からだの内なる統合を求めて…

ロルフィング施術者日記
by『ロルフィング岡山』
http://www.rolfingjoy.com

身体構造の統合について

2009-01-22 | ロルフィング
岡山でロルフィングという手技療法をやっています。
日本ではまだ馴染みのない名前ですが、ロルフィングは「身体構造の統合」をテーマに掲げている、1940年代から試行錯誤を続けてきた意外にと古い手技です。

まず、「身体構造の統合」とは何なのか考えてみます。そのために、ヒトの脳の構造を参考にしてみましょう。ヒトの神経系を建物に例えると、古い建物を壊さないまま、その上に新しい階を増築するように進化してきたのがわかります。





例えば、脳の中心部には「脳幹」と呼ばれる場所があります。生命維持に必要な基本的なことは、ほとんどこの無意識の領域が面倒見てくれていて、爬虫類は主にこの脳を使って生きています。これは進化の過程では古い脳で、別名「反射脳」とも呼ばれます。

その上には「大脳辺縁系」(別名「情動脳」)があり、さらにその上に「大脳新皮質」(別名「理性脳」)があります。猫などの原始的な哺乳類は、「大脳辺縁系」があるおかげで、爬虫類などと比べると、より感情的な生活を送っていると感じられます。(時々、犬や猫は、本能的な反射と感情の間で葛藤しているのがわかります。)

人間が社会生活に適応するためには、さらに新しい、表面の「大脳新皮質」が活躍しています。このおかげで、人は怒りを感じても相手に襲いかかることなく、円滑な社会生活を送ることができます。この高度な情報処理によって、人間はより葛藤し、時には古い脳からの衝動や要求を抑圧して生きています。

野生のまま大人になったような無邪気な人でも、多少の葛藤や抑圧は経験すると思います。このおかげで、「苦しくても頑張る」ことができるし、自分の感情だけに固執しない広い視野を持つこともできるのでしょう。反面、「抵抗を感じても前に進まなければいけない」とか、「嫌なことでもやらなくてはならない」など…。この場合は、体にもアクセルとブレーキを同時に踏んでいるような状態が起こり、ぎくしゃくした動作や慢性的な緊張につながります。

また、不快な身体の感覚を意識から遮断することも、多くの人が経験することでしょう。これによって、自分の体に「あまり感じられない」場所ができてしまうかもしれません。

このようなことが続くと、ある日、自分の心や体がばらばらになっているのに気がつきます。そして、自分が再び一つになる道(統合)を模索し始めるのだと思います。

その道はいろいろあると思いますが、それは意識を司る新しい脳と、命を支えている無意識の古い脳の交流を促進し、理解と統合が起こるのを手助けすることだと思っています。ですから、心理療法によってもからだの統合が起こりますし、その逆も可能です。

ロルフィングは、「からだ」を通してこの統合を試みます。からだに表れている葛藤にアプローチしながら、古い脳と対話するように、本来そうあるべき楽な動きを思い出し、理解してもらいます。

例えば、大雑把に分類すれば、体の中心にある筋肉は、より古い脳と結びついていますが、これらを使ったintrinsic movement(内在性の動き)と呼ばれるしなやかな動きを誘導すると、全身の連動が促進されます。それは使われていなかった内なる機能を発見することでもあります。

からだをより良く「変えよう」とすることは、意識的なコントロールを強化することにつながりがちで、それは体の外側をよろいのように固くしてしまいます。これに対して、ロルフィングの提唱する「構造の統合」は、意識と無意識の連携を推進しようとするものです。

からだはとても身近にあって、無視されがちな存在ですが、とても具体的な対象として、外から観察することが容易です。たとえば姿勢のバランスは、内なる統合を測るための指標になるので、こころの状態を外から見るように、明確な地図を手にして生長の旅を続けることができると思っています。


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2 コメント

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この理論には驚きました (padma)
2009-02-20 19:56:39
アモッドお久しぶり。パドマです。
もう忘れたと思いますが・・・

ブログ拝見して驚きました。
ロルフィングの理論、テンセグリティー、ラインなどは、
自分のやっているクラシカルオステオパシーとほぼ一致する理論です。
クラシカルも肉体をテンセグリティーとしてとらえ、重心線、張力線としてのライン構造があり、大腰筋をライン構造では重視しています。
これはとても興味深いですね!
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コメントありがとうございます。 (rolfingjoy)
2009-02-26 00:53:34
Padamaさん、コメントありがとうございます。
すぐに気付かなくてすみません。
ロルフィングをやる前は、10 年以上「凝っているところをもみほぐす」マッサージをやっていましたが、専門学校時代から、全身を統合するような科学的な理論には出会いませんでした。
ロルフィングの身体を統合する戦略(10回セッションのレシピ)は、アイダ・ロルフ(1896-1979)のころから変わっていないのですが、理論的に整理されてきたのは博士の没後で、その後の計測機器の発達や最新の科学的研究などが役立っていると思います。
ちなみに「脳の三階層」説によって心身の統合を理解しようとする考え方は、アイダ・ロルフからロルフィングを習い、その実践を通じてSomatic Experiencingというトラウマ療法を創始したPeter Levineの「Waking the Tiger」という本を参考にしています。
(最近、彼の本の日本語版が出ているようです。⇒「心と身体をつなぐトラウマ・セラピー」)
それから、ロルフィングの運動学的な理論の進歩は、パリ大学でバレエ教師養成のために「動きの分析」などを教えている、Hubert Godardというロルフィング・インストラクターの貢献が大きいです。(2003年に来日し、東京でワークショップを行いました)
近年のロルフィングのタッチの仕方には、クレニオや内臓マニピュレーションなどのオステオパシーの技法が強く影響しています。
でも、全身の筋膜(fascia)のネットワークに注目して、それに系統的に働きかけようとしたのはロルフ博士が最初だと思います。
オステオパシーのスティル博士も筋膜について記述していますが、「構造の器官」としてではなく、神経鞘やリンパ管などの神経やリンパの通り道として扱っていたようです。
アイダ・ロルフが、1960年代に正式なロルフィングのトレーニングを始める前は、カイロプラクターやオステオパス、理学療法士、整形外科医などに教えていたので、年代の古さから見て、「筋筋膜リリース」などの技法の起源にはロルフィングが関わっているのではないかと思っています。
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