お久しぶりでございます。いかがお過ごしでしょうか?
最近はつぶやくばかりで、こちらの方は完全放置しておりました(実のところ、このブログの存在自体を忘れかけておりました)。何かちょっとまとまったことを書く場所があるというのはいいものですね。
さてつまらぬ挨拶はこれくらいにして本題に入ります。つい先日のことになりますが、オーストリアンとして有名なエベリング教授が珍しい新聞投書を発見したという情報がネットを通じて伝わってまいりました。珍しい新聞投書というのは…、詳しい話は以下に訳したリッツォ教授のブログエントリーをご覧いただくということで。
なお、この新聞投書は、okemosさんが全文を訳してくださっております(ケインズ=ピグー陣営、ハイエク=ロビンズ陣営)。一読を強くお勧めいたします。
●Mario Rizzo, “Keynes versus Hayek: Past is Prologue”(ThinkMarkets, June 30, 2010)
「ケインズ対ハイエク; 過去はプロローグ」
by マリオ・リッツォ
つい最近、私の友人であるリチャード・エベリング(Richard Ebeling)が非常に貴重な2つの投書(pdf)を発見した。
これら2つの投書は1932年―1932年というと、ジョン・メイナード・ケインズの『一般理論』が執筆される以前の時期である―にロンドンのタイムズ紙に寄せられたものである。テーマは、不況下にあるイギリス経済にとって適切な経済政策とは何か? である。
これらの投書にはいくつか目をひかれる個所がある。まずはケインズらが署名している投書について。注目すべき最初の点は、ケインズが署名している投書にA.C.ピグー ―ピグーといえば、後年になってケインズが時代遅れの「古典派」経済学の代表者とみなした人物である―もまた署名しているという事実である。第2点は、ピグーとケインズ(そしてその他の共同署名者ら)が、民間・政府両部門における節約(austerity)に対して警鐘を鳴らしている点である。支出を通じた経済の刺激を強調する発想は、今日においてもまたケインジアンが推奨しているところのアイデアそのものである。
結果として、現在のような状況においては、[消費支出の切り詰め=節約は]、消費支出から実物投資への直接的な移転にはつながらず、それゆえ実質国民所得の水準は不変のままに保たれることはないでしょう。消費支出の切り詰めは、それとほぼ同規模だけ実質国民所得を減少させることになるでしょう。消費支出の切り詰めは、労働や機械、船舶といった生産要素を現在とは異なるヨリ生産的な用途に振り向けることにはならずに、これら生産要素を生産に使用されないままに遊休状態にとどめおくことになるでしょう。
さらには、単独の個人の行動に関して妥当することは地方政府を通じた集団の行動に関しても同様に妥当します。もしある町の住民達が水泳プールや図書館、博物館などを建設したいと考えているとすれば、町の予算でこれらを建造することを手控えたとしても、ヨリ広範な国益を促進することにはならないでしょう。町の住民らは、節約する(建設に対する出費を控える)ことで「間違いによる犠牲者」という立場に置かれることになるでしょうし、この犠牲の過程において、町の住民らは自分達だけにとどまらず町の住民以外の人々も傷つけることになってしまうでしょう。町民らの間違った善意を通じて、失業の荒波はさらにその激しさを増すことになるでしょう。
F.A.ハイエクやライオネル・ロビンズらが署名している投書もまた注目に値するものである。注目すべき最初の点は、「すべての経済学者」が、デフレーションは望ましくない現象であること、デフレーションは避けるべきであること、に関して同意している点を明確に述べていることである。
貨幣の退蔵は―現金のまま手元に置いておこうが、銀行の預金口座に寝かしておこうが―、経済にデフレ的な効果をもたらすことになるという点については同意があります。デフレーションそれ自体を望ましいものと考えるような人は一切おりません。
第2点は、ハイエクとロビンズが、民間部門の節約に懐疑的なケインズ=ピグーらを近視眼的であると強調していることである。
しかしながら、先日本紙に投書を寄せた経済学者らは、節約された(消費支出に回されなかった)貨幣が実物投資に回る保証がないという理由から、既発の証券の購入に対して非難の目を向けているようにみえます。現代経済においては、証券市場は投資のメカニズムが機能する上で欠くことのできない存在の一つとなっています。既発の証券(訳者注;流通市場における証券)の価値上昇は、証券の新規発行が促される上で欠くことのできない前提となるものです。(証券の)流通市場が活況を取り戻してから(証券の)発行市場が活況を取り戻すまで(あるいは景気が回復するまで?)には時間的なラグが存在することに関しては疑いありません。・・・(略)・・・そういうわけですから、手持ちの証券を売却したり、預金を引き出したりすることは、景気回復の助けとはならないでしょう。
第3点は、ハイエクとロビンズらは、政府債務の規模拡大は景気回復の足を引っ張っている摩擦をさらに悪化させるという理由から、ケインズ=ピグーらが勧める政府主導の財政刺激策を拒絶していることである。
最後の点として、ハイエクとロビンスによる以下の結論にも注目しよう。
政府が景気回復を支援しようと望むのであれば、政府が取るべき適切な手段は、乱費(lavish expenditure)という古い習慣に立ち戻ることではなく、貿易や自由な資本移動に対する諸々の制限を撤廃することです。現時点において、景気回復がなかなか始まらない理由(の一つ)は、貿易ならびに自由な資本移動が制限されているためなのです。
これら2つの投書で話題となっている争点が基本的には今日話題となっている争点と同じであることを理解するのはそれほど難しくないだろう。対立している陣営の立場もまた同じままである。.私がこれまで何度も述べてきたように、大討論(the great debate)は、今日においても依然として「ケインズ対ハイエク」という構図のままなのである。これ以外のすべてのことは脚注に過ぎない。