サブカル系雑誌での評論などでも有名な毛利嘉孝さん(東京藝術大学教員)の新刊が出ました!
その名も『ポピュラー音楽と資本主義』。
さて、音楽とその社会的背景といった場合、ありがちなのが、マニアックなアンダーグラウンドの音楽をマニアックに紹介するケースではないでしょうか。
それはそれで良いのですが、メジャーな音楽には、多くの人の目に届き、かつ親しみやすいという大衆性があります。
本作は、そうしたメジャーな文化における社会運動的な試みの基本的な知識を紹介してくれる、ありそうでなかなかない親切な入門書です。
なかでも私が今回紹介したいのは、メインストリームの文化におけるアートの社会運動的な実践の具体例についてです。
以下、一部を紹介しながら感想を書いてみたいと思います(ネタバレありです)。
★メジャーな文化における社会運動的な試み
~ウォーホル、クラフトワーク、ピストルズ、そしてブラック・ミュージック~
一般的にだいたい1960年代末~70年代以降、ロックはそれまでのラディカルさを失ったと言われます。
確かに、ハードロック/ヘビーメタル、プログレッシヴ・ロックなどを中心に、スーパーグループが相次いで登場し、メガヒットこそ連発されます。
一方で、ロックは既存の社会に対する若者の新たなライフスタイルを提示する役目を失い、短いサイクルで大量生産・大量消費される商品、ファッションとして、ロック産業に取り込まれてしまったのです。
しかし、そうしたロックの衰退のなかで、単なる商業主義に取り込まれないような挑戦を続けてきたアーティストたちもいます。
例えば、ニューヨークでは、60年代末、ポップを戦術として社会に対してシニカルな眼差しを表現していたアンディー・ウォーホルが有名です。
ポップアーティストの彼は、音楽的には、かのヴェルヴェット・アンダーグラウンドをプロデュースしました。
以降、パンク・ロックやグランジ、オルタナ、果ては最近のストロークスにまで影響を与えるNYアンダーグラウンドシーンの象徴的存在です。
ウォーホルは、アートが資本主義に取り込まれることで、大量生産されたアートが安価に、一般家庭にも平等に手に入ることで、アートの高尚さの転覆を目指していたと言えます。
他にも、70年代、ロックの見せかけの怒りを嘲笑うかのように、無機的で機械的で非人間的な音楽を見せたクラフトワーク。
コンピュータや電卓で演奏したり、表情を変えることなくロボットのようにボイスチェンジャーの機械音を通して歌うなど、その既存の音楽との断絶性、独特の世界観は、後のテクノからヒップホップなどダンス・カルチャーにまで影響を与えます。
また、過激なパフォーマンスで、イギリス王室批判のアンセム「ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン」をチャートで実質1位(検閲でチャート表での表記が黒塗りになったのは有名な話)にまで送り込んだセックス・ピストルズ。言うまでもなく、以降のパンク・ロックに圧倒的な影響を与えています。
彼らは、そのビジョンやコンセプトを表現するのに、小難しい手法をとるのではなく、ポピュラー音楽というメジャーな戦場を選んだのでした。そして商業主義を逆手に取り、大成功を収めたのです。
更に、本著ではアメリカのブラック・ミュージックにおけるポップ・カルチャーとの葛藤についても触れられています。
80年代くらいまで、黒人がどれだけオリジナルな曲を作っても、そもそもそうした作品が白人中心のマスメディアで取り上げられることは、なかなかありませんでしたし、白人経営者によって、アーティストが不利な契約を結ばされることも多発しました。原因は人種差別です。
逆に、ジャズやブルースなどの黒人の音楽を、ローリング・ストーンズ、エリック・クラプトンなど白人のミュージシャンが演奏し、換骨奪胎することで、彼らはヒットを飛ばしていきます。
さらには、こうした白人によるコピーこそが、新たな技術革新を取り込んだ「オリジナル」であるかのように評価されていきます。
こうした経済的、文化的な二重の搾取にブラック・ミュージックは晒されており、自分たちの表現をストレートに社会に伝えることすら困難だったのです。
その中で、黒人アーティストたちもポピュラー音楽に参入するための戦略を立てます。
例えば、モータウン・レコードやジェームズ・ブラウンのように、黒人のレーベルやラジオ局を立ち上げることで、白人から経済的に自立する試みです。
一方で、マイケル・ジャクソンのように、商品化の徹底によって、白人中心のMTVなどのメディアでも十分ビジネスとして通用する作品を送り出すなどの戦略もなされてきました。もちろん、そうした試みは、ブラック・ミュージック本来の良さを捨て去ったものとして批判されることは少なくありません。
そこで、サム・クックのように、白人社会向けに商品として「売れる」歌を出す傍ら、黒人コミュニティでのライヴでは、そのソウルを失わないパフォーマンスを続けた人たちもいたのでした。
このように、ブラック・ミュージックにおいて、メインストリームで音楽をヒットさせること自体が、人種的な闘いの場でもあったのです。
…以上、本著の一部をご紹介しました。
この本では、他にもDJカルチャーやJ-POPの分析など、多岐に渡る論考がおさめられており、いずれもなかなか興味深い内容です。
★サブカルチャー・エリートではなく
~開かれた文化の媒介をするために~
ところで、「通」な方からには、「知ってるよそんなこと。何をいまさら…」と思われる向きもあるかもしれません。
しかし、メジャーというフィールドでのアピールを重視したポップの戦略と同様に、
今の日本において、毛利さんがこういう入門的な本を書いたこと自体が重要なことでしょう。
逆に毛利さんは、「通」好みの音楽のみを評価する姿勢を「サブカルチャーエリート主義」として批判的に紹介しています。
つまり、メインストリームで売れている音楽は、「完全に商品化された資本主義の残骸」であり、「世間の流行から外れた音楽」のみが、資本主義に包摂されないピュアな部分を保持しているという主張です。
しかも、そこで言及される音楽は、誰にでも受け容れられるものではなく、ある特別な人だけが「理解」できるものなのです。
確かに、このサブカルチャー紹介における「マッチョなヒロイズム」は、自分にも思い当たる節が…。
また、こうした文化と社会運動の紹介をテーマにしている雑誌などを見ても、同じことは大いに言える気がします。
「理解」するには、数々の専門的な知識を知らなければいけないのに、解説もないままのわかりにくい文章。
凝ってはいるけれど取っつきにくいデザイン。
そうした姿勢が、初めてそうした文化に接する人を、安易に近づけないような閉鎖的な雰囲気を醸し出してしまうのではないでしょうか。
確かに、アンダーグラウンドな音楽の持つ純粋な力は計り知れないものがあります。
だからこそ、メインとアンダーグラウンドをつなぐような音楽や、解説、クラブやライブハウスの存在が重要になってくるのでしょう。
そんなわけで、本著は入門書として、誰かがきっちり書いてそうで書いていない基本情報を押さえており、音楽のことをよく知らないひとにこそ、読んで貰いたい一冊です。
ついでに宣伝ですが、27日のクラブイベントも、普段クラブに来ないような人にもクラブに親しんでもらおうという企画です。ゲストも毛利さんですし、ぜひクラブの入門として足を運んで頂きたいと思います。
(るヒ)
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