生まれた時から足はなかったの
半身は人なのかもしれない
半身は魚の尾鰭で
だだっ広い海の わたしが泳ぐすぐそばに あなたが堕ちてきたこと
沈むあなたをわたしが 受けとめてしまったこと それは奇跡のような偶然で
異次元を超えて 人と魚との出逢いだった
人に生まれることのできなかった理由を 海の奥底で揺らぐ藻に秘めて
一目見たあなたに惹かれてしまったの 人でないわたしが……
この尾鰭を捨てるため 水底を泳ぎまわり 声を売れば足をくれるという魔女を探す
おなじ道を歩めるのなら この声を魔女にくれてやることぐらい なんでもなかったの
声にできるひとにぎりの綴りには 灰汁を取り除いたうわずみばかり
声にできないことを呑みこんで 喉に刺さる茨の棘に引っかかる痛みが疼いている
にほんの足が手に入るのなら 浮かぶかかとにナイフが突き刺さっても
そんな痛みぐらい どうにもなると思ったの
だけど 魔女の居場所は見つからない 群れる珊瑚礁に尋ねても
竜の落とし子に問いかけても 背を向けて口をつむっていた
海と陸ほどの距離を越えることなんて たいしたことではなかったけれど
半身が魚であるわたしが まるごと人であるあなたと交わることは
神の掟に背くことだった
たとえ魔女に声を売り 足を手に入れたとしても 魚は人肌を持てなくて
ぬくもりをあなたに 伝えることはできなかったでしょう
ひとりきりの夜は つないでいた手のひらを想い出して
他愛ない話になぐさめられる そんなちっぽけな望みを
賭けて それが叶うのなら 神の掟を破っても人になり
たいと 無声の木霊に叫び続けている
抱きしめたくなり 抱かれてみたくなり 人になれないわたしが
告げてはならない言葉をあなたに告げる時 この身は引きちぎれ
砕け散っていくでしょう
いつか そんな瞬間が訪れたら 口にできなかった言葉と共に
泡になり消えていく 潮風になることを選び 磯の薫りを届けている
螺鈿(らでん)色の飛沫にやすらぎを
人である あなたへ
半身は人なのかもしれない
半身は魚の尾鰭で
だだっ広い海の わたしが泳ぐすぐそばに あなたが堕ちてきたこと
沈むあなたをわたしが 受けとめてしまったこと それは奇跡のような偶然で
異次元を超えて 人と魚との出逢いだった
人に生まれることのできなかった理由を 海の奥底で揺らぐ藻に秘めて
一目見たあなたに惹かれてしまったの 人でないわたしが……
この尾鰭を捨てるため 水底を泳ぎまわり 声を売れば足をくれるという魔女を探す
おなじ道を歩めるのなら この声を魔女にくれてやることぐらい なんでもなかったの
声にできるひとにぎりの綴りには 灰汁を取り除いたうわずみばかり
声にできないことを呑みこんで 喉に刺さる茨の棘に引っかかる痛みが疼いている
にほんの足が手に入るのなら 浮かぶかかとにナイフが突き刺さっても
そんな痛みぐらい どうにもなると思ったの
だけど 魔女の居場所は見つからない 群れる珊瑚礁に尋ねても
竜の落とし子に問いかけても 背を向けて口をつむっていた
海と陸ほどの距離を越えることなんて たいしたことではなかったけれど
半身が魚であるわたしが まるごと人であるあなたと交わることは
神の掟に背くことだった
たとえ魔女に声を売り 足を手に入れたとしても 魚は人肌を持てなくて
ぬくもりをあなたに 伝えることはできなかったでしょう
ひとりきりの夜は つないでいた手のひらを想い出して
他愛ない話になぐさめられる そんなちっぽけな望みを
賭けて それが叶うのなら 神の掟を破っても人になり
たいと 無声の木霊に叫び続けている
抱きしめたくなり 抱かれてみたくなり 人になれないわたしが
告げてはならない言葉をあなたに告げる時 この身は引きちぎれ
砕け散っていくでしょう
いつか そんな瞬間が訪れたら 口にできなかった言葉と共に
泡になり消えていく 潮風になることを選び 磯の薫りを届けている
螺鈿(らでん)色の飛沫にやすらぎを
人である あなたへ