
F log
そもそもの出会いが バッハ 「 マタイ受難曲 」 であるので、F 嫁と F の間は宗教音楽なしに語れない。
もっとも聴き方というか取り組み方にはふたりの中でもだいぶ温度差があって、深く没入しがちな F はよくたしなめられる(笑
スターバト・マーテル ( Stabat Mater 「 悲しみの聖母 」 と訳される ) にも思い出がある。
意を決して F が F 嫁を初デートに誘ったのは日フィルの定期演奏会だった。
ジャンルイジ・ジェルメッティ指揮、ロッシーニの 「 スターバト・マーテル 」。 1995 年 11 月のことだ。
「 スターバト・マーテル 」 とは 13 世紀に書かれたラテン語の詩で、キリストが磔刑に処されたときの聖母マリアの悲しみが書かれている。
通常文のミサ曲ほどではないにせよ、こちらも古今東西の作曲家が同じ詩に対して曲をつけている。
「 スターバト・マーテル 」 とググれば、最初にヒットするのはペルゴレージだろう。
夭折した天才の遺作、二重唱が天国的に美しい一曲だ。 ( 個人的にはヤーコプス盤が好き )
ペルゴレージの 「 スターバト・マーテル 」 でさえ作曲当時は 「 オペラ的 」 と評されたそうだが、前述のロッシーニなどはもっと凄い。
終曲の Amen などはジャンルを問わずもっとも劇的な音楽のひとつだろう。
ヴェルディの 「 レクイエム 」 などもそれに相当すると思う。 そういえばヴェルレクはロッシーニ追悼に端を発しているのだったな。
いつものように話が脱線した。
「 スターバト・マーテル 」 の中でも F が好んでいるのは、ドヴォルザーク作曲のものだ。
同曲については Libraria Musica という素晴らしい HP 中の ドヴォルザーク : スターバト・マーテル が詳しい。
著者の方は演奏者でもあるらしく演奏ガイドなどもあったり、成立の経緯から各曲の解説、歌詞、対訳まで詳細を極める。
正直な話、F が駄文を連ねるよりこちらを読んでいただいた方がよいと思う。
最初にこの曲に強く惹かれたのは日フィル定期の数ヶ月前、 N 響アワーで見た、外山雄三さん指揮での演奏だった。
当時の案内役は中村紘子さんだったなぁ。
今回ブログのエントリーとして書かせていただいたのは、新たに入手した音源を聞いて感動したからだ。
あ、書き出しはここからでもよかったのね(爆

左 ・・・・ ドレスデン国立管弦楽団・合唱団 指揮 : ジュゼッペ・シノーポリ
右 ・・・・ 合唱 : アクサントゥス ピアノ : ブリギッテ・エンゲラー 指揮 : ロランス・エキルベイ
2000 年ライブ録音のシノーポリ盤は普段よく聴いている。 ( 他にはセミヨン・ビシュコフ盤を愛聴 )
とくにゆったりとしたテンポで CD 2 枚、90 分近い大曲を聴かせる。
ドヴォルザークのはすべての 「 スターバト・マーテル 」 の中でもっとも長大なのだ。
そういえば先の N 響アワーは抜粋だった。
Antonin Dvorak - Stabat Mater (1/8)
これはシノーポリの演奏ではないが、合唱指導者として名高いロバート・ショウ指揮、アトランタ交響楽団/合唱団の
「 スターバト・マーテル 」第 1 曲冒頭である。 第 1 曲は 20 分近くあるのでふたつに分かれている。
序奏だけでも 3 分を超えるが、全体を俯瞰するとくに美しい部分だ。
言葉が足りないのがもどかしいがその部分だけでもどうぞ!!
合唱のエキスパートらしく、9 曲 10 曲を含む 8/8 で聴かせる Amen のフーガも見事に整理されている。
管弦楽団と合唱団、4 人のソリストが創る敬虔な世界はとても美しく感動的だが、今回新たに聞いた録音には驚かされた。

ロランス・エキルベイ ( 前列中央の女性・アーノンクールに師事したという ) 率いる合唱団 アクサントゥス による演奏だ。
ジャケットにもあるように 1876 年のオリジナル版 というのが最大の違いとなる。
上のリンク Libraria Musica さんによれば、ドヴォルザークが 「 スターバト・マーテル 」 に取り掛かったのが 1876 年。
前年に最初のお子さんを亡くしたのがきっかけといわれるが、基本的スケッチだけで他の仕事の為に棚上げにしてしまう。
しかし翌年続けざまにふたりのお子さんを亡くし、再度この曲に取り組みオーケストレーションを施したという。
アクサントゥスが演奏するのは、オーケストレーション以前のオリジナル版なのだ。
ピアノの伴奏だけで唄われる 「 スターバト・マーテル 」 というのは想像したこともなく、初めて聞いたときは唸った。
幾重にも重なる重厚な管弦楽版の序奏と比べ、ピアノ版は研ぎ澄まされた美だ。
特徴的な上昇していく音階、下降していく音階と合唱の関係がよくわかり素晴らしい。

そして特筆すべきは合唱の美しさ。 40 名弱の少人数の合唱団である。
合唱団は人数が少なければ少ないほど精鋭ぞろいでなくてはならない。
ドヴォルザーク自身が飛躍の地となるロンドンで指揮したときは、合唱団だけで 840 名だったそうである。
これはまったく別物だろう。
テノールから始まる合唱。
6 分経過後のトッティ直後。
6 : 45 からソプラノがやさしく Stabat mater doloro~sa ♪ と歌い出す。 ( ↑ YouTube ロバート・ショウの指揮なら 6 : 43 ~ )
doloro~sa の ro に、アルトの Stabat mater ~ ♪ が重なる瞬間は何度聴いても鳥肌が立つ。
アクサントゥスのは録音もいいのでぜひとも良質の再生装置で聴いてもらいたい。
大袈裟な言い方をすれば魂が浄化される … 気がする。
そしてもうひとつの違いは管弦楽版が 10 曲なのに対し、オリジナル版は 7 曲だということだ。
曲の真ん中部分である第 5 曲 「 合唱 」、 第 6 曲 「 テノール独唱と合唱 」、 第 7 曲 「 合唱 」 がないのだ。
この 3 曲はオーケストレーションに際し追加されたのだな。
どれも素晴らしい曲で惜しい。 特に 5 曲目の合唱は大好きなので残念だ。
ただ良い面もある。
10 曲が 7 曲になったことで、CD 1 枚に収録できることになったのだ!!
そういえば CD の規格策定に尽力された元ソニー会長の大賀典雄さんが先週亡くなられた。
謹んでご冥福をお祈りいたします。
自分だったらヴェルディの 「 レイクエム 」 や、ロッシーニ、ドヴォルザークの 「 スターバト・マーテル 」 を基準にしたいけど…
そしてバッハ 「 マタイ受難曲 」 の 2 枚組化を目指す!!
もっとも大フィリップスを押し切る自信はないが(笑
またまた脱線した。
アクサントゥスの 「 スターバト・マーテル 」 はこちらで少しだけ聞ける。
Accentus, Laurence Equilbey - Dvorák, Stabat Mater (english)
ビデオ冒頭、 Stabat mater dolorosa juxta grucem lacrimosa ~♪ の美しさといったらどうだろう。
juxta の音程が管弦楽版と異なる が理由はわからない。
オーケストレーションの際に改変したのだろうか。
ものすごい気合と貫禄 ( 笑 ) のブリギッテ・エンゲラーによるピアノ。
ロランス・エキルベイの指揮姿もカッコイイ。
この組み合わせで以前に来日したことがあるというのだから当時何をやっていたのだ!! オレの馬鹿!!
レコーディングの風景だろう短い映像からもアクサントゥスのポテンシャルがわかる。
映像の最後でソリストも参加した Amen のフーガがチラッと写るが、まぁ素晴らしいんだこれが。
終曲も短調のまま突っ走るロッシーニと異なり、ドヴォルザークは直前のアカペラ部分から長調に移行する。
そして最後は静謐な祈りで曲を閉じる。
う~んやっぱりイイなこれ。
フォルテピアノによるベートーヴェンのピアノ協奏曲全集 を強烈に推したことがあるが、今回の推薦具合はそれ以上。
アマゾンでは在庫が無いようだが、機会があったらぜひ聴いてもらいたい演奏だ。
管弦楽版を聴いてからならより楽しめること請け合いである。
あと エキルベイさん 、また来日してね!!

トップ写真はミケランジェロ先生の 「 サン・ピエトロのピエタ 」 を使わせていただきました。
マリアがどちらかはさて置いて…
これがひとつの大理石を削って造られているとは。 現物を触ってみるまで信じないぞ(笑
私はプラスチックにヤスリをかけ、サーフェイサーで整えても、あれほどの質感を出せません。
サン・ピエトロ大聖堂は生きている間にもう一度行きたい場所の一つです。
追伸:映画アバターのラスト近く、ネイティリがジェイクを抱きかかえるシーンは
ピエタ像がモチーフになっているとか。
いや~記事中から脱線だらけですのでコメント頂戴できただけでありがたいです。
「悲しみの聖母」という曲なので、まっさきにうかんだのがサン・ピエトロのピエタでした。
仰る通り奇跡的な作品で驚くしかありませんね。
肉体の表現もさることながら、執拗なまでの布地のシワにビックリです。
現在は防弾ガラスの中ということでもちろん触れませんが見てみたいですね。
アバターは一度だけ流し見しました。
そんなシーンがあるとは気づきませんで。
もう一度見てみたくなりますね。