバンドの実態が知られてしまったことや、金のために再結成してダラダラと活動を続けてしまったことに起因すると思う。
いよいよ今度こそ本当のフェアウルツアーを始めるそうだが、あまりにも長すぎたなあ。

(かみ)

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