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NPO法人POSSE(ポッセ) blog

書評:『若者たちに「住まい」を!』 雇用促進住宅の問題を考えるために

 
 本記事は、先日発売された『若者たちに「住まい」を!』の書評です。本書は、日本の住宅政策を考える上での論点を挙げ、展望を示してくれるものです。この間の金融危機にともなう「派遣切り」に対処するため、政府は緊急的に雇用促進住宅の活用政策を打ち出しましたが、この問題を考える上でも、非常に重要な指摘をしています。

 これまで日本では、正社員として就職し、雇用と所得を安定させ、結婚して住まいを確保するというライフコースが標準的とされてきました。そのため、住宅政策も、公庫融資を経由して、中間層の住宅購入を支援するという持家取得の推進が中心であり、また、その持家取得も、多くは政府による住宅政策ではなく、企業の援助の下になされてきました。反対に、単身者や低所得者に対する政策支援は、微量または皆無でした。

 このような住宅政策の未整備は、先進国においては非常に特異な例であることを、本書は指摘しています。たとえば、ヨーロッパのいくつかの国では、住宅政策が積極的に行われています。イギリスでは、若年世帯(世帯主年齢25-34歳)の24%が、フランスでは32%が、公的住宅手当を受け取っているというデータが示されています。日本については比較できるデータがありませんが、公的住宅手当といえるものは、生活保護における住宅扶助しかなく、その需給率は非常に低いものです。
 
 住宅政策が持家取得の推進に特化し、賃貸住宅の条件が劣悪な国では、若年層の世帯形成のための住宅コストが大きく、そのことがむしろ、「自立」や結婚・出産などを妨げているとされます。若者がいつまでも親元に居座る「パラサイトシングル」なる言説が一時流行しましたが、むしろ、「自立」を保障するための物質的条件がないことこそが、論じるべき課題なのだと、本書は喝破しています。

 こうした日本の公的住宅支援政策の欠如が、非正規雇用の拡大という雇用状況の変容とあいまって、ネットカフェ難民やマック難民といった若年ホームレスが生まれる背景になってきました。そして現在、金融危機にともなう大量の「派遣切り」によって、膨大な数の人が、住居を確保できず、路頭に迷うのではないかと懸念されています。「自立」をめぐる問題だけではなく、生存の条件である住居をいかに保障するかが急務となっています。

 このような状況の中で、政府も、雇用促進住宅への緊急避難的入居を打ち出し、実施しました。「派遣切り:住居確保の相談1267件 ハローワーク窓口、1日で」 (毎日新聞 2008年12月16日 東京夕刊)

 本書の巻末でも、若者の住居問題についての提言が掲載されており、そこでも、雇用促進住宅の積極活用については言及されています。しかし、本書では、それのみにとどまらず、公営住宅・公団住宅の活用や、民間貸付住宅による居住支援、若者向けの家賃補助制度などが挙げられています。一時的な救済措置ではなく、住宅政策の抜本的見直しについての論議がなされているのが本書の特徴です。
 
 ハウジングプアという言葉が生まれるように、日本の労働市場の変容、経済不況の深刻化により、住居問題が非常に重要な政治課題になっています。この問題を、単なる対処療法的に論じるのではなく、日本の社会福祉政策の問題として考える上で、本書は欠くことのできない基本的視点を提示しています。

コメント一覧

Unknown
ヨーロッパの公的住宅手当の取得率など、具体的なデータを手軽に見れるのがよいですね。
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