ぽんしゅう座

優柔不断が理想の無主義主義。遊び相手は映画だけ

■ ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ (2023)

2024年07月22日 | ■銀幕酔談・感想篇「今宵もほろ酔い」

これから1970年代が始まる年末の物語。画面の質感。シーン構成とカッティング。楽曲挿入のタイミング。映画のトーンも70年代米映画のルックが踏襲される。懐かしさとともに『真夜中のカーボーイ』、『ある愛の詩』、『スケアクロウ』のような、あの時代特有の鬱屈へ向かう予感がしていた。

登場人物たちのぎくしゃくした人間関係はしだいにユーモアをおびはじめ、さらに70時代が内包していた過去の“つまづき”から生じた苛立ちや不安が、個人的な“事情や思い”として浮き彫りにされていく。だがその描写はつつましく、ことさらに深刻ぶったり、過度な感傷に溺れたり、まして取り返しのつかない事態など招かない。

あくまでもアレクサンダー・ペインの視座は「今(2020年代)」にあり、登場人物たちが抱えた傷はすでに乗り越えた「過去(70年代)」の記憶(歴史)でしかにのだ。それは「古傷」でしかなく、むしろ我々が勝ち得た“希望”の種として、老教師(ポール・ジアマッティ)と若者(ドミニク・セッサ)と戦争遺族(ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ)に共感とともに共有される過去の記憶なのだ。

私が危惧した「70年代的顛末」の後味の悪さは見事に裏切られ、我々は“ある暖かさ”を持って三人を見守ることになるのだ。これを安易とう言うなかれ。救いなのだ。

(7月13日/kino cinema 新宿)

★★★★

【あらすじ】
1970年12月。米ボストン近郊の全寮制男子校のバートン校では、クリスマス休暇を迎え生徒たちが帰宅の準備に沸き返っていた。そんななか、家に帰れない居残り組の監督役に古代史の教師ポール(ポール・ジアマッティ)が任命された。ポールは偏屈で融通がきかず生徒からの評判は最悪。校長や教師仲間からもうとまれていた。そんな最悪教師と、成績は良いが仲間たちから浮いた存在でトラブルが絶えない生徒アンガス(ドミニク・セッサ)と、ベトナム戦争で一人息子を亡くしたばかりの黒人シングルマザーの料理長メアリー(ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ)が年末の年越し休暇を過ごすことに。D・J・ランドルフがアカデミー助演女優賞受賞(133分) 

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