そんなものにかまっていられないのだろう。リジー(ミシェル・ウィリアムズ)の衣服はルーズで野暮ったい。所在なげに立ち尽くす寸胴体型の後ろ姿から、ああこの人は善い人に違いないという気配が漂ってくる。こういう真面目で不器用な人ってとても人間的だ。だけど平凡で真面目な人って最も映画の主人公にしにくいキャラクターじゃないだろうか。
ライバル(だとリジーは意識している)ジョー(ホン・チャウ)のマイペースぶりに、リジーは苛立っているようで結構冷静で、彼女はあくまでも自分のペースを取り戻そうとする。そんなリジーとジョーの関係に割り込んだ「傷ついた鳩」の存在の先にやがてリジーの家族模様が見え始める。
元の陶芸家で引退した父親(ジャド・ハーシュ)の脱アート(下世話な友人たち)の達観。反対にビジネスウーマンとして美術学校の経営に携わる母(メアリーアン・プランケット)の現実志向。引きこもりアーティストとしていささか常軌を逸した兄(ジョン・マガロ)のマイペースぶり。
そんなエキセントリックな家族のなかで、自然と接着剤的にふるまう主人公リジーの真面目さが愛おしい。いわゆる「家族の存在」は崩壊しているようでいてリジーをハブにして「家族の関係は」つながっているのだ。
ささやかな爽快感を経て日常へと戻るラストがとても心地よかった。
(1月11日/ヒューマントラスト渋谷)
★★★★★
【あらすじ】
母校の美術学校で事務職をしながらキャリを積んでいる彫刻家のリジー(ミシェル・ウィリアムズ)は大切な個展を控えていた。作品の制作に集中したいのだが周りの雑事が邪魔をする。特に、彼女の家の大家でもあり隣りに住んでいるインスタレーションアーティスのジョー(ホン・チャウ)が気になってしかたない。着々と頭角を現し注目を集めるジョーのマイペースぶりにリジーは焦りを募らせイライラ。そんな日々、リジーはいわくつきの"怪我をした鳩"の世話をジョーから押し付けれるように頼まれてしまう。アーティストたちが行き交うキャンパスを舞台にして作風の新境地をみせるケリー・ライカートの脚本(共同)/監督作。(106分)