20万人規模の人口を有しながら多摩ニュータウンの人工的な街中は人の気配が希薄だ。だがその風景の背後には50余年に渡る人の営みの機微が無形の歴史として流れている。そんな街が醸し出す「時間と記憶の余白」が映画の“ゆとり”となって通底する。ほの見えるのは3人の女性の心の機微。
失業中でありながら、一見マイペースで余裕ありげな独身中年女性の知珠(兵藤公美)だが、彼女は確実に過去の「実績や関係」と「残りの時間」を失いつつあることにまだ気づいていないようだ。地元のガスの検針員としてルーティンをこなすアラサー女性の早苗(大場みなみ)は、公私ともに「安定のなかに宿る停滞」の気配に気づき始めているようだ。幼時から地元で育った女子大生の夏(見上愛)は、まだ人生のとば口にいながら「その地の抜き差しならない呪縛」を抱え込んでしまったようだ。
私の感想はすべて「ようだ」で結ばれる。清原惟監督は、そんな"機微"をニュータウンの「時間と記憶の余白」を使ってスクリーンのなかにほのめかす。PFF出身の32歳、長編は二作目だそうだ。次の作品が楽しみです。
(3月10日/ユーロスペース)
★★★★
【あらすじ】
東京郊外の広大なニュータウン。ある春の日。失業中の独身中年女性・知珠(兵藤公美)は、友人から届いた転居ハガキを頼りに道に迷いながら旧友の家を探していた。いつものように担当エリアをまわていたガスの検針員の早苗(大場みなみ)は団地内で行方不明になっていた老人(奥野匡)に遭遇する。地元育ちの大学生の夏(見上愛)は、ある届け物をするために一年前に亡くなった男友達の母親のもとを訪ねるのだった。今を生きる世代の異なる3人の女性に流れる時間が、入居開始から50余年を経た多摩ニュータウンに生きた人々の時間と記憶に重ねて描かれる。清原惟監督の長編第二作。(116分)