藍の旋律

☆作品は最愛のあなたに捧げます☆

木蓮の手紙

2013-04-21 19:38:30 | 
遊歩道に立ちつくす木蓮の純白さに
はじめてあの人と交換した 
封筒の白さを思い出していた

どうしてかしら
人と人は出逢うと手紙を書きたくなるのに
綴られた文字の重みに便箋を入れ忘れ
からっぽの封筒だけを交換して
わかったように返事を書きながら
やっぱり便箋を入れ忘れ返信している

中味のない封筒の軽さで笑顔になり
信じる錯覚から小さな誤解が生まれ
大きな不信に渦巻いていくのかしら

あの人から海色の封筒が送られてきたのは
もうずっと昔のことだけど
いつだって便箋なんて一枚も入っていなかった
封筒からあまりにも磯の香りが漂っていたから
海が好きな人なのかしら 
なんて勝手に思い込んでいたのね
海が好きなのかどうなのか
そんな話は一度も交わしたことなかったのにね

人と人は微笑み合うだけでは物足りなくて
言葉をぶつけて傷つけ合い 
それは互いに成長しているのでしょうか
それとも離れていくのでしょうか
沈黙し合いながら傷つけ合うことがあるのは
人間だからでしょうか

潮風色の封筒をえらんで
ふたたびあの人に手紙を送れる日が来るのは
夜空に流れる天の河ほどの時間をくだり
ふやけ切った皺だらけの指に
年輪を刻んだ頃かしら

それほどの労を費やしても
精一杯書き綴った便箋は封筒に入れられないまま
空封筒に砂浜の切手を貼っているのかもしれない

からっぽだとわかっていても 
木蓮の花は返事を待っているかのように 
人肌の風に揺れている
わたしに微笑んでくれるのは
残り少ない時を咲く花びらだけなんだって
一番よく知っていたのはわたしだったはずなのにね











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