F log
Standards, Vol.9
Standards, Vol.1 Who Can I Turn To?
Standards, Vol.2 The Masquerade Is Over
Standards, Vol.3 I Had The Craziest Dream
Standards, Vol.4 Something I Dreamed Last Night
Standards, Vol.5 All The Things You Are
Standards, Vol.6 Laura
Standards, Vol.7 You Don't Know What Love Is
Standards, Vol.8 Easy To Love
5 年ぶりの不定期連載再開です。
いえたいした記事ではないんですよ。
F が好きなジャズスタンダードを唄と演奏に分けてつらつら書き綴る超個人的なつぶやきですから。
5 年の間の技術革新wでブログに YouTube の動画を貼り付けることが出来るようになりました。
これまでだと手持ちのレコード/CD のジャケット写真を撮って文章で触れているだけですからね。
そうそう、Vol.8 までは「自己の所有している音源の中で」という縛りを課していました。
ネット上に無数に存在する音源が使えるとなれば、それこそ無限地獄に陥りそうですが選択肢が広がるのよいことです。
ミュージシャンは重ならないようしていましたが、F の好みだけの狭い世界ですからこちらも気にしないことにしました。
第 9 回は 1932 年のミュージカル映画「今晩(は)愛して頂戴ナ」 (Love Me Tonight) の挿入歌である
Isn't It Romantic? (ロマンチックじゃない?) です。
名曲製造機ロジャーズ&ハートによるロマンティックな曲は、1954 年にオードリー・ヘップバーン主演「麗しのサブリナ」で
やはり挿入歌として使われメジャーとなりました。
ジャズミュージシャンにも多数取り上げられており、唄、演奏ともに名演がたくさん存在します。
Isn't It Romantic? ( Rodgers / Hart 1932 )
I've never met you, yet never doubt dear
I can't forget you
I thought you have, dear
I know your profile and I know the way you kiss
Just the thing I miss
On a night like this
If dreams are made of imagination
I'm not afraid of my own creation
With all my heart my heart is here for you to take
Why should I quake
I'm not awake
Isn't it romantic?
Music in the night, a dream that can be heard.
Isn't it romantic?
Moving shadows write the oldest magic word.
I hear the breezes playing in the trees above
While all the world is saying you were meant for love.
Isn't it romantic?
Merely to be young on such a night as this?
Isn't it romantic?
Every note that's sung is like a lover's kiss.
Sweet symbols in the moonlight,
Do you mean that I will fall in love per chance?
Isn't it romance?
まずは唄から…
意外なことに男性ですw
F が男性ジャズシンガーの中で最も好きな メル・トーメ (1925-1999) による
1955 年録音「It's A Blue World」から同曲です。
個人的にはこの曲を唄うならヴァース付きでなければと思ってます。
すぐに “Isn't It Romantic?~”と歌い出す録音が結構多いです。
上のリンクでいえば 01:23 までがヴァースですね。
美しいでしょう?
トーメの声も素晴らしいですが、バックのオーケストラがまたいいんですわ。
ストリングスとホーンのバランスも絶妙。
特に好きなのが、02:29 からのセカンドコーラスでトーメの直後に入るフレンチホルンの合いの手です。
いや~聴き入ってしまいます。
エンディングの “ Isn't it romance? ” もトーメの真骨頂という気がします。
ただこの人、メロウなだけじゃなくてアップテンポな曲だとドカーンとブチかますんですよw
それはまた別の機会に。
続いて演奏は…
最初に演奏で好きになったのはやはり ビル・エヴァンス (1929-1980)です。
ヴァース抜きでイントロもなし、いきなりテーマから弾き始めます。
テーマのメロディにつけたアクセントが好きです。
ジャズピアノ・トリオで演るこの曲の王道ともいうべきリラックスしたテンポのライブ録音(1963)です。
エヴァンスの演奏は自分の中で長らくスタンダードでしたが、あるとき次の演奏を聴いてのけぞりました。
世に天才と呼ばれる方あれど アート・テイタム (1909-1956) 以上のピアニストはそういないのでは。
あれだけ好きだったエバンスがなんだか普通の演奏に聴こえます。
「The Art Tatum Trio」からの同曲の魅力はまず音色ですね。
50 年台のモノラル録音なので音質的には最低限ですが、泉の様に湧きだす玉を転がすが如きフレーズが美しいです。
手数は相当多いのにうるさく感じられません。
後年のキース・ジャレットでもみられますが、テーマの最後をイントロとして頭に持ってくる というのが大好物なんですよ!!
通常は、テーマ~インプロビゼーション~テーマ で曲が構成されることが多いのですが、テイタムのこの演奏はテーマを
3 回続けて弾きます。
真中のテーマ部分 (01:27~02:37) がものすごく、テーマの曲想を残しつつ自由に飛翔するフレーズの宝庫がたまりません。
これホントにカッコイイですよ。 (もしもピアノが弾けたなら) こんなピアノが弾いてみたい。
そして 3 回目のテーマ (02:38~) の力の抜け加減が最高にイかしてます。
リラックスしてると思わせて、エンディング (03:34~) ではイントロに使ったのと同じとは思えないほど強いアタックで歌います。
と思ったら最後の最後は絶妙にその力が逃がされ、粋に演奏を締めくくります。
う~む、あらためて天才の呼称がふさわしいミュージシャンです。
上記の録音は所持していましたが、テイタムを検索していて次の演奏に行き当たりました。
アート・テイタムのソロによる Isn't It Romantic? (1953録音) です。
これ、ものすごい演奏ですよ。
トリオの録音がテイタムによるスタンダードだとすれば、このソロはまさしく自由自在に飛び回るフリージャズです。
天才テイタムには伴奏者すら必要ないのでしょうか。
ちょっと不思議な短いイントロがミステリアスです。
2 回目のテーマ (01:15~) で奏でられるちょっと崩したテーマ部分の追い立てるような左手が大好きです。
そしてインテンポになってから (02:11~) はまるでベースとドラムが存在しているかのようなリズミックで厚みのある音です。
カッコイイなぁ~
ソロでもトリオでも取り上げたということは、この Isn't It Romantic? はお気に入りだったのでしょう。
映像がほとんど残っていないのは残念ですが、モノラルとはいえ素晴らしい演奏を聴くことができて幸せです。
全盲に近い視覚障害者であったというアート・テイタム。
彼のヴィルトゥオーゾぶりは数々の伝説を残しています。
その大仏様のような容姿の写真を眺めつつ、残された録音を大切に聴きたいと思いました。
5 年分のエネルギーで長くなってしまいました。
じつは選考に苦渋して連載を停滞させていたのはこの曲ではありません。
Vol.10 以降にあらためて取り上げたいと思います。