目次
自らの命を捨てて突っ込んでいったムトウの姿を確認する暇もなく、ルシアが操る赤馬車は颯爽と城から飛び出た。
目指すは港だ。船に乗り込んで忌まわしきこの国から脱出する。それには追っ手を振りきるしかない。
別の道筋から別の追っ手が現れた。
「ちっ…しつっこいぜ」
グリークスが吐き捨てる。
城の門でブロウフィッシュが何やら叫んでいるのが見えた。
「奴らを捕まえろ!ルリードを取り返せ!早く!早く行くのだ!」
醜い巨体を揺らしながら叫び喚いている。
グリークスはブロウフィッシュを睨む。
「そういえば、ルリードはワシの物だとか言ってたが…。残念だな、ブロウフィッシュ王。ルリードは……」
ブロウフィッシュの耳には届くはずないが、グリークスはブロウフィッシュへ訴えかけるように言った。
「俺の物だ」
オークランドが照れ笑いをする。ここまではっきりと気持ちを出すグリークスが羨ましいとさえ思った。
「追っ手がきたぞ」
外を見ていたステューが言った。すぐにボズへ向き直る。
「この状況だと飛び道具しかない。全てはお前の腕にかかっているぞ。大丈夫か?ボズ」
「任せとけって!」
ボズはステューの不安な言葉に、自信を持って答えた。
「限りなく…不本意だが…」
「だから、お前はいつも一言多いんだよっ!」
ボズは弓を構えた。これまでの戦い、冒険で、弓に関してボズは自信をつけ始めている。大事な人を守ることが出来始めている。今もそうだ。ボズの手にここからの脱出がかかっている。ステューの言葉には嘘はない。ボズの魂は燃え始める。
「ボズ、頼むぞ!」
オークランドが言った。
「任せますよ、ボズ」
遠くからルシアの声も聞こえる。
グリークスはルリードに気をとられすぎである。
「アリシェは俺が見ている」
ステューの一言にまたしても怒りを覚えつつ、ボズの身体はすうっと静かに冷え込んでいくのを感じた。
馬に乗った追っ手がくる。対してボズの矢の数は僅か8本。とてもじゃないが足りない。ボズもそれはわかっている。
けれどボズには確信があった。勝利への確信。何も1本1本矢を当てて倒すことはない。
「いっくぞ~!」
ボズはいきなり馬の足目掛けて矢を放った。
矢は見事に馬に命中。体勢を崩した馬は倒れこむ。その後ろを走っていた馬が倒れこんだ馬に引っかかり同様に倒れる。更に後ろの馬が、その更に後ろの馬が、玉突きのように転がっていった。
「すごいぞ、ボズ!やるじゃないか!」
オークランドが感嘆の声を上げる。
「へへっ」
ボズは完全に狙っていたことだった。常に色々な状況を想像し、どうするべきかを考えていた。取り柄は弓しかない。ボズはそのことを子供ながらに理解していた。
「いくぞ!連続攻撃だ!」
正確に馬の足を捉えて次々に倒し転がしていくボズの腕前に、追っ手の兵士は成す術もなかった。
気が付けば、残り2本を残して、追っ手は全て消えていた。
「おっしゃあ!」
高らかにボズは叫んだ。
「なんだとお!」
ブロウフィッシュは追っ手が全員捲かれたという報告を聞いて怒鳴った。
「じゃあ、ルリードは?ルリードはどうなった?」
兵士は何も答えることができない。
行き先を見たものは誰もいないからだ。ルリードと一緒に逃げたのか、それとも途中で別れたのか、全員が追いつけることができなかったために、その後の状況などわかるはずがない。
「ぐっ、ぐぬぬぬう…おのれ、親殺しのグリークスめえ…。奴ら、許さんぞ、許さん!」
ブロウフィッシュは拳で力いっぱい壁を叩いた。あまりの強さに壁にヒビが入るのと同時にブロウフィッシュの拳の骨にもヒビが入った。
「港だ!着いたよ!」
ボズが嬉しそうに言った。
無事に港に辿り着くことができた。
「見事な扱いですよ、ルシア」
ソツなくこなすルシアの手綱っぷりにオークランドは感心した。
「ありがとう、オークランド」
ほっとした表情でルシアも答える。
「よしっ、さっさとここからオサラバするぞ」
グリークスは再びルリードを抱きかかえようとした。
「いい…1人で立てる」
ルリードの目が覚めていた。
「え…あ、ああ、大丈夫か、ルリード」
「ええ、何とか…」
ルリードは頭を押さえながら立ち上がろうとしたが、裸の姿に気付いて動きが小さくなった。グリークスのかけてくれた服を必要以上に握り締める。
「…これからどうするんだ?ま、まあ良ければ俺たちと一緒にこの国から出るのも選択の1つだ」
グリークスは緊張して話し出した。
「俺としたら、こんな国で利用されているよりも、俺達と一緒にだな…」
「わかった。一緒に行く」
間髪いれずにルリードが返事した。
「え?あ、いいのか」
「そう言った」
「わ…わかった。じゃあ……行こう」
簡単な返事に拍子抜けをしたグリークスは調子を崩された。
「アリシェ、大丈夫かい?さあ、気をつけて……っておい!アリシェから離れろステュー!」
「別に言われるほどくっついていないだろう」
「何を~!こっちから見るとくっつきすぎなんだよ」
いつものボズとステューのやり取りを受け流しながら、ルシアとオークランドが話している。
「ところでルシア、船の操縦だが、さすがに1人は無理だから、2人でやろう。グリークスさんはあんな調子だし」
「そうですね、わかりました」
船もクラウボが操縦していたので、結局は誰かが操縦しなければならない。
「皆さん、船に乗って下さい。乗り次第すぐに出発します」
オークランドの指示でルシア達は船に乗り込んだ。
出発する直前。
「ところで…」
ルリードはグリークスに話しかけた。
「なんだ?」
「…私は物じゃない」
~ 第7章 華麗なる脱出 ~ 終
登録してしまったのですけど。よろしくです。
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自らの命を捨てて突っ込んでいったムトウの姿を確認する暇もなく、ルシアが操る赤馬車は颯爽と城から飛び出た。
目指すは港だ。船に乗り込んで忌まわしきこの国から脱出する。それには追っ手を振りきるしかない。
別の道筋から別の追っ手が現れた。
「ちっ…しつっこいぜ」
グリークスが吐き捨てる。
城の門でブロウフィッシュが何やら叫んでいるのが見えた。
「奴らを捕まえろ!ルリードを取り返せ!早く!早く行くのだ!」
醜い巨体を揺らしながら叫び喚いている。
グリークスはブロウフィッシュを睨む。
「そういえば、ルリードはワシの物だとか言ってたが…。残念だな、ブロウフィッシュ王。ルリードは……」
ブロウフィッシュの耳には届くはずないが、グリークスはブロウフィッシュへ訴えかけるように言った。
「俺の物だ」
オークランドが照れ笑いをする。ここまではっきりと気持ちを出すグリークスが羨ましいとさえ思った。
「追っ手がきたぞ」
外を見ていたステューが言った。すぐにボズへ向き直る。
「この状況だと飛び道具しかない。全てはお前の腕にかかっているぞ。大丈夫か?ボズ」
「任せとけって!」
ボズはステューの不安な言葉に、自信を持って答えた。
「限りなく…不本意だが…」
「だから、お前はいつも一言多いんだよっ!」
ボズは弓を構えた。これまでの戦い、冒険で、弓に関してボズは自信をつけ始めている。大事な人を守ることが出来始めている。今もそうだ。ボズの手にここからの脱出がかかっている。ステューの言葉には嘘はない。ボズの魂は燃え始める。
「ボズ、頼むぞ!」
オークランドが言った。
「任せますよ、ボズ」
遠くからルシアの声も聞こえる。
グリークスはルリードに気をとられすぎである。
「アリシェは俺が見ている」
ステューの一言にまたしても怒りを覚えつつ、ボズの身体はすうっと静かに冷え込んでいくのを感じた。
馬に乗った追っ手がくる。対してボズの矢の数は僅か8本。とてもじゃないが足りない。ボズもそれはわかっている。
けれどボズには確信があった。勝利への確信。何も1本1本矢を当てて倒すことはない。
「いっくぞ~!」
ボズはいきなり馬の足目掛けて矢を放った。
矢は見事に馬に命中。体勢を崩した馬は倒れこむ。その後ろを走っていた馬が倒れこんだ馬に引っかかり同様に倒れる。更に後ろの馬が、その更に後ろの馬が、玉突きのように転がっていった。
「すごいぞ、ボズ!やるじゃないか!」
オークランドが感嘆の声を上げる。
「へへっ」
ボズは完全に狙っていたことだった。常に色々な状況を想像し、どうするべきかを考えていた。取り柄は弓しかない。ボズはそのことを子供ながらに理解していた。
「いくぞ!連続攻撃だ!」
正確に馬の足を捉えて次々に倒し転がしていくボズの腕前に、追っ手の兵士は成す術もなかった。
気が付けば、残り2本を残して、追っ手は全て消えていた。
「おっしゃあ!」
高らかにボズは叫んだ。
「なんだとお!」
ブロウフィッシュは追っ手が全員捲かれたという報告を聞いて怒鳴った。
「じゃあ、ルリードは?ルリードはどうなった?」
兵士は何も答えることができない。
行き先を見たものは誰もいないからだ。ルリードと一緒に逃げたのか、それとも途中で別れたのか、全員が追いつけることができなかったために、その後の状況などわかるはずがない。
「ぐっ、ぐぬぬぬう…おのれ、親殺しのグリークスめえ…。奴ら、許さんぞ、許さん!」
ブロウフィッシュは拳で力いっぱい壁を叩いた。あまりの強さに壁にヒビが入るのと同時にブロウフィッシュの拳の骨にもヒビが入った。
「港だ!着いたよ!」
ボズが嬉しそうに言った。
無事に港に辿り着くことができた。
「見事な扱いですよ、ルシア」
ソツなくこなすルシアの手綱っぷりにオークランドは感心した。
「ありがとう、オークランド」
ほっとした表情でルシアも答える。
「よしっ、さっさとここからオサラバするぞ」
グリークスは再びルリードを抱きかかえようとした。
「いい…1人で立てる」
ルリードの目が覚めていた。
「え…あ、ああ、大丈夫か、ルリード」
「ええ、何とか…」
ルリードは頭を押さえながら立ち上がろうとしたが、裸の姿に気付いて動きが小さくなった。グリークスのかけてくれた服を必要以上に握り締める。
「…これからどうするんだ?ま、まあ良ければ俺たちと一緒にこの国から出るのも選択の1つだ」
グリークスは緊張して話し出した。
「俺としたら、こんな国で利用されているよりも、俺達と一緒にだな…」
「わかった。一緒に行く」
間髪いれずにルリードが返事した。
「え?あ、いいのか」
「そう言った」
「わ…わかった。じゃあ……行こう」
簡単な返事に拍子抜けをしたグリークスは調子を崩された。
「アリシェ、大丈夫かい?さあ、気をつけて……っておい!アリシェから離れろステュー!」
「別に言われるほどくっついていないだろう」
「何を~!こっちから見るとくっつきすぎなんだよ」
いつものボズとステューのやり取りを受け流しながら、ルシアとオークランドが話している。
「ところでルシア、船の操縦だが、さすがに1人は無理だから、2人でやろう。グリークスさんはあんな調子だし」
「そうですね、わかりました」
船もクラウボが操縦していたので、結局は誰かが操縦しなければならない。
「皆さん、船に乗って下さい。乗り次第すぐに出発します」
オークランドの指示でルシア達は船に乗り込んだ。
出発する直前。
「ところで…」
ルリードはグリークスに話しかけた。
「なんだ?」
「…私は物じゃない」
~ 第7章 華麗なる脱出 ~ 終
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