目次
クラウボは、このパルスという港町で産まれて、ここから外に出たことがなかった。漁業を営んでいた親の仕事に共感を覚えることが出来ず、ロクに勉強もせずに悪い仲間と付き合うようになった。
その仲間の内の1人が用心棒風情の仕事をしていたことがきっかけで16歳からこの世界に足を踏み入れることになった。
…といっても世界を知らないクラウボにとって自分自身は大した存在ではないかもしれない。だが、それでもいいと彼は思った。ここで恐れられる存在が気持ちいいし、まるで自分が一番になったような気さえ起こさせる。
それから、6年の月日が経った。
22歳になったクラウボは町の中で最も恐れられている人間なっていた。町のゴタゴタは全てクラウボ絡みの事件だし、ゴロツキからは慕われるようになった。
バリュアス国の方に取り入ったのもクラウボだった。何をしているのかは詳しくはわからないが、金になる。定期的に人を誘拐してバリュアス国へ連れて行く仕事も引き受けていた。
今回も運良く大人しそうな女の子が馬に乗っていた。しかも、その一行の一番後ろときている。用心が甘いとクラウボは思った。長年の経験でどんな馬だろうと、警戒されずに音も立てず連れてくる技術を身につけていた。
当然旅の一行は手がかりを捜しにこの町へ来るはずだ。もう遅い。既にバリュアス国の船の便は出港したのだ。馬も女もその船に乗っている。
しかし、クラウボは不安になる。女の子を捜しにきたこの一行を脅して町から追い出すつもりだったのだが、全く引かない一行に圧倒されている。それも、堂々と意見を言っているのは子供なのだ。
クラウボは世界の広さを実感し始めたと同時に手を出してはいけないものに手を出したのではと焦りを感じた。
「ねえ、おじちゃん、早く教えてよ」
ボズが再度クラウボに聞いた。バリュアス国行きの船を教えてくれと言うのだ。
この状況で簡単に言えることが不思議でたまらない。余裕を出しているのか、もしくはただの馬鹿なのか。
舐められては下の者に示しがつかない。クラウボは叫んだ。
「馬鹿か、クソガキ。はいそうですかって教えられるわけないだろうが!」
「でも、あのおじいちゃんから情報を聞いた途端、こうなるってことはさぁ~」
クラウボの怒鳴り声に全く耳を貸さずにボズは喋り続けた。
「そうですね。情報は嘘じゃないってことですね。間違いなくアリシェさんはバリュアス国へ連れて行かれた…」
今度は黒い衣を着ている少年ルシアがボズの言葉に続いた。何かを悟ったような物言いである。
こいつもか…とクラウボは思った。
「だからそれがどうした?あ?お前らここから生きて通れると思うの……」
クラウボが言いかけた瞬間、仲間の男の腕があっさりと飛んだ。
「ぎゃあああああああ」
「なっ、なんだ?どうした?」
慌てるクラウボにもう1人の子供、ステューが近寄ってきた。驚くことにその子は片腕でしかも残っている腕が刃に変化している。先程仲間の腕を切り飛ばしたのは、この子供だった。クラウボは青ざめた。
ステューは明らかに怒っていた。例え短い期間だったとはいえ、一緒に旅をしていた者が突然いなくなったのだ。それも、理不尽に見知らぬ国へ連れて行かれた。怒らない理由などない。感情的にステューは攻撃を仕掛けたのだ。
「…バリュアス国への船を出せ。さもないと…ここにいる全員皆殺しだ」
その本気の目を見てクラウボの背筋は凍りついた。自分達がアリシェを誘拐したなどと口が裂けても言えるわけがない。それは自分の死を告白しているようなものだ。
オークランドが腕を切られて泣き叫んでいる男の下へ駆け寄って血止めの治療を始めた。
「すみません。でも、今は本当に切羽詰っているんです。教えてくれませんか?」
オークランドの優しい言葉に若干の癒しを感じたものの、最早断ることができない。
「…わ…わかった…」
クラウボは命令して小さな船を用意させた。一刻も早くこの状態から逃げ出した一心だった。
用意出来た船に、ボズやルシアが乗り込んでいく。
グリークスがクラウボにいきなり話しかけた。
「バリュアス国まで頼むぞ」
そう言ってグリークスは先に乗り込んだ。
「…は?何言ってやがる!」
クラウボは聞き間違えたかと思ったが、間違いではなかった。バリュアス国まで頼むと言われたのだ。それはつまり船に同行してバリュアス国までの航路を依頼されたようなものだった。
「俺達はバリュアス国までの道が正確にわからない。だから頼んでいるんだ。ちゃんと金は払う」
グリークスは当たり前の口調で言った。
クラウボは船の運転が出来ないわけではない。親が漁師であったため船の運転技術は嫌でも知っていた。
「ちょっ…なんで俺が…」
抵抗しかけたクラウボだったが、すぐに諦めた。後ろでステューが目を光らせていたからだ。断ればあっという間に切られそうだ。こんな形で初めて町から出ることになるとは思いもしなかった。
観念して船に乗り込んだクラウボを仲間達は哀れな目で見送っていた。
全員が乗り込み、船はバリュアス国を目指して出港した。
「待ってろよ~!アリシェ~!」
ボズが大きな声で叫んだ。
予想外の展開で一行はバリュアス国へ向かう。
この先にとてつもない暗黒の事態が待ち受けていることも知らずに。
~ 第1章 美食の国へ 終 ~ 第2章へつづく ~
登録してしまったのですけど。よろしくです。
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クラウボは、このパルスという港町で産まれて、ここから外に出たことがなかった。漁業を営んでいた親の仕事に共感を覚えることが出来ず、ロクに勉強もせずに悪い仲間と付き合うようになった。
その仲間の内の1人が用心棒風情の仕事をしていたことがきっかけで16歳からこの世界に足を踏み入れることになった。
…といっても世界を知らないクラウボにとって自分自身は大した存在ではないかもしれない。だが、それでもいいと彼は思った。ここで恐れられる存在が気持ちいいし、まるで自分が一番になったような気さえ起こさせる。
それから、6年の月日が経った。
22歳になったクラウボは町の中で最も恐れられている人間なっていた。町のゴタゴタは全てクラウボ絡みの事件だし、ゴロツキからは慕われるようになった。
バリュアス国の方に取り入ったのもクラウボだった。何をしているのかは詳しくはわからないが、金になる。定期的に人を誘拐してバリュアス国へ連れて行く仕事も引き受けていた。
今回も運良く大人しそうな女の子が馬に乗っていた。しかも、その一行の一番後ろときている。用心が甘いとクラウボは思った。長年の経験でどんな馬だろうと、警戒されずに音も立てず連れてくる技術を身につけていた。
当然旅の一行は手がかりを捜しにこの町へ来るはずだ。もう遅い。既にバリュアス国の船の便は出港したのだ。馬も女もその船に乗っている。
しかし、クラウボは不安になる。女の子を捜しにきたこの一行を脅して町から追い出すつもりだったのだが、全く引かない一行に圧倒されている。それも、堂々と意見を言っているのは子供なのだ。
クラウボは世界の広さを実感し始めたと同時に手を出してはいけないものに手を出したのではと焦りを感じた。
「ねえ、おじちゃん、早く教えてよ」
ボズが再度クラウボに聞いた。バリュアス国行きの船を教えてくれと言うのだ。
この状況で簡単に言えることが不思議でたまらない。余裕を出しているのか、もしくはただの馬鹿なのか。
舐められては下の者に示しがつかない。クラウボは叫んだ。
「馬鹿か、クソガキ。はいそうですかって教えられるわけないだろうが!」
「でも、あのおじいちゃんから情報を聞いた途端、こうなるってことはさぁ~」
クラウボの怒鳴り声に全く耳を貸さずにボズは喋り続けた。
「そうですね。情報は嘘じゃないってことですね。間違いなくアリシェさんはバリュアス国へ連れて行かれた…」
今度は黒い衣を着ている少年ルシアがボズの言葉に続いた。何かを悟ったような物言いである。
こいつもか…とクラウボは思った。
「だからそれがどうした?あ?お前らここから生きて通れると思うの……」
クラウボが言いかけた瞬間、仲間の男の腕があっさりと飛んだ。
「ぎゃあああああああ」
「なっ、なんだ?どうした?」
慌てるクラウボにもう1人の子供、ステューが近寄ってきた。驚くことにその子は片腕でしかも残っている腕が刃に変化している。先程仲間の腕を切り飛ばしたのは、この子供だった。クラウボは青ざめた。
ステューは明らかに怒っていた。例え短い期間だったとはいえ、一緒に旅をしていた者が突然いなくなったのだ。それも、理不尽に見知らぬ国へ連れて行かれた。怒らない理由などない。感情的にステューは攻撃を仕掛けたのだ。
「…バリュアス国への船を出せ。さもないと…ここにいる全員皆殺しだ」
その本気の目を見てクラウボの背筋は凍りついた。自分達がアリシェを誘拐したなどと口が裂けても言えるわけがない。それは自分の死を告白しているようなものだ。
オークランドが腕を切られて泣き叫んでいる男の下へ駆け寄って血止めの治療を始めた。
「すみません。でも、今は本当に切羽詰っているんです。教えてくれませんか?」
オークランドの優しい言葉に若干の癒しを感じたものの、最早断ることができない。
「…わ…わかった…」
クラウボは命令して小さな船を用意させた。一刻も早くこの状態から逃げ出した一心だった。
用意出来た船に、ボズやルシアが乗り込んでいく。
グリークスがクラウボにいきなり話しかけた。
「バリュアス国まで頼むぞ」
そう言ってグリークスは先に乗り込んだ。
「…は?何言ってやがる!」
クラウボは聞き間違えたかと思ったが、間違いではなかった。バリュアス国まで頼むと言われたのだ。それはつまり船に同行してバリュアス国までの航路を依頼されたようなものだった。
「俺達はバリュアス国までの道が正確にわからない。だから頼んでいるんだ。ちゃんと金は払う」
グリークスは当たり前の口調で言った。
クラウボは船の運転が出来ないわけではない。親が漁師であったため船の運転技術は嫌でも知っていた。
「ちょっ…なんで俺が…」
抵抗しかけたクラウボだったが、すぐに諦めた。後ろでステューが目を光らせていたからだ。断ればあっという間に切られそうだ。こんな形で初めて町から出ることになるとは思いもしなかった。
観念して船に乗り込んだクラウボを仲間達は哀れな目で見送っていた。
全員が乗り込み、船はバリュアス国を目指して出港した。
「待ってろよ~!アリシェ~!」
ボズが大きな声で叫んだ。
予想外の展開で一行はバリュアス国へ向かう。
この先にとてつもない暗黒の事態が待ち受けていることも知らずに。
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