著者、出版社：NHKスペシャル『ワーキングプア』取材班・編（ポプラ社）
２００６年の７月と１２月にＮＨＫスペシャルにおいてＴＶ放送され、大きな反響を呼んだ『ワーキングプア』。本書はそれを単行本化したものです。ワーキングプアとは、正社員並みに働いても、生活が厳しく、時には生活保護の水準以下の収入しかない、働く貧困層のことで、新しい形の貧困として注目されています。
本書は、全国に渡る丁寧な取材で、様々な理由でワーキングプアとなってしまった人々のリアルな実態を浮かび上がらせています。非正規雇用を繰返し、都心でホームレス状態の生活をしている若者。離婚してから毎日４～５時間の睡眠で、二人の子供を育てるシングルマザー。年金だけでは暮らしていけず、空き缶拾いで日々を送るお年寄り。バイトを三つ掛け持ちして三人の子供を育てている男性。
ワーキングプアになってしまった理由は様々ですが、共通しているのは、自助努力で何とかなるような問題ではない、ということです。本書に出てくる人々は、すでに限界まで働いています。働いて、働いて、それでもまっとうな生活が営めないのです。その意味で本書全体が、自己責任論への強烈な反証となっています。
また、本書が浮かび上がらせるのは、単にセーフティーネットを充実させればこの問題も解決するのではない、という点です。働いていても、その仕事を誇りに思えず、自分を取替え可能な部品のように感じさせてしまう、現在の労働のあり方自体が問われているのです。
働くことの尊厳を捉えなおし、生きていくことができないような日本の社会保障制度全体の改革を考えるとき、単なる机上の空論に陥らないためにも、本書の与える視座は重要でしょう。現在の日本に新しい貧困が広がっていることは、聞いたことがあっても、その実態を見ることは難しい。ともすれば、見ることのできない厳しい現実を、顕在化し、見えるものにしたこの本の意義は極めて高いでしょう。
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