山王アニマルクリニック

日々の診療、いろんな本や音楽などについて思い巡らしながら、潤いと温もりのバランスを取ってゆこうと思います。

ネコのくすりの与え方

2014-10-18 19:57:15 | 薬の与え方―犬と猫

  今回は、今さらながら錠剤やカプセルなど固形物タイプの薬をネコにどのように与えるか?を写真を使って解説してみたいと思います。ネット上でざっと調べてみたのですが、一番上にヒットしたのはだいたい当院で行っている方法と同じでした。

 正直な所、私の大学時代には全く習わなかったし、働いた病院でも誰かに習ったわけではないのです。にもかかわらず、やはり色々考え工夫してゆくと、行き着く先はだいたい一緒なんですね。

 でも?いくら丁寧に教えてもできない人がいるのも確かなのです。それはどうしようもないことなのかもしれないのですが、ざっと調べた感じ、もう少しヒントになるようなことも書けるのではないか?とも思ったのです。私はPC関係は苦手でして、今も何だかわからないことだらけでブログをやっています。

 ネット上を徹底的に調べたわけではないので、同じようなことを書いている人もいるのかもしれません。が、いろんな人のやり方や書き方を見ると、そのちょっとした差から奥行きが生まれ、理解が深まることもありますよね。

「文章を良く読まず、ブログの写真だけ見てやったら失敗してしまいましたが、良く読んでみたらものすごく的確なことが書いてあり、投薬できるようになりました!」と言ってくださった患者さんもいます。

  そういうわけで、あまり他では書いてなさそうなポイントを文章という効率が悪くアナログな方法で表現してみたいと思います。まず、最初に考えなくてはいけないことなのですが……どうしても薬を与えなくてはいけないネコは、どこか体の調子が悪いですよね?当たり前です。そして薬には不思議な傾向みたいなものがありまして、抗菌薬(抗生物質)などだと、胃や腸にあまり負担がかからない薬ほど苦い……というのがなんとなくあるのです。これは「良薬は口に苦し」という昔からの言い伝えや中医学の薬味などにも関係してくるのだと思います。

 シロップに混ぜて簡単に与えられる苦くない抗菌薬は、胃に負担がかかって嘔吐し食欲がなくなってしまったり、下痢してしまったりするので、理論的には効くはずであっても、逆に調子が悪くなってしまうことも多いのです。注射にすれば胃に負担がかからないのですが、注射だと、一日に1~3回しなければならないので、通院(一日2回以上は難しいですよね?)か入院するしかなくなり、コストも高くなってしまうのです。だからこそ、飼い主さんがネコにほとんどストレスをかけることなく錠剤やカプセルを与えられる…ということのメリットは、かなり大きいのです!

 ネコは苦味がとても嫌いです(イヌはネコよりも苦味に強い)。苦い薬だとシロップに混ぜても全くダメで、口のまわりがカニのように泡だらけになってしまいます。調子がとても悪いのに突然、信頼していた飼い主さんが無理やり口をこじ開け、苦いものを何度も突っ込む人になってしまったら(薬を与えるのを何度も失敗するという意味です)……精神的ストレスによって、さらに調子が悪くなってしまいます。

 「この子に薬をやるのは先生より上手にできますよ!」なんて言う人も、たまにはいるのですが、残念ながら、上記のように何度も失敗して悪化させてしまったり、与えるのをあきらめてしまう人の方が多いのです。

 とても神経質で、我々でもかなり手こずる子もいます。そこで提案なのですが、まず、おいしいドライフードや手にベタベタとくっつかないウェットフードを小さく丸めたもので練習してほしいのです。無理やり口をこじ開けられたとしても、おいしいものだったら?なんだよ~と思いつつも?まあいいか!おいしいから…と思ってくれるのではないでしょうか。

 最初が肝心なのです!最初に無理やり口を開けられた時、苦いものを入れられ失敗→カニ泡…という体験をしてしまうと、それがトラウマとなって口を無理やり開けられた時=苦い…という認識になり、頑なに口を閉ざして逃げ回る子になってしまうのです。病気になってない段階でも、おいしいフードで時々練習しておくことをおすすめします。

 病気になり、苦い薬を与えなければならなくなった時も、最初の2回くらいはおいしいフードで練習して下さい。そして3回目に本当の薬を投与し、成功したら、もう1~2回おいしいフードで同じようにやってもいいでしょう。

 特に苦い薬は、投薬用のおいしい製品(フレーバードゥなど)―少しだけならチーズなど粘土状になって手にあまりくっつかない人用の食品でもOKです―に包んで与えてください。苦い薬でも周りがおいしいなら何回か失敗しても大丈夫です。でも包むものが大き過ぎると与えずらいし、奥歯で噛んでしまって苦い所が露出すると、カニ泡状態になってしまうので気を付けて下さい。

                       

 試みる前には、まず飼われているネコちゃんがお気に入りのマッサージをしてリラックスさせて下さい。最初から飼い主さん自身が緊張してガチガチになり過ぎていると、その緊張がネコちゃんにも伝わります。慣れるまではおいしいフードでやるので失敗したっていいのです。

 さて、まず最初に右利きの人は左手を(左利きの人は右手で)ネコちゃんの後頭部のちょっと出っ張った付近に置きます。

 手の小さい人は薬指と小指の付け根よりやや下側の手のひら付近に後頭部の出っ張りを合わせ、そこを支点にします。

 手の大きい人は薬指と小指を開き、後頭部の出っ張りより下の首付近を薬指の指先と小指の爪上あたりで押え、この2カ所を支点にした方がいいかもしれません(私はこれ)。

  そして後頭部付近を支点として意識しながら、ネコの右側のほお骨の下のくぼみに親指を、左側のくぼみには人差し指を当て「わしづかみ」します。

 この時、口の開閉がしにくくなるような所や、口腔内に歯が当たって痛くなると思われる所はつかまないようにして下さい。

ここで重要な心構えがあります!「わしづかみ」といってもネコが痛がるほど握りしめるのではありません。かといってやさし過ぎると、すぐに手からすり抜けてしまいます。

 男性は力ずくな傾向が、女性―特に母性本能の強い人は優し過ぎ、ネコがいやがるとすぐに手を離してしまう傾向があるように思います。

 外科手術の心構えとして「鬼手仏心」(きしゅぶっしん)という言葉があります。メスでお腹などを切り開いたり、縫い合わせたりするのが外科なわけですが、その時、手でやっていることは鬼のように残酷に見えても、その心は仏のような優しさをより所にする…という感じです。

 これはやや極端な例ですが、医療とは注射などの苦痛が伴う行為をしなければならないことが多く、命を救うためとはいえ、何だか矛盾したことを実現しなければならないのです。厳しさに偏り過ぎても優しさに偏り過ぎてもダメで―優しさをより所にした厳しさ―という絶妙なバランスが必要なのです。薬を与える時も、常にソフトな鬼手仏心を心掛けて下さい。

 もう少し具体的な解説もしてみます―ここで必要なのは、強く握りしめる力ではなく、前後(ほお下のくぼみと後頭部付近)と左右(ほお下くぼみの左右)の4点を保持する指力です。その4点をすり抜けられずブレないレベルまでは、握りしめていいのですが、痛がるほど力を入れないで下さい。

 かすかに隙間があるくらいのレベルで、手先だけが~メデューサににらまれて~石になったような感じにして固く保持するのです。こうするとネコ自身が動かない限り痛くないという状態になります。

 

  それでもネコは、なんとか逃れようとするので、この時点であごの下を写真のようにさすってマッサージして気をまぎらわします。後ずさって逃げる子もいるので、一人の方は後ろに逃げ場のない部屋の角でやった方がいいでしょう。

 前足も出てきます―この時も左手は決して離さず、あごの下をマッサージして気をまぎらわしながら、薬を入れるタイミングをはかります。右手の人差し指と親指で錠剤をつまんだままマッサージしていることにも注目して下さい。

  左手を石にしたまま前後左右の4点の逃げ場をなくし、後頭部を支点にして、ちょっと上にあげてから後方にそらせる(わしづかみ状態では下を向いている左の手のひらをネコの前方に向けるようにひっくり返す感じです)と写真のように口が半開きになります。

 まずはこの状態を維持できるようになることが重要です―この段階ができないと次のスッテプに進めません。

◎実際の投薬は早ければ3秒くらいで終わってしまうのですが、写真で様々な段階を停止させて撮影するのは思ったより難しく、人の手もネコも違ってくる寄せ集め写真になってしまいました。

 人差し指と親指で薬をつまみんだまま、薬指を半開きになった口の下側の前歯に当てます。前歯なら小さく、力をこめにくい所なので痛くありません(まれに口がとても固い子もいます―けっこう指力がいるかもしれません)。

  左手を石にしたまま、薬指に力を入れ口を開きます―この時、口を開けるとともに左の手のひらが下を向いてしまわないように気を付けて下さい。左の手のひらは下げずに、なるべくネコの前方に向けたまま維持して下さい。左手がブレてしまうと的が定まらず、失敗します―ソフトな鬼手仏心を忘れずに!

 この段階でネコの顔が真上を向いていれば、上から錠剤を離すと舌の付け根の奥にポトンと落とすことも可能です(この写真ではやや角度が下向きになっています)。

◎2人でやる方法もあり、その場合、1人が口を開け(この場合、人差し指で前歯を開ける)、もう一人が薬を落として入れる役に分担します。

 こんな感じですが、実際はもう少し下をねらった方がいいです―舌の付け根と喉の境界線の中心部をめがけて下さい! 

飼い主さんの中で、「気管に入ったりしそうで怖い…」と心配される方がよくいますが、気管の入り口は縦長でとても狭く、誤飲を防ぐために反射的に飲み込むようにできているので粉や液体でない限りほとんど心配ありません。

  タイミングをみはからって(舌がベ~と前に出た時がベスト)、錠剤を舌の付け根あたりに落とし、更に奥に向かって人差し指で押し込みます。この時も薬指で下の前歯をしっかり押えておけば、アグアグはしますが強くは噛まれません。

 カプセルの場合は、つまんだまま先っちょだけ水につけ―そうするとツルツルすべるようになります―軽くつまんでツルっとすべる力を利用して、舌付け根あたりに押し出してから、素早く人差し指で更に奥に入れます。

喉の奥へ押し込む力は強過ぎず弱過ぎず、オエっとなり過ぎない程度で、これもソフトな鬼手仏心を忘れないで下さい。

  喉の奥まで指で押し込めれば、舌が引っ込められると同時に薬は食道方向へ自然に入っていきます。この時無理やり口を閉じるように押えたりしないで(昔からある某ペット用通販雑誌の写真ではそれを推奨)、あごの下をマッサージしてしてあげて下さい。

 

 それから注射器などで少しずつ水(5~6mlを数回に分けて)を与え、薬を胃に送ります。これも重要で、食道に薬があると気持ち悪いらしく、1時間以内に吐き出してしまう子がいるのです(嘔吐ではなく吐出といいます)。

 石の左手で手のひら前方を維持したまま、犬歯の直後から上あご中心を伝わらせるようにするとむせにくいです。ゴクンと飲み込む動作をするときは、上向き過ぎると飲み込みにくいので、それに合わせて少し下にさげてあげます。

時々飼い主さんで「薬をやっても吐いちゃうんです」という方がいたのですが、そういう中でも薬を与えるのがうまくできずに口から落下するのを吐くと表現するケースと上記のように薬の与え方には問題がないのに、水を与えなかったせいで食道から吐き出してしまうケースがあることに―自分のネコが病気になって―気付きました。

 考えてみれば当たり前のことで、人間だったら水を飲みますよね。胃から下の腸に行かないと薬は吸収されないので効くわけがありません。

 うまくいったら、あごの下を再びマッサージしたりしながらゆっくりと左手の力を抜いてゆき、その子が好きなマッサージをしばらくしてあげて下さい。

 病気になってからではなく、日頃から時々おいしいフードで練習してみて下さい。そうすれば、これをやられる時は、ちょっと無理やりだけどおいしい!というよい先入観が形作られ投薬しやすい子なってくれると思います。

 言葉で表現してみると、どんどん回りくどくなってしまいました…もっとシンプルに書いている人も多いと思うで、いろんなやり方を参考にしてみて下さい。また、分かりにくい所がありましたら、コメント下さい。これはけっこう重要なことなので今後バージョン・アップするかもしれません。


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