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映画・舞台の感想や俳優さん情報等。基本各種メディア込みのレ・ミゼラブル廃。近頃は「ただの日記」多し。

デイジーデイジー・106 "Three Dollars"

2006-03-06 12:35:55 | DW出演作品レビュー

お伝えしていたアデレードのイベントのレビューも出ましたが、今日はこの映画への感想を。

先頃、"The Bank""The Boys" と共にボックスセットも出ましたが、私が購入したのは通常2枚組の方。
前2作は持っているし、さほど目ぼしい特典もなさそうなので…でも、CD-ROMに "The Bank" の脚本ファイルがはいっているという話を聞いて、ちょっと心が揺れ動いています。
リージョンALL、PAL形式なので、PCで視聴できます。但し字幕はありません。

さて、エリオット・パールマン原作の、この映画の内容については、下記公式サイト及びIMDbの記述等をご参照下さい。
公式サイト
IMDb

主筋自体は単純なもので、エディ・ハーノヴェイ(デイヴィッド・ウェナム)という善良な人間が、その善良な性質ゆえに困窮し、破滅の淵にまで追い込まれて行くというもの。
時系列通りに話が進む訳ではなく、エディの子ども時代や大学時代、少し前の出来事や現在のエピソードが入り交じって展開して行きますが、判りにくいということはありません。(そうは言っても、エディの研究の内容等、専門的な話に関してはまるで駄目ですが…)
妻ターニャとの出会い、娘アビイも加わっての現在の生活や家族愛も、時間をかけてじっくり描かれています。
実はターニャの方も問題を抱え、更に娘には難しい持病があり…と、家族への愛情ゆえに、彼らはますます追い込まれて行くことになるのです。
未読ですが、原作の方では、その背景の社会的問題(環境問題、人種問題、貧困等)がもっと描きこまれているのではないでしょうか?
映画ではそれは、あくまでもこの主人公の個性を際立たせるためのものとして機能しているように思います。監督が言うほど "political" な話とは感じられないので、さほど身構えて観なくても大丈夫です。
但し、人間とは社会的存在であって、社会または政治と切り離された「人間」など存在しない、ということがちゃんと伝わってくるのは、やはりオーストラリア映画らしい所でしょう。
そして、彼らの抱える問題は、もはや日本でも他人事ではないな、と感じられました。突然の解雇も、ホームレスも「オヤジ狩り」(原作ではネオナチの仕業らしい。つまり人種問題絡み)も、日本でも既に当たり前のように存在する社会的事象なのですから。

但し、レビューにもあるように、この映画に2時間近い長さが必要だったかということについては、疑問を抱かざるを得ません。
監督のジョイ・ディヴィジョン(イアン・カーティス)への思い入れは、その音楽の有する社会への閉塞感や絶望が通奏低音の如く流れているにせよ、ストーリイの上では、エディとターニャの出会うきっかけ、また「時代」を感じさせる以上の意味を持ち得ているとは見えないのです。
穿った見方をすれば、epileticであったとも伝えられるイアン・カーティスの「へっぽこダンス」の真似などして(ターニャにメイクまでしてもらって)いたエディ自身の娘が、同じ病気(障害)を抱えてしまっているあたりに「運命の皮肉」が感じられないこともありません。
また、例の『北北西に進路を取れ』シーンにも「お遊び」以上の必然はあまり感じられませんでした。
善人がその性質ゆえに浮き沈みを経験するというストーリイは、昔のフランク・キャプラ映画が得意とするところでしたが(コノリー監督もどこかでキャプラの名前を出していたような)、たとえば『素晴らしき哉、人生!』のように、一見瑣末に見えるエピソードが、終盤、一気に伏線として機能するというような映画的快感は、この映画からは感じられません。と言って、そういうドラマツルギーをいったん解体して…というほどのものでもありません。そのグダグダ感も含めての「現代」なのかも知れませんが。

それにしても、夫婦ともに職を失ったからと言って、一気に残高が「3ドル」だけなんてことはあるんでしょうか?ああいう辞め方をした(させられた)エディはともかく、ターニャの方には退職金くらい出ないのかな?(1年ごとの契約では無理?)保険とか、それまでの貯金とかは?子どもが小さいんだから積立定期くらいしといてよ。
妙に世知辛い話ですみません。実際せっせと小額貯金に励むのは日本人くらいとも言われてますが、どうなんでしょうね。
そして今後のことは、結局アマンダが何とかしてくれるだろうってことなのかな?映画では暗示にとどめていますが…

俳優さんたちの演技はみな良いものでした。デイヴィッドの優しげな表情、お得意の?うるうる涙をこらえる顔、とある回想シーンでのめちゃ可愛い仕草等、彼のファンとしての見所は多いと思います。それだけに、クライマックスでの「あのシーン」には目を覆ってしまいました。うう…可哀想だよお…
フランセス・オコナー、サラ・ウィンターという女優さん二人も、対比的な役柄をうまく演じていましたし、なんと言っても、アビイ役のジョアンナちゃんが可愛かった!彼女のことはデイヴィッドも絶賛していましたね。
ジェラルド(この名前の愛称ってやっぱり「ジェリー」なのね…)役のデイヴィッド・ロバーツって、"Gettin' Square" の警察?の人ですよね。ジョニーにちゃっかりバス代を取られる人。そう思うと、今回の二人の役所も妙に笑えます。
ニック役のロバート・メンジースも素晴らしかったけど、この人の発音は殆どよく判りません…でも、彼とエディの「地獄巡り」の如き終盤何十分かは、確かに出色でした。

特典は、原作者や監督のコメンタリー、未公開シーン集、各インタビュー等ですが、このインタビューが収録されたのってプレミア前後かな?デイヴィッドが本編で見るよりもかなり痩せていた時期のようです(シラノやつれ?)。
あちこちで話題のヒゲ面ロブくんもけっこう可愛かったです。

未公開シーンには、ケイトの夫ポールが出て来たり、アビイが生まれる前後の様子が描かれたり(赤ちゃんの名前に「アマンダ」はどう?とターニャに言われて、エディがひやっとしたり)、アマンダとジェラルドの関係?が言及されたりしていました。
最後のものは結局レッド・ヘリング(いわゆる「ひっかけ」または誤った手がかり)なんだと、監督自身が述べていましたが、それにしてもそのことを「ねえ、どう思う?」という感じでエディに話すアマンダって…エディの立場は…?
エディが夢の中で、学生時代に常連だった(ターニャとの出会いの場でもあった)レコード店に行くシーンは残しておいても良かったような気がします。
「不思議の国」さんに、雨の中の泣きっ面エディ(とニック)のシーンが本来のファーストシーンだったんじゃないか、というご意見が出ていましたが、それもあり得るかも知れませんね。「スクリーンプレイ」には、元々のスクリプトと実際の映画の異同なども判り易く記してあるそうです。日本アマゾンでは在庫切れ。でもUKにはあるようなので、購入を検討中です。

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