藍の旋律

☆作品は最愛のあなたに捧げます☆

わたつみの文

2013-04-20 18:33:32 | 
小壜に手紙を入れて
笹舟を浮かべるように
わたつみにそっと流したのは
月のしずくが奏でる秘密です

手紙は漣に揺られて
沖へと流れてゆきました
気まぐれな高波に呑まれて
海底に沈みあなたのもとへ
届くことはないのでしょう

ほんとうのことを話したら
泣きたくなるばかりのわたしは
砂を噛む仮面を被り
不器用な踊り子になり
何気なく傍にいたいと思ったのです

開いてはならない扉の鍵も
行方の探せぬ海に葬りましょう
海鳥の声がしきりに呼んでいるのは
答えを求めているのではなく
憶えているから鳴いているのでしょう

橙色の澪標はふたりの孤独のために
途切れた出逢いを結ぶ徴(しるし)です
溢れる波折りを押し殺し
伝えることは砕けた小さな破片です
伝えないことも愛だと分かっていました
伝えなくても伝わることは
もっと深くて消えない愛だと知りました

小瓶に手紙を入れて
わたつみに眠らせたのは
砂を吐いた貝殻の秘密です
今宵も海霧のように
月を霞めていてください










夜更けに過ぎ去る人

2013-04-19 22:46:29 | 
夜更けに過ぎ去る人は
ちいさな画面の向こうから
魔法の通い路をくぐり抜けて訪れる
琥珀色のグラスの水滴に語りかけ
ひとつふたつ文字は星になり
銀河の唄を奏でている

「僕が死んだら北斗七星になるよ
 捨てられたものたちを掬っている」
呟いていたやわらかな虚無の夢
「わたしが死んだらカシオペアね
輪を描き北極星を守っていましょうか」
生きているから灯かりの点る死を希む

夜更けに過ぎ去る人よ
花占いをするように
ひとひらふたひら散らし
引き算するように数えていた
「恋すれば時を失うよ」
「愛すれば時刻のない時を生む、きっと」
流れ星のような約束にガラス瓶の蓋をする

聞いてみたいことを尋ねないのは
言ってみたいことを口にしないのは
幾千枚の花びらほど慕い
幾千枚の言霊を失って

満天の星空よりもひとつの星の光を
くすまぬように抱きしめて
ささやかなぬくもりを重ねていたいと

夜更けに過ぎ去る人よ
肩を抱きあった月明かりから
するりと抜けてここにはいない人
どこかで汗を流して生きている
足音もないのに
おやすみと足跡だけ残し
夜更けに過ぎ去るあなた