琳派墨絵保存倶楽部・部誌 「なてし子」

江戸琳派の祖、酒井抱一家に伝来する本格的な琳派の画法を継承している「琳派墨絵保存倶楽部」の活動日誌ブログです。

⑦屏風絵のたのしみ「夏秋渓流図屏風」 左右から見える光景

2021年12月12日 | 琳派、日本画、酒井抱一


この、大変な技巧を持った画家が、うっかりして不自然な点苔を描くことはないでしょうが、

「世界がこのように見えた」、という理由があるのでしょう。


では、なぜこのような点苔の表現に行きつくのでしょうか?

 

(前回から)

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なにか、ヒントになる事はないかな?と思った時に、

屏風絵であれば、作品を左右の側から見てみる事は、有効な方法であり、

また理にかなった事です。

屏風絵はそのように構図が練られて描かれているからです。

また違った視点から、この魅力的な渓流図の世界に

近づくことができるかもしれません。

 

では、画面を分割していきましょう。

 

こちらは、右の屏風です。夏の渓流図ですね。

この屏風を、右側から見た図を作りたいと思います。

下のように、3面が見えてきますね。

 

 

実際には屏風は、折り返っていますので、

ここで絵を繋げます。

これで、夏の部分の「右から見た絵」ができました。

次は秋の部分の「右から見た絵」を、

同じように作りましょう。

 

 

秋の渓流図です。

 

抜き出して、実際に右側からみえるように、

絵を繋げます。

水の流れが、見事につながっていますね!本当にみごとな作品です!!

屏風絵はこういうところでも、感嘆させられてしまいます。

これは、もちろん、偶然などではなく、

作者が考えて意図しているのです。

 

 

では、夏と秋を繋げてみましょう。

 

この屏風を右からみると、

このような絵になります。

 

ひのき、ひのき、檜…

驚くほど、ひのきの幹ばかりが林立しています。

その幹も、手前は大きく太く、奥の秋の方に進むほど、ほそく描き分けて、

遠近感をつくっていますね。

一方の渓流は、奥からやってきて、みごとに繋がり、

中央へと流れこんで落ちていきます。

夏の水と秋の水、落ちる方向もぴったりと揃っていますね。

無常な、圧倒的パワーをみせています。

 

 

そして、何といっても、山桜の幹ですね。

直立してしげる檜の合間で、苔にまみれて、

炎のような形をして、左右に枝を伸ばしています。

ちょうど上の2本の檜に、踏まれているような窮屈な構図です。

苦しそうでもあります。

枝ぶりは、渓流の流れに逆らうかのようです。

か弱い、ほそい枝ですが、

内に秘めた精神力を感じさせます。

 

もう一度、全体を見てみましょう。

こちらが正面から見た全体図です。

 

そして、こちらが右側からみた屏風。

あの若々しい、ひのきの幼木も

窮屈そうに押し込まれています。

対して、夏の山百合がかすかに顔をのぞかせて、

広い空間を対象的につくっています。

熊笹の向きも、いいですね!

 

閉塞感があり、

あの点苔でさえも、動きが止まって見えています。

 

 

本当に見事としか言いようがない作品です。

 

左側からは、どのようになっているのでしょうか?

では、次に続きます。

 

 

 

 



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