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痴呆老人は何を見ているか Ⅱ

2010-02-09 23:38:45 | 本の紹介
「痴呆老人は何を見ているか」大井玄氏著

続きです…

4、認知症老人とのコミュニケーション

音声には「相手を安心させる、なだめる、懇願するといった社会関係の
調整に使われる」という側面があります。
認知症の人同士の会話を聞いていると楽しそうに会話をされていますが
どうも会話の内容がバラバラで相手の会話を理解するというより勝手に自分の
おしゃべりに夢中になっている「偽会話」に遭遇します。

例えば家庭で毎日繰り出す夫の会社で愚痴を全て聞いてあげて理解してくれる
伴侶はまずいないだろうし、ここで肝要なのは理解することではなく優しい音声で
うなずいてあげることなのです。


5、老人のいる世界

痴呆老人と我々が同じ食堂にいても彼らと我々は同じ世界にはいません。
また彼らは見えるものではなく(その目で今見えなくても)
見たいと思うものを見ています。

また痴呆老人はコトバをつながりの観点から使用することがあります。
「畳敷きの場所を「公民館」、消火栓のある場所を「駅前」と言ったりします。
事物認識がずれていても訂正する必要はないのです。
老人はせっかく見つけた「意味」を失い混乱してしまいます。
認知能力(特に記憶力)が低下することにより現在の環境へのつながりが失われます。
自分がどこにいるのか、なぜここにいるのか、いまはいつなのか。
つながりを気付こうとする努力は報われません。
つながりを感じられない世界は心象的によそよそしく
混乱し理解できない様相を示しています。

そこに生じる情動は不安が主たるものであり、たやすく恐怖へと成長します。
不安、恐怖、怒りなど命を脅かされた時に生じる情動がコントロールできなくなった瞬間
せん妄状態に移行していくように見えます。


せん妄状態
せん妄(せんもう)状態は、軽度や中等度の意識障害の際に
幻覚・錯覚や異常な行動を呈する状態です。
大抵は短時日の間に急速に出現し、一日の中でも、ある時は普段と変わらないのに
ある時はありもしないことを口走って興奮すると行った具合に
症状が変動するのが特徴です。

老人や大病をした人が、「急に訳のわからないことを言って興奮しだした」という時には
かなりの場合、せん妄状態に陥っているものです。
せん妄状態についての知識がないと精神病と間違われてしまいますが
意識障害の一種であり、身体的ケアの必要な状態です。


6、ひきこもりと痴呆老人

ひきこもりの人達の性格は極めて日本人的な性格
きわめて傷つきやすいという特徴があります。
世界につながろうとしてつながれない、痴呆老人と同質のものではないかと思えます。
ただ高齢者と比較してそのエネルギーは何桁も大きく
「クラッチを失ったエンジン」に例えられます。
「自分自身はものすごいエネルギーを蓄えていて一生懸命アクセルをふかすのですが
どうしてもその動力が有効な形で外部世界に繋がっていかない。
すべて空回り。この無力感は失神するほど強烈なもの」となります。
また若者の「キレる」という行動も自身の乏しい経験からくるつながりの喪失から
どのように判断し行動していいか判らない状況で生じる
不安が転化するものと考えられます。


7、日本人の伝統的なつながりの意識

日本人には伝統的に強い「つながりの自己」的感覚があります。
我国の歴史を通覧してみると、平等主義的傾向が強いことが判ります。
たとえば奴隷とみなされる人が少なく、また大化の改新後の律令制度の
公地公民の原則に基づく班田収授法においては量的平等の正義が見られます。

ところが現在の日本ではアメリカの個人を重視した人間観を多くのものが
当然のように受け入れています。
江戸時代の人は痴呆老人を「神の自由な世界に一歩近づいたものと思惟し
祖霊に対するがごとく接した」といいます。
人間はつながりによって生かされているに過ぎないのです。


「痴呆老人は何を見ているか」大井玄氏著


(晃)
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