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NPO法人POSSE(ポッセ) blog

安里和晃「EPAは介護・看護現場を変えたか」(『POSSE』vol.16)書評

『POSSE vol.16』(特集「「ブラック」化する介護・保育?」)が発行されました!今回はそのPOSSE最新号から、京都大学大学院准教授・安里和晃さんのインタビュー「EPAは介護・看護現場を変えたか」を紹介します。

「インドネシア人看護士「日本人は時間を守りません。遅刻に対しては大変厳しいのに、仕事の終了の時間は守ったことがありません」(『POSSE』vol.16、安里和晃インタビュー「EPAは介護・看護現場を変えたか」より)」

というツイートがインターネットで話題になっています(「看護士」は正確には「看護師」です)。この引用のもととなったインタビューでは、もともとどのようなことが語られていたのでしょうか。

 外国からの看護福祉士や介護士の受け入れは、日本とフィリピン間のEPA(経済連携協定 Economic Partnership Agreement)に端を発し、2008年から来日しています。
 初年度はインドネシアから208名が来日しました。この当時は、文化の違いによるコミュニケーションはどうなるのか、といった表層的なこともふくめ、多く報道されていたことをご記憶の方も多いと思います。
 その後もインドネシア、フィリピンから通算約1500名が来日しました。その人たちが実際どういう仕事をしていて、今どういう状況にあるか、という情報はあまり知られていません。
 移民を研究テーマにされている安里さんは、当時からこの問題に着目し、「EPA看護師候補者に関する労働条件と二重労働市場形成」(『労働再審2』収録、岩波書店、2010年)等を発表されています。
 今回のインタビューでは、雑誌の特集「「ブラック」化する介護・保育?」の一端として、そうした受け入れの開始状況から来日する人材の背景、受け入れによる問題点などをお伺いしました。そのなかの論点のひとつが、冒頭のツイートで紹介されていたものです。
 サービス残業や、労働時間の賃金換算など、日本の会社の多くでは常識的に行われながら、労働基準法に違反する行為に対して、冒頭のツイートで紹介したような意見がインドネシア人看護師からでたことがあるそうです。
 もし、自分が、言葉も苦労して身に着けた外国で、「この国の習慣だから」と、契約にも明記されていない、それどころか法律に明確に違反する不利益なことを提示されたらどう感じるでしょうか。
 安里さんは「海外からの人材を活用するということは雇用慣行も見直さなければならないことを理解すべきでしょう」と言われています。たとえば、労働時間以外にも、労働の内容が契約時に「白紙」のままであり、何を雇用者から命令されるかわからないという日本型雇用慣行は、これまで国内では常識として通用してきました。しかし、「白紙」の契約は、どんな命令でも、会社に従うならば、一生会社が面倒をみてくれるという「終身雇用」とセットになったものであり、現在、それが日本国内でも崩れつつある一方で、その矛盾がますます表面化しています。安里さんもこの慣行を、外国人にとって、日本での就労の不安を感じさせるものと指摘されています。
外国から人材の受け入れを進めていくのだとすれば、これまでも問題を孕んでいた日本型雇用の見直しは、ますます迫られるでしょう。

 ほかにも、日本の労働条件に現在影響はなく、「外国人労働者イコール安かろう悪かろう」のイメージは制度的につくられるものである、ということを実際の制度を踏まえて解説されていること、今後多様性が求められる日本の看護・介護労働市場への提言、アジア全体に及ぼす影響の問題点の指摘など、重要な論点が多くだされた内容の濃い記事になっています。ぜひご覧ください。

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