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映画・舞台の感想や俳優さん情報等。基本各種メディア込みのレ・ミゼラブル廃。近頃は「ただの日記」多し。

『五線譜のラブレター』(2004)

2008-09-05 23:43:57 | 映画・DVDレビュー
五線譜のラブレター 特別編

20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン

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「夜も昼も」「エニシング・ゴーズ」「ビギン・ザ・ビギン」等、永遠のスタンダード・ナンバーの数々を生んだ作曲家コール・ポーターの半生と、妻リンダとの夫婦愛を描いたラブ・ストーリー。
製作・監督アーウィン・ウィンクラー。主演・ケヴィン・クライン、アシュレイ・ジャド。
はっきり「ミュージカル」とは謳っていないけれど、ミュージカル映画でもあります。作曲者自身の曲に乗せてその半生を綴る──というところは、ヒュー・ジャックマンがピーター・アレンを演じて一世を風靡したステージ・ミュージカル『The Boy From Oz(ボーイ・フロム・オズ)』と似ていますね。
以下ストーリーのネタバレ有りです。

ストーリー:老境を迎えた有名作曲家コール・ポーター(ケヴィン・クライン)の許に、或る日、演出家ゲイブ(ジョナサン・プライス)が訪れる。彼に導かれて、コールは小さな劇場の舞台で演じられる彼自身の半生を見つめ、振り返ることとなった。

1920年代、華やかなパリ社交界の寵児コール・ポーター(生家がお金持ちのお坊ちゃんだったそうです)は、「最も美しい離婚女性」と評判のリンダ(アシュレイ・ジャド)と運命の出会いをする。睦まじくデートを重ねる二人だが、実はコールは同性愛者だった。リンダはそれを受け入れ、二人は結婚、ヴェネチアで新婚生活をスタートさせる。が、その一方でコールは、愛人の男性バレエ・ダンサーとの逢い引きも続けていた……

ヴェネチアの社交界でも人気者の二人だが、コールの才能を生かすため、リンダは夫を有名作曲家のアーヴィング・バーリンと引き合わせ、彼の紹介でコールはアメリカに戻り、ブロードウェイ・ミュージカルを手がけることとなる。
当初は自分の才能に自信のなかったコールだが、ミュージカルは大成功。プロの音楽家として本格的な作曲活動にはいり、ヒットメーカーとして人気を博す。が、ニューヨークでも彼は新たな愛人(男性)と逢瀬を重ねるのだった。
そのさなかにリンダの流産などつらい経験もあり、生活を変えるため、夫婦はハリウッドに拠点を移す。映画界で本意でない仕事もこなす一方、男たちと浮き名を流すこともやめないコール。「ハリウッド」に足をすくわれ、押し流されそうな夫に失望したリンダは、ひとりパリに帰って行く。

(以下、後半ネタバレ→)そんな時、コールは乗馬中の事故により重傷を負い、その傷はそれから生涯彼を苦しめることとなる。車椅子や松葉杖なしでは移動もままならず、ピアノのペダルも踏むことができない。人生にも作曲活動にも絶望しがちな彼を励まし、力づけたのは、彼の許に戻った妻リンダだった。
再び東部で生活を始める二人。彼らの愛情は名曲「ソー・イン・ラブ」を含むミュージカル『キスミー・ケイト』に結実する。
初日の終演後、万雷の歓呼に応えるコール。しかし、その傍らにリンダの姿はない。その頃、彼女自身が不治の病に侵されていたのだ──
(←ここまで)

この映画絡みで、コール・ポーターがゲイだったと知った時には驚きましたが、よく考えると彼の曲って、自ら書いた歌詞もけっこう切なかったりします。「夜も昼も」(ナイト・アンド・デイ)などは、ゲイの片想いの歌と考えると、あの切なさも納得が行くし、或る意味、同じくゲイだった古賀政男の「影を慕いて」と双璧かも知れません。
実際、映画の中ではコールと新人俳優ジャック(後にコールの恋人となる)、男同士のデュエットとして歌われました。なお、この曲のオリジナルの歌い手はフレッド・アステアであり、もちろん彼はゲイではありません。
コールの恋人としては、ヨーロッパ時代につきあっていたディアギレフのバレエ団のダンサー、ボリスくんがいちばん美形でした(笑)。

ともあれ、そういう男をリンダは夫にした訳ですが、夫婦としての彼らの愛情というのは、一般的な色恋や、せまい意味での愛欲とは異なるものだったんでしょうね。二人はセックスレスだったという説もあるようですが、この映画ではそうは描かれていません。
実は妻は夫より8歳年上だったそうで(ケヴィン・クラインとアシュレイ・ジャドではそう見えませんが)、だから彼にとってリンダは、一番の理解者であり、守護者であり、よきマネージャーであり、プロデューサーであり、ミューズであり、姉であり母でもあったのでしょう。
リンダの方は、DVが原因で前の夫と別れたということだし、悪い意味でのマチズモには幻滅していたのかも知れませんが、ゲイの男性と結婚してまで、彼の「才能」とか「将来性」とかいう形のないものに賭けようとする気持ちは、やはり「愛」だったのだと思います。重傷を負った夫に寄り添い、彼のために自分がいなくなった後のパートナー(男性)までセッティングして行くリンダの完璧ぶりは、感動的と言うより「すごい」としか言えません。
夫婦の絆って何だろう?共犯関係か、それとも一般の男女の愛情とは別次元のものなのか──と、柄にもなくしみじみしてしまいました。

主演の二人は、若い頃から老境に到るまでを見事に演じ、特にケヴィン・クラインの老人ぶりは、メイク演技ともに素晴らしいです。幾つかのナンバーは彼自身が歌い、ピアノも本人の演奏によるものだそうです。
その他、ロビー・ウィリアムズ、ナタリー・コール、エルヴィス・コステロといった現代の有名アーティストがコール・ポーター・ナンバーを歌っているのも売り物の一つ。コステロがコール・ポーターを歌うなんて、それだけでびっくりです。でも、シェリル・クロウ歌う『ビギン・ザ・ビギン』短調バージョンは、ちょっと違和感がありました。

あと、せっかくMGM製作なのだから、ミュージカル黄金時代のスタジオの雰囲気も、もう少し見せてほしかった気がしますが、ポーターが大プロデューサー、ルイス・B・メイヤー(MGMの社名の由来となった一人)の前で歌う「ビー・ア・クラウン」のシーンは、『雨に唄えば』を思い出させて、なかなか楽しかったです。
この歌、同作の「メイク・エム・ラフ」に似てるなあと思ったら、なんと「メイク~」の方がパクリだったらしいです(笑)。作曲はアーヴィング・バーリンなんですけどね。そういう事情なので、「ビー・ア・クラウン」のシーンには『雨』パロディの意図もあったかも知れません。

そして、コール・ポーターへの関心以外に自分がこの作品を観た理由の一つは、実は「ジョナサン・プライスが出演している」ということでした。以前にも触れたように、プライス氏はステージミュージカルのスターでもありますから。
『五線譜のラブレター』では、進行役だけで終わるのかな?と思いきや、「フィナーレ」でその歌声を披露してくれました。
コール・ポーターに関わりのあった人たちが次々と登場するこのシーン、ちょっとカーテンコールの趣きもあって楽しかったです。
それにしても、この自称「演出家」は何者なのか?それまで描かれたコール・ポーターの人生にそんな人は出て来なかったけど?と思っていましたが、最後に来て、そういうことかと得心が行きました。ヒントは「ゲイブ」という彼の名前にあります。そして、彼が歌う曲のタイトルは「Blow, Gabriel, Blow」。いやはや本当に様々な姿で地上に顕現しますね、あのヒトは。

なお、この作品には海賊映画俳優としてはもう一人、航海士のギブス君ことケヴィン・マクナリーも出演。パリ時代から晩年までポーター夫妻の家族ぐるみの友人だったジェラルド・マーフィーを好演していました。彼が奥さんや子供たちも含め家族ぐるみで、終生ポーター夫妻の親友であり続けるのも良かったです。

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