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からだの内なる統合を求めて…

ロルフィング施術者日記
by『ロルフィング岡山』
http://www.rolfingjoy.com

体の中心から手をのばす(2)肘から手のひらへ

2009-03-04 | ロルフィング
続編の今回は、しなやかな鎖骨と肩甲骨の動きに、しなやかな肘~手の動きをプラスします。

しなやかな手と腕の動きを考える前に、手への神経の経路を大まかに説明します。神経が狭い空間を通り抜ける部分では、周囲からの圧迫を受けやすく、それが痛み、だるさ、感覚異常などの神経症状の引き金になります。下図はそれらが起こりやすい部位を示したものです。





(1) 頚部では、脊髄から出た神経が、首の筋肉(前斜角筋と中斜角筋)の間を通り抜けています。脊髄から神経が出る部分、「神経根」は、頚椎ヘルニアなどの深部の組織による圧迫が起こりやすい部分です。また、第5頚神経~第1胸神経が斜角筋を抜ける部分で腕神経叢という配線盤を形成し、そこからの神経が腕へとつながっていきます。斜角筋群の緊張への大まかな対処法は、過去の日記を参照してください。⇒大腰筋システムで頭を支える 

  


(2) 上胸部では、神経が鎖骨の下をくぐり、さらに小胸筋の下をくぐって上腕に向かいます。ここで神経が圧迫されると、「胸郭出口症候群」と呼ばれる症状につながります。(鎖骨周辺の緊張については体の中心から手をのばす(1)を参照して、ここをしなやかに動かすことで開放しましょう。)





(3) 前腕部では、上腕二頭筋(力こぶを作る筋肉)の腱が前腕の筋膜にも付着していて、そこに張力を加えます。また、手や手首を動かす前腕の筋肉は、似た作用の筋肉ごとに、コンパートメントという比較的丈夫な筋膜で区画されていて、神経はこのコンパートメントに沿って走行しています。そこで、上腕二頭筋や、前腕のコンパートメント内の筋肉の緊張は、そこを通る神経を圧迫する可能性があります。




(4) 手首では、神経、血管、筋肉の腱が、手の根元の骨(手根骨)と手首の屈筋支帯でできた空間(手根管)を通り抜けます。ここでの神経の圧迫は、「手根管症候群」につながります。


  


以上が神経への圧迫が起こりやすい箇所ですが、しなやかに手と腕を動かす際には、これらの経路が窮屈にならずに開いていることが重要だと考えます。前置きが長くなりましたが、ここでは特に(3)と(4)に留意しながら、肘~手のしなやかな動きを考察します。


前腕の骨格は、手首の骨をはさむように、親指側の「橈骨(とうこつ)」と小指側の「尺骨」という2本の骨によって構成されています。これによって「ドアのノブを回す」、「ゼンマイを巻く」などの、手首を回旋させる動きが可能になります。(下腿も同様に、脛骨と腓骨の2本の骨によって構成されていて、わずかの回旋が可能ですが、馬、牛、豚などでは骨が退化して、膝から下が1本の骨で構成されているため、足首が回旋しないようになっています。)





では、実際に手首を回旋させて、これら2本の骨の動きを感じてみましょう。実際には、手首の回旋は手首で起こるのではなく、前腕で起こっています。図に示したように、尺骨の周りを橈骨が回るように交差することで、手首の回旋が起こっているのがわかるでしょう。次に、拳をぎゅっと握って同じ動作をしてみます。前腕の2本の骨の動きにブレーキがかかり、手首の回旋がしづらくなりますね。今度は、腕をだらりと垂らして、手のひらをできる限り緊張させずに、パタパタと前腕を回旋させましょう。2本の骨の間がゆるんで開く感じがわかりますか。


  


このようにパタパタと回旋させる動きをくり返していると、前腕がまるで、手のひらの中央が開いた円筒のように感じらるのではないでしょうか。コツは手首を回すのではなく、手の力を抜いて、肘から先の2本の骨を回すことです。前腕が中空のゴムホースのように感じられてきたら、次の段階に進みます。


    


今度はこれに、胴体~肩甲骨の動きを連動させましょう。前回書いたように、肩甲骨を脇へ開くことが、胴体と肩甲帯との力のつながりをonにすることを思い出してください。

まず楽に立って、肩甲骨のon/offの動きをくり返しながら、肩甲帯全体を脇へ向かって押し下げる感覚をつかんでください。肘先を押し出しながら、肩甲帯が胸郭の上を滑るのを感じてみましょう。これができたら、肘を押し出す力をさらに延長して、前腕のホースの中へと通します。これらが連動すると、前腕のホースがやや内側に回旋しながら押し出されるでしょう。胴体の中心から手のひらに向かって、ホースの中へ力を押し出していく感じがつかめたら、方向や姿勢をいろいろ変えて、手をのばしてみましょう。


以上が、基本的な「体の中心から手をのばす」動きです。体の中心から両腕を通って手のひらに力が抜けるように動くことは、マッサージなどでは特に重要です。しかし仕事や日常生活などでは、動作は使う道具や周囲の環境にも左右されます。場合によっては、道具や環境を改善する必要があるかもしれません。そのような時にも、このエクササイズで、しなやかな手の使い方を思い出してみてください。

手については、またの機会に別の角度で取り上げるつもりです。次回は、全身をしなやかに連動させることについて書く予定です。

体の中心から手をのばす(1)前鋸筋

2009-02-24 | ロルフィング
今回からは、手~腕の機能について取り上げます。

手~腕の動作も、やはり大きく分けて2通りあります。1つは、表層の筋肉を過度に緊張させてしまうやり方です。これは肩甲骨周辺や背中が固定されるので、胴体は動かない箱のようになり、上腕から先だけが動くような感じです。五十肩などの症状を持つ人は、おそらくこのように腕を動かしています。もう1つは、関節が安定しながらもしなやかに動く(⇒トニック・ファンクションの記事を参照してください)動き方で、背骨~肋骨~鎖骨~肩甲骨などが連動して、胴体の中から外に向って動きが拡がっていくように見えます。これが、大腰筋システムと連動した腕の動作です。

ではまず、手~腕~肩の構造を確認しましょう。現在、運動学などの分野では下肢を骨盤帯と呼ぶのと同様に、上肢は肩甲帯と呼んでいます。それは腕の機能には肩甲骨と鎖骨および、それに関与する筋肉が欠かせないからです。


    


肩甲帯とは、手の骨+前腕の骨+上腕骨+肩甲骨+鎖骨で構成されています。上腕骨は肩関節で肩甲骨と鎖骨に連絡し、鎖骨が胸骨に連絡(胸鎖関節)しています。肩甲帯の胴体(軸骨格)との連結はこの胸鎖関節だけなので、背中側の肩甲骨は胸郭の表面を滑るように動き、手を上げるなどの動作が可能になります。つまり腕を動かすということは、この肩甲帯を動かすということなのです。そこで、この肩甲帯がしなやかに動くためには、肩の周囲が過度に緊張せず、動きが制限されない(固定点がなくなる)ことが重要です。

このしなやかな腕の動きのためには、「前鋸筋(ぜんきょきん)」という筋肉の働きが鍵になります。





これが前鋸筋です。肋骨と肩甲骨の前面を結んでいて、肋骨への付着部が名前の通り、鋸(のこぎり)に似ています。この筋肉の機能を理解するために、まず四足歩行の動物における前脚の動きを説明します。


   

馬、牛、犬、猫などの速く走るように進化した動物は、どんどんつま先立ちになってかかとが地面から離れました。このように脚が長くなって、末端が小さくなることは、歩幅を広げながら、速く脚を振るためには有利なことです。さらに馬などのように固いひづめを持つようになると、後ろ脚で地面を蹴った推進力が、骨盤を通じてダイレクトに背骨に伝わります。しかし、背骨と足との連絡のどこにも遊びがないと、着地の衝撃も直接背骨に伝わってしまうことになります。そこで、前脚は着地用に進化しました。牛、馬、犬、猫などは鎖骨を退化させ、肩甲帯は筋肉だけで胴体につながっています。犬や猫を飼っている方は確かめてみてください(肩甲帯と胴体との骨の連結がないので、肩甲骨がより自由に動きます)。この胴体と肩甲帯の連結の重要な役目をしているのが、人間では前鋸筋に相当する筋肉です。

    


これは人間の前鋸筋に相当する馬の胸腹鋸筋です。胸郭に対してちょうどハンモックのように付着しています。後ろ脚の蹴りによって胴体が前に進み、前脚で着地する時、その衝撃はこの胸腹鋸筋が一度ストレッチされる(肩甲骨が背中側に引き寄せられる)ことで受け止められます。さらに胴体が前へと進む推進力に同期させてこの胸腹鋸筋が収縮する(肩甲骨が腹側へ引き寄せられる)と、前脚でスピードを落とすことなく離陸することができるでしょう。つまりこの筋肉はon-offを繰り返しながら(実際には、着地から離陸まで非常に滑らかに移行しています)、「前脚⇒胴体の入力」を減衰させ、「胴体⇒前脚の出力」を増幅するような役目を果たしています。そして、人間でも同様のことが起こっていると考えられるのです。そこで再び、人間の前鋸筋を見てみましょう。


  


前鋸筋は、肩甲骨をはさんで菱形筋(りょうけいきん)に連続しており、これら2つの筋肉は、両側から肩甲骨を引っ張るような位置関係にあります。これに馬の例を当てはめると、菱形筋によって肩甲骨が背中側に引き寄せられる時、胴体と肩甲帯との力の連絡がoffになり、前鋸筋によって肩甲骨が腹側へ引き寄せられる時、胴体と肩甲帯との力の連絡がonになることになります。そしてこれは実際にぴったりと当てはまります。

前述の2通りの腕の動作では、肩甲骨周辺が固定され、上腕から先だけが動くような場合では、腕の動きに先立って肩甲骨が中央に引き寄せられている(肩が上がる)はずです。反対に、胴体の中からしなやかに腕を動かす人では、肩甲骨は左右に開いたままでしょう。胴体と肩甲骨を結ぶ筋肉はこれら以外にも、僧帽筋、肩甲挙筋、小胸筋、(広背筋)などがあり、どれも重要な筋肉ですが、この前鋸筋が他に先だって働くことが、胴体と腕~手を連動させる鍵になると考えています。ちなみにこの前鋸筋は「ボクサー・マッスル」とも呼ばれていて、強いパンチを打つために重視される筋肉です。しなやかに腕を動かすためには、まずこの肩甲骨の動きを身につける必要があるのです。

この肩甲骨が開く感覚がわからない方は、こんなエクササイズはどうでしょう。

「アイ~ン」のポーズのように、斜め前方に肘をはります。そしてこの時、肘と肩が上がらないように、肩甲帯全体を下に落としてください(肘の位置も最初はみぞおちの高さくらいにします)。このポジションから、肘の高さは同じまま、肘の先を体の真正面(正中線上)の方向にぐいっと押し出します。肩甲骨が外側に開く感じがわかったでしょうか。普段あまり肩甲骨を動かしていない方は、背中や脇腹がひきつれるような感じがするかもしれません。そこは本来ならば動かなければならないところです。この感じがわかったら、様々な方向に肘を押し出してみましょう。方向が変わっても同じ様に肩甲骨が動きますか。動きが胴体の中心から始まり、胸郭が肘を押し出す感じがしたら、意図する動きができています。さらに今度は、逆に肩をすくめるように持ち上げて(肩甲骨を中央に寄せて)から、同様の肘の動作をやってみます。すると、胴体と肩甲帯との力のつながりがoffになり、その違いがわかると思います。

ここでも大腰筋システムの場合と同様に、ポイントは「脊柱の前面から、のびのびと広がるように」動くことです。このように、胴体から肩甲骨へうまく力を伝える動きができて初めて、しなやかな前腕~手の動きが可能になるのですが、それは次回に続きます。

頭のテンセグリティー

2009-02-22 | ロルフィング
今回は頭の構造がテーマです。

頭には、大腰筋システムのような中心軸に沿って走行する筋肉がないので、「深層筋を活性化して構造の中心を解放する」戦略が使えません。そこで、ここでは知覚に働きかけるアプローチの比重がより大きくなります。


    


頭蓋骨はたくさんの骨で構成されていて、それぞれの骨のつなぎ目(縫合)にはわずかに可動性があります。(アメリカ起源の手技療法を主体としたオステオパシー医学では、頭蓋骨全体が呼吸するように、規則的に自動運動をしていると言われています。)この骨の構造の周囲に、顎を動かすそしゃく筋や、顔の皮膚を動かす表情筋などが付着しています。また、背中を縦方向に走行している脊柱起立筋群は、頭頂部を包む帽状腱膜に筋膜を通じて連続しています。そこで、背中~後頚部~後頭部~頭頂部~ひたいには、張力の上での連続性が見られます。このように多くの骨で構成される頭には、様々な方向の張力が作用していますが…、ここで思い出すのがテンセグリティー構造です。





テンセグリティーとは、人体だけでなく原子から宇宙全体にまで当てはまる、張力によって形が維持されている構造です。(詳しくは過去の日記を参照してください⇒身体の統合(2)テンセグリティー)。頭の構造にもこのテンセグリティーを当てはめます。すると、張力が一方向に偏らずに均等に拡がっている頭には、中心軸がきれいに通り抜けることが予想されるのです。

では、実際に自分の頭に加わっている張力(緊張)を感じてみましょう。

今、どこか特別に緊張しているところはありますか。例えば、頭の前と後ろには均等に張力がかかっているでしょうか。もしかしたら、慢性的に緊張を感じる場所があるかもしれません。表面ではなく、頭の中に緊張を感じるかもしれません。また、眉間にしわを寄せたり、口を大きく開けたりすると、それらの張力がいろいろ変化するのにも気がつくでしょう。例えば、PC画面の中のこの文章を読んでいる状態から、画面から目を離して周囲から聞こえてくるすべての音に気付いてみるとどうでしょう。このように知覚を視覚から聴覚にシフトさせると、頭の位置の変化とともに、張力バランスが変化するのがわかると思います。今、私たちの生活は文字情報に大きく依存しています。このため、視覚のうち特に視野の中央部に意識を集中させる傾向があります。それが頭の構造にも現れていると思います。





これはシアトル酋長(1786~1866)の頭です。アメリカ西海岸の地名にもなったネイティブ・アメリカンですが、彼は文字が読めなかったとも伝えられています。なぜここでシアトル酋長を取り上げたかというと、現代人とは違ったように物を見、感じていただろうと思うからです。シアトル酋長の頭を見ていると、水平線の広がりが感じられます。意識を一か所だけに集中させない「ありかた」を教えてくれるように思えるのです。

ラインが頭を通り抜けるためには、頭がぎゅっと固まらずに、あらゆる方向に広がることが必要です。ここでもやっぱり、空間的に広がることが鍵になります。ロルフィングの施術では、顎や顔面、後頭部などの筋膜構造を手技によって緩めたり、オステオパシーのクレニオ・テクニック(頭蓋仙骨療法)を用いて、頭蓋骨の自動運動を誘発して緊張を解放しています。そしてラインを感じてもらいます。ラインについてはまた別の機会に詳しく書こうと思いますが、ラインを感じることには、知覚のバランスやテンセグリティー構造を均等にすることなどが含まれています。

顔や顎、首の筋肉をいろいろな方向に動かすのも良いでしょう。また、「声が頭のどこに響いているか」も、テンセグリティーの広がりの指標になると感じています。

身体構造を統合するためにも、いろいろな方向に知覚を広げましょう。一点を凝視するPC作業がなど続いた時には、逆に視界の周辺部まで気づいたり、近くのものだけでなく遠くのものも視野に収めたり、微妙な色合いや形に気づいたり…、目の使い方をシフトさせることによって、頭のテンセグリティーのバランスがとれるでしょう。また、視覚に偏りすぎたら、音を聞いたり、においを嗅いだり、触覚を楽しんだりすることも効果があると思います。

知覚のバランスを回復させることについては、時には他人の助けも必要になります。それは誰でも意識の盲点があり、自分自身をありのままに見ることが難しい場合があるからです。同様に、姿勢や動作のフィードバックに鏡やビデオを用いることも役に立つでしょう。


次回は、体の中心から手をのばすことについて書きます。

大腰筋システムで頭を支える(頚長筋)

2009-02-18 | ロルフィング
これまで大腰筋のシステムについて書いてきましたが、今回はその上の首の筋肉、「頚長筋(けいちょうきん)」を取り上げます。

首周辺の組織の緊張には、頭の位置が関与しています。例えば、頭の重心が下部構造の上にうまくのっかっていれば、首はよりリラックスできるでしょう。

首~肩~背中が慢性的に緊張している人には、脊柱の一部を動かないように固定して、そこを足場にして、背中側を縮めて頭を持ち上げている傾向が見られます。ここがリラックスするためには、別のやり方(大腰筋システムによって、脊柱を固めずに地面から頭を支える)が必要です。この時に、大腰筋システムに連動して頭へ動きを伝えるのが頚長筋です。

頚長筋は、胸椎3番から頚椎1番にかけて脊柱の前面を走行する筋肉で、横隔膜をはさんで、大腰筋に連続するような位置関係にあります。(脊柱前面の、横隔膜から頚長筋との間は、筋肉ではなく、筋膜性の組織が覆っています。)





首の脊柱前面にあるこの筋肉が作用すると、下図のように、頚椎の前湾カーブが減少し、後頭部が上に伸びて、顎が引かれます。


  


まず、ここまでに大腰筋システムが活性化していることが前提になりますが、大腰筋と頚長筋を連動させるエクササイズを紹介します。

これらの体の中心の筋肉を活性化させるエクササイズでは、動きを「ゆっくり、小さく、最小限度の力で、感じながら」行うことが重要です。動きをいきなり大きくしてしまうと、目的以外の、より表層の大きな筋肉が介入してきて、深層の筋肉の動きが阻害されがちになるからです。




1)
仰向けに寝て、両膝を立てる。
腹部を緊張させずに、足裏で床を押す(腹部脊柱の前面から脚を押し出すように…)。
無駄な力が入っていなければ、骨盤がロールして(尾骨が天井を向く)、腰椎のカーブが減少します(腰椎が床に押し付けられます)。

2)
この脊柱の動きが頭に伝わると、自然に首の後ろが床に押し付けられ、後頭部でシーツにアイロンをかけるように、わずかに頭頂に向かって伸びるでしょう。
ことさら頭を動かそうと努力せずに、脊柱のわずかな動きが頚椎前面に伝わるのに任せる感じです。

頚長筋が働くと、脊柱に沿って上がってきた力が頭頂部に抜けるような感覚があるでしょう。首の前(気管や食道の後ろ)がシャキっと目覚めます。

また、首周辺に緊張を感じる人では、以下の筋肉群が頑張っている例が多いようです。


  

特に肩や首のこりを訴えてマッサージを求める人は、比較的深層の②と③の筋肉群が緊張している例が多いです。PC作業などの目を使う仕事をする人には、目の緊張と直結している②にコリが見られ、手や腕のだるさや痛みを訴える人は、腕へ行く神経(腕神経叢)の根元にあたる、③がよく硬直しています。

これらの緊張をほぐすためにも、頚長筋の小さな動きが有効です。これらの深層筋を使った動きは、緊張したよろいの内側に動きをもたらします。すると、その表層や関節の反対側に位置する拮抗筋(その動きにブレーキをかける筋肉)が自動的に抑制され、よろいがリラックスするのです。

首の筋肉と下半身の大腰筋システムが連動すると、首の動きが背中の固定点からではなく、足と連続するようになり、地面から頭頂部に抜ける「ライン」(体を支え、推進させる力のベクトル)がよりはっきりしてきます。実際には、首の緊張はその上にのっている頭の構造に左右されるので、ロルフィングの場合は、頚長筋の活性化よりも、頭への施術を先に行っています。

次回は、頭の構造的なバランスについて取り上げます。

脊柱の安定(トニック・ファンクション)

2009-02-08 | ロルフィング
今回は、「背中を固くせずに、どうやって背骨を安定させるか」についてのお話です。

関節の動きを筋電計で測定してみると、2種類の異なる役目を持つ筋肉が作用していることが分かります。ある筋肉は、運動の最中ずっと緊張し続けていて(ずっとonになっている)、別の筋肉は、動きによって緊張したり弛緩したり(on-offを繰り返す)しています。

前者は「緊張筋」(tonic muscles)と呼ばれ(またはスタビライザー:安定筋と呼ぶこともあります)、後者は「相性筋」(phasic muscles:一過性に収縮する筋)と呼ばれます。

緊張筋は、関節の周囲などの深層にある小さな筋肉で、運動の最中、主に関節を安定させる働きをしています。これに対して相性筋は、より表層にある、もっと大きな筋肉で、関節の動きそのものを生み出しています。(実際には、場合に応じてどちらの作用も持つ筋肉があったり、はっきりと分類できない場合もあります。)

関節をいくつもまたいでいる大きな相性筋が作動すると、関節に動きが生まれますが、関節の近くに位置する小さい緊張筋だけが働いても、表面上の動きはあまり見られません(動きそのものにはあまり関与していません)。つまり、緊張筋は動きにブレーキをかけることなく、関節を安定させることができます。これがとても重要です。

関節が円滑に動くためには、この緊張筋が、相性筋に先立って収縮し、関節を安定させなければなりません。このような機能を「トニック・ファンクション」と呼んでいます。

近年の研究では、慢性的な腰痛を持つ人では、関節周囲の緊張筋があまり発達していなかったり、作動する(onになる)のが遅れて関節をうまく安定させていないことが分かってきました。

腰部を安定させるトニック・ファンクションについては、特に「腹横筋」と「腰部多裂筋」が注目されています。これらが協働して作用すると、「脊柱は安定しながら、しなやかに動ける」のです。





しかし、腰痛のある人では、背骨の両側に沿って帯状に走る脊柱起立筋群が緊張している傾向があります。また腹部を縦方向に走る腹直筋も固くなっている場合があるかもしれません。これらの起立筋群は、関節をいくつもまたいでいる表層の長い筋肉なので、動きを生み出す相性筋に分類されます。(緊張筋に相当する筋肉群は、これよりも深層にあります。)

これらの相性筋が、緊張筋に代わって脊柱の安定化のために作動すると、脊柱が必要以上に圧縮、固定されて、しなやかな動きができなくなってしまいます。また慢性的な緊張は、脊柱をある方向に引っ張り続けるので、姿勢の歪みにもつながる可能性があります。実際に、腰痛持ちの人には、よろいが動くようなドタバタとした動きが見受けられるでしょう。

では、トニック・ファンクションを活性化するにはどうしたらよいでしょうか。実は、その方法についてはこれまでの日記ですでに紹介していました。大腰筋の活性化の前提として、トニック・ファンクションの活性化がすでに含まれていたのです。

「大腰筋でウォーキング」には、大腰筋を使うには腹部~股関節~足が伸びることが重要であり、骨盤も脚の一部になるように動かなければならない、と書きました。

「縮まずに、遠くに伸びるように動くこと」
「関節が静止して固定されずに、全身を通り抜けるような動きが見られること」
このような動きの方向性やイメージは、相性筋が過度に働くことを抑制し、トニック・ファンクションを引き出すカギでもあり、しなやかな全身の動きが連鎖反応のように起こります。

トニック・ファンクションは、肩関節のしなやかな動きなどにも必須です。(骨盤も背骨も胸郭も肩甲骨も、安定しながら動く必要があります。)

このように、ロルフィングの掲げる「身体構造の統合」のためには、動きを制限している筋膜組織の緊張を手技によって緩めることだけでなく、その緊張の背景にある、非効率な動きに対する再教育が必要とされます。

次回は、大腰筋システムのさらに上にある、「頚長筋」について取り上げます。

横隔膜の上と下

2009-02-06 | ロルフィング
これまでは、ラインの下半分に関与する大腰筋システムについて取り上げました。今回は、その大腰筋システムの上部にある横隔膜について書きます。

脚の機能は大腰筋から始まりますから、横隔膜はちょうど上半身と下半身の境界に当たります。大腰筋の項目で、まるで横隔膜は傘のような形をしていて、大腰筋がその柄にあたることを説明しました。


   


ここからさらに上へラインを確立したいのですが、横隔膜より上は、ラインに沿った大腰筋システムのような、明確な構造がなくなります。そのかわりに、ここから頭頂部に至るまでは、横隔膜、胸郭上口、口腔底、口蓋、蝶形骨などの、ラインを水平に横切る構造が目立つようになってきます。





また、横隔膜の上には心臓と肺が、下には肝臓、膵臓、腎臓などが隣接していますが、これらは漢方の五行論によれば…、

五行 : 木 ・ 火 ・   土   ・ 金 ・ 水
五臓 : 肝 ・ 心 ・脾(膵臓)・ 肺 ・ 腎
五志 : 怒 ・ 喜 ・   思   ・ 悲 ・ 恐

…に分類されます(漢方での脾は、西洋医学では膵臓の機能に相当します)。つまり、「怒り、喜び(笑い)、思い悩み、悲しみ、恐怖」を司る臓器は、すべて横隔膜の上下に並んでいるのです。そこで、横隔膜周辺への施術には、単に物質的な緊張を解く以外の要素が加わってくる感じがしています。

また脊柱の側湾症では、ほとんどの場合、腹部と胸郭が反対方向に回旋します。


   


側湾症の原因は、下肢のアンバランスや、内臓の位置の偏り、頭の位置の偏位など、様々なものがありますが(原因がわからないものが多いようです)、例えば仙骨がある方向に倒れて腹部が回旋すると、胸郭は反対方向に回旋してバランスをとろうとし、さらに首は胸郭と逆のカーブを描くことが一般的です。これが24個の椎骨からなる脊柱が、左右のアンバランスに対応する一般的な方法のようです。

このような側湾傾向は、股関節痛、腰痛などの症状をお持ちの方や、怪我などで足に左右差がある方にもよく見られます。つまり、横隔膜周辺以外の部分に左右のアンバランスがある場合にも、横隔膜の上下で、腹部と胸郭が反対方向にねじれる傾向があるのです。

ロルフィングは、全身のバランスを調整するために10回の施術を行い、その1回目の施術は横隔膜周辺から始まって、末端に向かってねじれを追い出していくようにシリーズが進行します。その後、あちこちの部位に移動しながら施術を行っていきますが、末端のバランスが変化しても横隔膜周辺に影響が及ぶので、途中、この領域には繰り返し何度も戻って施術を行います。それは、横隔膜の周辺のテンセグリティーのバランス(張力のバランス)を調整し、横隔膜の傘がまんべんなく広がって、大腰筋システムの上にすんなりのるようにすることです。

筋膜に持続的な圧力を加えて緩める従来のロルフィングの技法に加えて、「頭蓋仙骨療法」や「内臓マニピュレーション」などの手法も用います。これを繰り返し行うことで、より深いレベルの統合が可能になると考えています。また、心理療法的手法が助けになることもあると思います。

このように、横隔膜の上下をラインが通り抜けていくように施術することを繰り返します。しかし、腹部と胸郭のテンセグリティーのバランスを調整する際には、脊柱の安定性が保証されなければなりません。それは多くの場合、周辺の組織が脊柱を立てようとして緊張し、脊柱が家の柱のように固くなっているからです。

そこで、脊柱の可動性を減少させずに脊柱を安定させることが必要になります。この本来体に備わっている、脊柱の安定化システムについては、次回取り上げます。

身体の統合(2)テンセグリティー

2009-01-28 | ロルフィング
前回のお話の続きです…。

私がロルフィングという施術を通じて、身体構造の統合を促進する時に、指標とするものがあります。それは、テンセグリティーとラインです。

テンセグリティーとは、数学者のバックミンスター・フラーが普及させた、あらゆる形の基本構造です。それは「張力のバランスによって、全体の構造の安定が保たれる」という仕組みの構造です。(※張力:tension+まとまり:integrity ⇒ tensegrity)(※発案者ケネス・スネルソンのHPでは、様々なテンセグリティーが紹介されています。  http://www.kennethsnelson.net/ )





古代建築に見られるような、積み木のようにレンガや石によって組み立てられた建物は、重力が下へと伝わることによって全体の構造が保たれています。このような仕組みを「圧力モデル」と呼びます。これによって大きな空間を作ろうとすると、積み上げた材料の重みがどんどん大きくなり、それを支える下部の構造はさらに頑丈にする必要があります。

これに対してテンセグリティーは、「張力モデル」と呼ばれ、重力に頼ることなく、軽い材料でしっかりとした大きな空間を作ることができるので、建築資材や工事の手間が少なくて済み、現代建築に応用されています。また、従来の「圧力モデル」は、重力の加わる方向が変化するような「動き」に対してはもろい傾向がありますが、テンセグリティーは、無重力の宇宙空間でも形を保っていられます。

よく、宇宙の構造と原子の構造は似ていると言われます。どちらも、星や電子などの引力のバランスによって、構造が保たれています。これはまさにテンセグリティーです。

昔の生物学の授業では、細胞は膜に包まれた液体の中に、核やミトコンドリヤなどの器官が「浮かんでいる」ような構造をしていると教えられました。しかし、その後の電子顕微鏡などの測定機器の発達により、それらの器官は浮かんでいるのではなく、「細胞骨格」という微細な骨組によって支えられていて、それは細胞同士を結び付ける細胞外基質へと連続していることが分かってきました。つまり生物の細胞レベルでは、全身に渡ってテンセグリティー構造が見られるのです。

また、骨格と筋・腱・靭帯・筋膜によるネットワークもテンセグリティーですし、骨の内部構造などにもテンセグリティーが見られます。このようにテンセグリティーは、小さなものから大きなものまで、あらゆるレベルで当てはまる、ものの形の基本構造だと言えるのです。

さて前置きが長くなりましたが…、身体構造のバランスを考えるために、このテンセグリティーを当てはめてみます。

例えば、肩こりや腰のはりなど、からだの一部が過度に緊張している状態の背後には、テンセグリティー構造に張力の偏りがあると考えます。そこで、構造全体に均等に張力がかかるように誘導します。

ロルフィングでは、体の上下前後左右の3次元的な広がりを観察し、それが均等に広がることを追いかけていきます。横隔膜周辺から始めて、テンセグリティー構造の各部の相関関係に従って、あちこちに移動しながら、手技と運動療法を併用して施術を行います。

柱や壁のように胴体を固くしている人には、積み木を積み上げるように、「圧力モデル」によって体を支えようとしている傾向が見られます。しかし、縮こまることによって体を安定させるのではなく、上下左右前後に柔軟に広がることによって構造が安定すると、体の動きが阻害されることなく、姿勢を安定させることができます。またこれには、体の使い方の変化に伴う意識のシフトが見られます。

そして、このようにテンセグリティーとしてのバランスを回復したからだは、その中心が「ライン」と呼ばれるものに貫かれているのが見えてきます。それは、体の中で効率よく力が伝達されるために、動きの中心軸や、力のベクトルがより明確になり、目に見えるようになるためだと思います。

外側から見えるこの「ライン」は、本人が自覚することができます。そこで、この「ラインの感覚」が明確になっていくことが、身体構造の統合を目指す指標になると考えています。

「ライン」ついては、さらに次回に続きます。

身体構造の統合について

2009-01-22 | ロルフィング
岡山でロルフィングという手技療法をやっています。
日本ではまだ馴染みのない名前ですが、ロルフィングは「身体構造の統合」をテーマに掲げている、1940年代から試行錯誤を続けてきた意外にと古い手技です。

まず、「身体構造の統合」とは何なのか考えてみます。そのために、ヒトの脳の構造を参考にしてみましょう。ヒトの神経系を建物に例えると、古い建物を壊さないまま、その上に新しい階を増築するように進化してきたのがわかります。





例えば、脳の中心部には「脳幹」と呼ばれる場所があります。生命維持に必要な基本的なことは、ほとんどこの無意識の領域が面倒見てくれていて、爬虫類は主にこの脳を使って生きています。これは進化の過程では古い脳で、別名「反射脳」とも呼ばれます。

その上には「大脳辺縁系」(別名「情動脳」)があり、さらにその上に「大脳新皮質」(別名「理性脳」)があります。猫などの原始的な哺乳類は、「大脳辺縁系」があるおかげで、爬虫類などと比べると、より感情的な生活を送っていると感じられます。(時々、犬や猫は、本能的な反射と感情の間で葛藤しているのがわかります。)

人間が社会生活に適応するためには、さらに新しい、表面の「大脳新皮質」が活躍しています。このおかげで、人は怒りを感じても相手に襲いかかることなく、円滑な社会生活を送ることができます。この高度な情報処理によって、人間はより葛藤し、時には古い脳からの衝動や要求を抑圧して生きています。

野生のまま大人になったような無邪気な人でも、多少の葛藤や抑圧は経験すると思います。このおかげで、「苦しくても頑張る」ことができるし、自分の感情だけに固執しない広い視野を持つこともできるのでしょう。反面、「抵抗を感じても前に進まなければいけない」とか、「嫌なことでもやらなくてはならない」など…。この場合は、体にもアクセルとブレーキを同時に踏んでいるような状態が起こり、ぎくしゃくした動作や慢性的な緊張につながります。

また、不快な身体の感覚を意識から遮断することも、多くの人が経験することでしょう。これによって、自分の体に「あまり感じられない」場所ができてしまうかもしれません。

このようなことが続くと、ある日、自分の心や体がばらばらになっているのに気がつきます。そして、自分が再び一つになる道(統合)を模索し始めるのだと思います。

その道はいろいろあると思いますが、それは意識を司る新しい脳と、命を支えている無意識の古い脳の交流を促進し、理解と統合が起こるのを手助けすることだと思っています。ですから、心理療法によってもからだの統合が起こりますし、その逆も可能です。

ロルフィングは、「からだ」を通してこの統合を試みます。からだに表れている葛藤にアプローチしながら、古い脳と対話するように、本来そうあるべき楽な動きを思い出し、理解してもらいます。

例えば、大雑把に分類すれば、体の中心にある筋肉は、より古い脳と結びついていますが、これらを使ったintrinsic movement(内在性の動き)と呼ばれるしなやかな動きを誘導すると、全身の連動が促進されます。それは使われていなかった内なる機能を発見することでもあります。

からだをより良く「変えよう」とすることは、意識的なコントロールを強化することにつながりがちで、それは体の外側をよろいのように固くしてしまいます。これに対して、ロルフィングの提唱する「構造の統合」は、意識と無意識の連携を推進しようとするものです。

からだはとても身近にあって、無視されがちな存在ですが、とても具体的な対象として、外から観察することが容易です。たとえば姿勢のバランスは、内なる統合を測るための指標になるので、こころの状態を外から見るように、明確な地図を手にして生長の旅を続けることができると思っています。