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NPO法人POSSE(ポッセ) blog

9/19(木) 「家事労働者」過労死裁判の歴史的逆転勝訴  -高裁判決の傍聴とイベント開催が行われました-

9/19(木) 「家事労働者」過労死裁判の歴史的逆転勝訴  -高裁判決の傍聴とイベント開催が行われました-

🔸「第一審」判決:週7日間1日24時間住み込みで働いたにも関わらず、過労死認定されず

Aさんは、週7日間、総労働時間105時間、時間外労働65時間、睡眠の確保も困難な状況下で介護と家事を行い、過労で亡くなりました。ご遺族は労災を申請しましたが、却下されました。その理由は、Aさんが介護の仕事は仲介会社X社と雇用契約を結んでいたものの、家事については書類上、個人家庭と直接契約していたため、第一審では「Aさんは家庭に直接雇われた家政婦であり、労働基準法116条2項に規定される家事使用人に該当するため、労働者ではない。よって、労災の対象外」と判断されたためです。この裁判では、契約の形式のみが重視され、実際には介護と家事が切り離せない関係であったことは全く考慮されませんでした。その結果、労災と認められたのは仲介会社との雇用契約で行っていた「介護業務」のみで、1日4時間半の労働と見なされ、「過重労働ではない」と結論付けられました。
この裁判に対しての控訴審が9月19日(木)に東京高等裁判所で行われました。

🔸歴史的な逆転勝訴: Aさんは家事労働者であり、労災の対象である。死亡要因について業務起因性も認める

高裁判決は、実態に照らし合わせて家事と介護部分は一体的に行なっており、会社との間で家事業務も含めて雇用契約があったとし、不支給処分を違法としました。
判決が下された瞬間、裁判所内は歴史的な勝訴に緊張と驚きが広がりました。
夫は「妻を労働者として認めてもらいたいという一点で裁判を戦ってきた。働いている多くの人を救う判決だと思う」と弁護士やPOSSEをはじめとする支援者への感謝の意と共に語りました。そして、「妻は生前、介護の仕事には自己犠牲が必要だとよく話していた。彼女は聖書を大切にし、その精神を信じていた。今、そんな妻に伝えたい。聖書は君を見捨てなかったよ」と続けました。
指宿弁護士は、「個人家庭で働く家政婦に労基法を適用して過労死を認定した初めての判決ではないか。正しく中身のある判決だ」と評価しました。

🔸本判決が社会に与える影響
少子高齢化の進展や共働き世帯の増加に伴い、近年では家庭内ケア職の需要が高まっています。しかし、現状日本には「労働基準法116条2項に基づき、家事使用人には労働基準法が適用されない」という差別的な規定が依然として存在しています。さらに、2011年に採択されたILO「家事労働者の適切な仕事に関する条約(第189号条約)」も、日本はまだ批准していません。家庭内ケア職の需要が増加しているにもかかわらず、その労働者の権利保障が十分とは言えない状況です。

今回の判決は、このような日本の現状に疑問を投げかけるものとなるでしょう。実際、2024年2月には厚生労働省が「家事使用人の雇用ガイドライン」を策定し、2024年6月には厚生労働省が家事代行などを担う労働者を保護するために「労働基準法を適用する方向で具体的な施策を検討すべき」との考えを示しています。
遺族の代理人の明石弁護士は、脱法スキームを用いている家政婦紹介所は他にもあるはずと指摘した上で、「この判決をスタート地点にして、実態を調査して正していく必要がある。政治が役割を果たし、悲劇が二度と生まれないようにすることが重要だ。」と述べました。

🔸法学部大学3年生の筆者がこれまでの取り組みを振り返り、感じること

私は、高裁判決が下されるまでの間、学生ボランティアとして様々なイベントやオンライン署名にも参加し、裁判の傍聴支援にも駆けつけました。
自身が法学部で裁判を『ケース』として学ぶ日常の中で、この経験は極めて貴重かつ衝撃的でした。なぜなら、これまで裁判例を学問的に扱ってきた私にとって、実際にご遺族の思いや、裁判に向けて奮闘する弁護士、支援団体の存在を直に感じることは、できていなかったためです。

特に心に残ったのは、ご遺族の方が「働いている多くの人を救う判決だと思う」と述べられたことです。ご遺族の方は、膨大な費用と時間を投じる中で、多くの犠牲を払いつつ闘う道を選びました。その姿を間近で拝見し、「想像を超える覚悟」を強く感じました。この判決が多くの人々を救うものであることは、ご遺族の言葉が示す通りですが、その背後には、法廷内の単なる法律の解釈やケースを超え、多くの人々の協力と努力、さらにはご遺族の強い意志があったことを思い起こさせます。実際にchange.orgでのオンライン署名については全国から37,182筆が集まっています。

このようなご遺族の姿、大きな社会の変化を初めて目の当たりにし、法律の机上の空論を超え、当事者の思いに基づいた支援が真に重要であると実感しました。社会に出て働く道を今後歩む法学部生として、今回の経験は深く心に刻まれ、私の学びや社会貢献に大きな影響を与えることでしょう。

🔸家事労働裁判についてのPOSSEによるこれまでの支援

①弁護士の紹介:過労死問題に詳しい指宿弁護士の紹介を行いました。
②記者会見、裁判の進捗発信:提訴や判決のタイミングで記者会見を行い、裁判の進捗をブログ等でも随時発信を行うことで、事件への注目を集めてきました。
③報告集会、イベント開催:現在家事労働者として働いている方々のインタビュー取材を行ったり、家事労働について研究を行う専門家を招いたイベントなどを行うことで、裁判に向けての事件の注目を集めました。
④裁判所傍聴支援:POSSEのボランティア、労働組合の組合員やネットを活用し、傍聴支援を行いました。第一回控訴審では40人ほどが集まりました。第二回控訴審では50人超が集まりました。
⑤署名集め:オンライン署名サイトを募り、3万7000筆以上の署名を集めました。署名を厚生労働省の担当者に提出し、労働基準法116条2項(家事使用人に関わる法律)に関するヒアリングを行いました。

このように支援団体と共に法廷外でも戦うことは非常に重要です。
社会の流れや世論により法廷内の判決も大いに左右されます。

【ぜひPOSSEにご相談を】

NPO法人POSSE(www.npoposse.jp)では、過労死問題に詳しい専門的なスタッフが過労死・ハラスメント自死の相談を受け付けています。相談料は無料で、秘密厳守で行います。弁護士の紹介なども行っておりますので、少しでも気になることがあれば、ぜひご相談ください。

電話:03-6699-9359(平日17:00-21:00 / 日祝13:00-17:00 水曜・土曜定休)

メール:soudan@npoposse.jp(24時間受け付けています)

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