このところ、映画の感想は旧「ひとこと」やツイッターで軽く触れるだけで、ブログの方には書いていなかったのですが、この作品についてはもう少しちゃんと語りたいと思います。
というわけで、本日、新宿バルト9で観て来た『人生はビギナーズ』。ファーストデイだけあって午後2時50分の回が1時の時点でほぼ満席でしたが、無事入場できました。
ストーリー:数ヶ月前、末期ガンの父を看取った38歳独身のアートディレクター(グラフィックデザイナー?)、オリヴァー(ユアン・マクレガー)。その父ハル(クリストファー・プラマー)は、44年間連れ添った妻(オリヴァーの母)の死後、75歳にしてゲイをカミングアウト。その方面のパーティや会合にも積極的に出席、若い恋人アンディも得るなど、新たな人生を満喫しているように見えた。
父の愛犬アーサーを引き取り、淡々と生活しながらも悲しみと喪失感を抱えるオリヴァーの前に、一風変わったフランス人女優アナ(メラニー・ロラン)が現れる。不器用に愛を育んでいく二人だが、彼女もまた心の内に深い悲しみと孤独を抱いていた──
ポスターやパンフレットのデザイン、また予告編などは、この映画を「ハートウォーミングなロマンティックコメディー」または「人生に向かう勇気を与えてくれる映画」として宣伝しているように見受けられますが、これはそういう作品では決してありません。いわゆる「喪失と再生」「再生と愛」がテーマなのでもありません。
この作品が描いているのは「愛」ではなく「孤独」だと思います。
そして、「孤独」と密接に結びついたもう一つのテーマが「アイデンティティー」。つまり「自分」とは何なのか、この世界に存在していていいものなのか、という根源的な疑問のことです。
ハルの人生を振り返るオリヴァーは、隠れゲイだった父と連れ添った母の人生、更にそういう二人から生まれた自らの人生をも振り返らざるを得ません。オリヴァーやアナの世代は、両親の生きた時代と違い、ゲイであるというだけで、またはユダヤ人であるというだけで(オリヴァーの母もアナもユダヤ系です)迫害されることはないけれど、親たちの生き方はどうしてもその子供たちに影響を与え、自らの人生に対する姿勢をより深い所で無意識裡に決定してしまうものなのかも知れません。そう思うとやるせない気持ちになります。
この家族だけでなく、アナもアンディもオリヴァーの友人も、登場人物は皆、自らの存在の拠り所を求め、どうしようもない孤独を抱えて生きています。
その孤独は「愛」を受容することで癒されるかも知れない。が、決して拭い去られることもない。絶望ではないけれど、生きていく限り逃れられるものではない。
──そのことがひしひしと胸に沁み入り、深い痛みを与える作品でした。
マイク・ミルズ監督の自伝的な作品ということなので、このような解釈は「違う」と言われてしまうかも知れませんが、私はそう捉えました。
打ちのめされたような気分で帰途につきましたが、今年にはいって自分が観た映画の中では今のところベストワン作品です。
先頃アカデミー助演男優賞を受賞したプラマーさんも勿論素敵でしたが、ユアンの繊細な演技が素晴らしいと思いました。
『人生はビギナーズ』公式サイト