からだの内なる統合を求めて…

ロルフィング施術者日記
by『ロルフィング岡山』
http://www.rolfingjoy.com

動作の方向性とコーディネーション

2010-03-09 | ロルフィング
「腰痛と姿勢」の日記では、同じような姿勢や動作をしているように見えても、その中身は、作動している筋肉が異なっている場合があることを書きました。今回は、これらを別の角度から見てみましょう。


ロルフィングのインストラクターであり、以前、フランスのバレエ教師養成課程の教授をしていた Hubert Godardは、人間の動作の研究を通じて、ロルフィングの動作教育部門の発展に大きく貢献しています。Hubertは2003年の6月に来日し、東京でワークショップを行いましたが、その時に聞いた話を以下に紹介します。

 
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合気道のある流派が、「気の作用」を体験させるデモンストレーションとして、「曲がらない腕」というエクササイズを行っていました。それは、2人1組になって、1人が腕を伸ばして相手の肩の上に置き、もう1人が両手で相手の肘を押えて、その腕を曲げようとするものです。


  


腕を伸ばした側の人は、最初は、相手に腕を曲げられないように「一生懸命頑張って、腕を固めてください」と言われ、そのように頑張ります。そして、どれくらいの力に耐えられるかを体感します。次にその人は、ただリラックスして、「伸ばした指先から、遠くへレーザー光線を照射するように、気が出ていると想像してください」と言われます。すると、以前よりも腕が曲がりにくくなっていることに気づくのです。参加者は、それが気の作用であると説明されるのですが、科学者であったHubertは、体の各部分に筋電計をつけて、筋肉の作用に何が起こっているのかを解明しようとしました。すると体では、とても当たり前な事が起こっていたのです。


下図は、肘の曲げ伸ばしに関与する主な筋肉です。肘を伸ばすための筋肉は「上腕三頭筋」で、肘を曲げるための筋肉は「上腕二頭筋」ですが…





「肘が曲がらないように固くしてください」と言われた時には、肘を伸ばすための「上腕三頭筋」と同時に、肘を曲げるための「上腕二頭筋」も作動していました。





そして…
「指先から遠くの方に気が出ていると想像してください」と言われた時には、肘を曲げるための「上腕二頭筋」が休んでいたのです。





つまり、腕を伸ばす力が強くなったのは、自分で肘を曲げる筋肉が休んだことによるものだったのです(気の作用もあるかもしれませんが…)。これによって、肘が曲がりにくくなるのは当たり前のことでした。これに対して、頑張って腕をカチカチに固めることは、相手に対抗する力が強くなると勘違いしていただけで、実際には、エネルギーを消費する半面、力は半減していたのです。これは、最大限の力を発揮するためには、単に個々の筋力だけではなく、「全体としてそれらがどう作動するか」がとても重要だということを示しています。それは、「動作のコーディネーション」と呼ばれます。つまり「最適な動作」は、「最適な筋肉の組み合わせ」が、「最適のタイミング」で、「最適の量だけ」作動した時に生まれるのですが、文字通り、全力で頑張ってしまうと、体はただこわばってしまうのです。


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上記の例から、最適なコーディネーションのためには、動作の方向性=ベクトルが重要であることがわかります。腕を伸ばすという、動作の方向性がより明確なイメージを持った場合に、適切なコーディネーションが引き出されましたが、反対に、動作の方向性が混乱するようなイメージによって、目的の動作にはブレーキがかりました。ベクトルの方向性とスピードをいかに操作しているか、という観点から人の動作を観察すると、また新たな気づきが得られます。


たとえば、現在の100m走の世界記録保持者のUsain Bolt選手を見ていると、全身から放射されるベクトルの明確さと大きさを感じます。You Tubeで、彼が9秒58の世界記録を樹立した時の映像を見ることができますが、スタートの直前でも、走る方向のベクトルを大きくはっきりイメージするようなしぐさをしていて、とても興味深く思います。 ⇒ Usain Bolt の 100m世界新記録(動画)


   


今まで、大腰筋のシステムを活性化するためには、胴体内部の空間(コア)を拡大するように動く必要があることを書いてきましたが、その際には、「より遠くへ伸びる」イメージが大切でした。上記のエクササイズでも、「頑張って腕を固める」時には、上腕二頭筋だけではなく、コアも縮んでいたことでしょう。おそらく、「身体を固めて外からの衝撃に耐える場合」以外は、外に向けて力を発揮しようとするすべての動作に際して、コアが縮んでしまうことは逆効果でしょう。「開き直る」という表現がありますが、困難な状況でも縮むのではなく「周囲の空間に対して開くこと」=「身体内部内から外の空間へ向けて動くこと」が、力を発揮するためのカギであると思います。そこで次回は、身体の内側から動くことについて、「内臓感覚」の側面から書こうと思います。

「傷あと」を癒す ・ モニター募集!

2010-03-01 | ロルフィング
先日、コロラドのボルダーで行われたワークショップに参加し、Scar Tissue(瘢痕組織)へのテクニックを教わってきました。


このテクニックは、40年以上のロルフィングのキャリアを持つ、シアトル在住のSharon Wheeler-Hancoffのオリジナルです。1960年代後半に、カリフォルニアのエサレン研究所のマッサージ・スタッフだったSharonは、ロルフィングの創始者アイダ・ロルフから、「芸術的な実験」として、生徒の中では例外的なやり方でトレーニングを受けました。それは、ロルフ博士がロルフィングを見出した過程と同じように、専門的な予備知識や理論を介さずに、実際の体に起きていることを注意深く観察することによって、「どこからはじめて、次にどこに施術したらよいか」などを体得していくというものでした。Scar Tissue(瘢痕組織)へのテクニックは、Sharonが1973年に、交通事故によって大腿部に大きな傷あとを負った女性へロルフィングを行う中で、偶然発見されたものです。


実際の施術は、とても軽いタッチで、皮膚をなでるように行います。ロルフィング同様、筋膜組織へ働きかけますが、ロルフィングとの違いは、組織の層をどれくらいの感度で感じるか、ということだと思います。通常のロルフィングが玉ねぎの皮むきだとしたら、この傷あとへのテクニックは、オブラートのような薄い層を1枚づつ、磨いて滑らかにしていくような感じです。そして、徐々に深層へと向かい、内臓空間や骨周辺の組織の引きつれにも働きかけます。


傷あとへのテクニックは…

★ 手術痕や、動作を制限している怪我や火傷の痕などを 機能的にも(動きの制限を開放し)、見た目の上でも(皮膚の変色を回復させ、凹凸を滑らかに)改善します。
★ 「こんなもので変化するわけがない」というくらいの軽いタッチで、組織の変化を促します。
★ 1度の施術で、組織の流動性が回復し、組織液の循環が改善されるので、治癒が加速します。

★ このテクニックは、固まった組織をゆるめて柔軟にするので、怪我や手術痕などによって、「関節の動きが制限されている場合」や「腹部などに引きつれ感がある場合」に有効です。ただし、伸びてたるんでしまった組織を引き締めたり、「妊娠線」などの裂けた表皮をくっつけることはできません。
★ 感染症予防のため、傷口がまだ完全にふさがっていない場合には、施術を行いません。


今回は、今後の施術に役立てるデータを収集するため、以下のようにモニターを募集いたします。ご協力いただけるとありがたいです。


「傷あとを癒す」モニター・募集要項

無料で施術を行います。
施術は、傷あと以外の全身の調整を含めて、約1時間かかります。
before/afterの写真(傷あとの部位のみ)を撮らせてください。


岡山近辺にお住まいの、傷あとをお持ちの皆様!
どうぞよろしくお願いします!!

お申込みやお問い合わせは、お気軽に以下までお願いします。
  amod@lapis.plala.or.jp
施術受付時間:10:00~20:00(不定休)
私のホームページはこちらです。
http://www.rolfingjoy.com


また先日、友人の、点滴によってできた内出血痕へ同様の施術を行い、好結果が得られました。
以下に経過の写真を貼り付けておきますので、参考にしてください。


(A)点滴から約2週間後の内出血痕

施術前



20分間の施術直後



5日後





(B)点滴から約2カ月後の内出血痕

施術前



20分間の施術直後



3日後