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『魔笛』(2007)~ジブリがいっぱい!

2008-02-06 14:19:38 | 映画・DVDレビュー
魔笛

ショウゲート

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……ごめんなさい。本当にそうとしか思えなかったんです。ケネス・ブラナー監督で昨年好評を博した映画『魔笛』をDVDで観ての感想。以下原典合わせてネタバレしてます。

時代背景は第一次世界大戦頃のヨーロッパ。と言っても、戦っているのは特定の国同士ではなく「ザラストロ対夜の女王」です。
つまり『ラピュタ』の時代設定が19世紀で『紅の豚』が第二次世界大戦前夜、というのと同程度の意味しかないな──と思って観始めたのが運の尽き(?)でした。
いや、寧ろラストシーンに「これって『もののけ姫』じゃん!」と思った瞬間、全てが腑に落ちた、と言った方がいいかも。
1991年「モーツァルト・イヤー」の江守徹演出版でも、ラストは近未来の荒廃した地球(儀)が、青く美しく甦るシーンで終わっていたし、そういう演出自体は珍しくないのかも知れません。
しかし、ディズニー『ファンタジア2000』の「火の鳥」が、はっきり『もののけ姫』のパク……「引用」であったことからも明らかなように、ジブリ作品と宮崎駿が世界の映像作家に与えた影響は、日本人が考える以上に大きいのではないでしょうか。
『魔笛』に話を戻して、問題のラストから遡って考えると、沢山の飛行機の描き方と言い、思わず「クシャナ殿下(アニメ版『ナウシカ』の)じゃん」と呟いてしまった「戦車に仁王立ちで登場する夜の女王」と言い、更にザラストロ様のコミューン(笑)の描写に到るまで、何もかもクサイです。

うーん……これはやはり意図的な引用もしくは応用と見た方がいいのではないかと思います。
そもそも元々の歌劇『魔笛』自体、少年少女が共に「試練」を乗り越えて、何でかわからないけど世界を救う。救うったら救う!──と、かなり強引な展開を見せる訳で、その強引さは宮崎作品(『未来少年コナン』『ラピュタ』『もののけ』『ハウル』…)と共通するものがあるかも知れません。
話の辻褄が合わないどころか破綻さえしているにも関わらず、音楽(映像)の持つ圧倒的な力と美しさそれ自体で、とにもかくにも「感動」させてしまうところも。
モーツァルトの……と言うかシカネーダーによる原作の「フリーメイソン色」を払拭した後に残るのは、そういうシンプルかつ強引な話の展開であり、同じ構造や、それを成立させる方法論を宮崎駿作品に見出した時、監督は「よし『これ』で行こう」と思いついたのではないかと、私は疑っています。
開巻間もない「序曲」部分の長回しはブラナーらしいと思いましたが、全体を見ると、これとてセルフパロディかも知れないという気もするのです。

その他は、原典の見どころが映画でもやっぱり見どころになっていました。
オペラ史上最高にカッコ悪い登場の仕方をする主人公(タミーノ)とか、パパゲーノとパミーナの二重唱とか、夜の女王のアリアとか、パパゲーノの「恋人か女房がいれば」とか。
一方、映画なりのアレンジが効を奏していたのは、まず「弁者」の存在をなくし(彼のパートはザラストロ自身が歌う)、「オシリスとイシス」の歌詞を平和への祈りに改変するなど、前述したように「フリーメイソン色」を消したことです。
また、夜の女王とザラストロが元は夫婦であり、パミーナは二人の間の娘であるとの暗示により、彼らがそれぞれパミーナを自分の下にとどめておこうとすることにも説得力が出ました。
冒頭の「蛇」を毒ガスにすることで、映画の中でのパパゲーノの「任務」にうまく繋げるなど、細部の改変は気が利いていたと思います。

そんな訳で、肩が凝らず楽しく観られる作品でしたが、やはりどうしても「ジブリ色」が気になってしまい、純粋に楽しむことが出来ませんでした。天下のケネス・ブラナーに対する数々の失礼な発言も含めて、申し訳ありません……

『魔笛』これまでの映像化作品や、舞台公演の映像データについては、下記のサイトが詳しいです。
http://www.ne.jp/asahi/sayuri/home/music/magicdata.htm

自分としては、何回も取り上げているサヴァリッシュ&バイエルンのDVDを、またもお奨めしておきます。望み得る最高のキャスティングとオーソドックスな演出。そしてパパゲーノとパパゲーナの二重唱に「二人の子供」が次々と現れる場面では、楽しく幸せなシーンなのに(だから?)何度観ても滂沱の涙を流してしまうのです。

モーツァルト 歌劇《魔笛》全曲

ユニバーサル ミュージック クラシック

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