『神々の山嶺』(谷口ジロー/夢枕獏)。
明日は見せてやる
これまでの俺のありったけを
といことで今日はもう寝ます。
おやすみなさい。
素晴らしい漫画を紹介します。
15年以上も前に描かれた作品ですが。
『釣りキチ三平』で釣り漫画の金字塔を打ち立てた、矢口高雄先生の『蛍雪時代』です。
矢口先生の中学時代を描いたエッセイコミックで、昭和29年頃の秋田県増田町での出来事が実に生き生きと描かれています。
僕の中学時代よりも30年も昔の話ですが、まるで自分の中学時代を見ているかのような懐かしい気分に浸ることができました。この感覚は、きっと僕が同じ秋田出身だからというワケではなく、誰もが共有できるものだと思います。その時代にいなかったのに、何故か『ALWAYSー三丁目の夕日』に感じる懐かしさ。それと同じ理屈なのではないかと。
この作品は、矢口先生の母親へ捧げられているだけあって、
随所に母親への思いが丹念に描かれています。
映画館のない村に当時の超大作映画『七人の侍』を呼び、村人達に上映する「映画会」を企画した生徒会。大盛況に終わった帰宅後、仕事で見に来られなかった母親を思う矢口少年。貧しく、どんなに重労働でも、決してその辛さを表に出さない母親の健気さが涙を誘います。
そして最終話、矢口少年の学費を捻出するために真夏の炎天下に山で「クズの葉採り」に精を出す母親と、それを手伝う矢口少年。昼食後のほんのささやかな楽しみは軽い昼寝タイム。矢口少年は耳元で母親の甘い汗の香りを嗅ぎながらやわらかな眠りに落ちていきます。その甘い汗の香りというのが実は…
矢口先生の大好きな「釣り」に引っかけたエピソードでしめくくるそのラストシーンはとてつもなく感動的です。このシーンを描くためにこの作品はあったといってもいいのではないでしょうか。涙が止まりませんでした。
とにかくこの作品の見所は他にもいっぱいで、大自然の美しい描写はもちろんですが、オリジナルの盆踊りを作ったり、農産物の品評会をやったり、修学旅行に行けない生徒達のためにクラスのみんなで「石運び」で旅費を稼いだりと、矢口少年を初めとする学生達の自主性と行動力がフィクションではないかと疑うほどに素晴らしいのです。
以前矢口先生にお会いしたときに「漫画を描くときには『何故今それなのか』ということを考えなくてはいけない」ということを強くおっしゃっていました。様々な社会問題が複雑に絡み合い、生徒と教師間の信頼関係が希薄になってしまっているこの時代に、矢口先生が投げかけたメッセージは、もっと教育というものはシンプルであるべきなんだということ。生徒達の創造性、自主性を教師はしっかり受け止め、即実行に移すというシンプルさ。これがお互いの信頼感を育てていったと描いています。生徒達の個性を閉じこめておこうとするような今の時代からすると、ウソみたいな話なんですが、確実に「あったこと」なのです。そして今の時代も「あって然るべき」なのです。
是非とも全世代の人達に読んでもらいたい作品です。
矢口高雄 『蛍雪時代』 全5巻 講談社