「わやくちゃや…」
何十年ぶりに聞いたにも関わらず、
妙に懐かしくしっくりくる言葉だった。
夕方のニュースで聞こえてきたその単語は能登の方言で、
めちゃくちゃというニュアンスなのだが、
何十年も聞いていないはずのその単語が懐かしく、
いまの状況にしっくりきて、思わず動きが止まった。
父は輪島出身である。といっても、ほぼ珠洲市に
近い山奥に生家がある。
集落からさらに車で20分程度山を登っていくとあるその家に、
夏になるとよく家族で遊びに行った。目の前は山を切り開いた
棚田がひろがっており、真っ青な空と静かにそよぐ稲穂が印象深い。
いまの自分を形成する大切な思い出だ。
テレビには見慣れた道路が板チョコのように割れている映像が
流れており、まるで現実感がない。わやくちゃという言葉が
ぴったりだった。
このような形で慣れ親しんだ方言が全国区のニュース番組から
流れてくる日がくるとは。ニュースに映る人々が何気なく
口にする単語や話し方が、とにかく懐かしくて悲しい。
1日でもはやく…もっと暖かくなれば…
そんなことを祈ることしかできない。
今はとにかく前だけ見て生活をするしかない。
少しずつ、日常を取り戻す努力をしていきたい。
(1月29日 冬雨 記)